第百三十七話 ヤマタノオロチ調査、ウチ等が受けるで!
ヤマタノオロチ調査を正式に受ける為。
俺とモカは冒険者ギルド尾張支部に向かう事にする。
「天空城ログイン」
今度は俺が天空城にログインして、空を数秒飛んだら、もう尾張の街だ。
まあ今の俺とモカなら、自在疾走で空中を走ってもすぐ着いただろうけど。
おっと、尾張は多目的エリアと戦国エリアの境界線上に位置してる。
だから戦国エリアの尾張の国と、多目的エリアの尾張の街は別物。
そして今回、俺達が向かうのは、当然ながら多目的エリアの尾張の街だ。
ちなみに戦国エリアの尾張の国と区別する為、マルチ尾張と呼ぶ方が多い。
で、マルチ尾張の周囲は、やっぱり城壁で囲まれている。
モンスターの侵入を防ぐには、城壁が1番手っ取り早いからだ。
街の造りは城下町スタイル。
冒険者ギルドを中心に、雑多な街が広がっている。
俺は、そんな冒険者ギルド尾張支部の前に転移。
入り口を潜ると、さっそく受付カウンターに向かうが。
「ヤマタノオロチ調査、ウチ等が受けるで!」
俺が口を開くより早く、モカが大声を上げた。
あ~~モカ、こういうトキは、まず冒険者カードを提示するんだ。
でないと。
「はぁ? ヤマタノオロチ調査は、アンタみたいな子供が受けれるような甘い仕事じゃないわ」
ほら、こういう扱いを受ける事になる。
ちなみに、そう答えたのは凄い美人だけどキツイ感じの受付嬢。
明らかに俺とモカを見下しているのが分かる。
「はぁ、たまにいるのよね。自分に実力も分からず、身の程知らずな依頼に手を出して早死にする初心者が。もっと実力をつけてから出直してらっしゃい。30年くらい、死に物狂いで鍛えてから」
シッシッと手を振る受付嬢に、冒険者から歓声が飛ぶ。
「かあ――っ、相変わらずキビしいねェ、レモンちゃん」
「でも、そういうトコもイイんだよなァ」
「顔もスタイルもサイコーだもんな」
「1晩でいいから付き合ってくれ――!」
へえ、レモンっていうのか、このキツイ受付嬢。
でも見た目がイイから人気はあるみたいだな。
声を上げてる冒険者のレベルは低いみたいだけど。
「オレも罵られてぇ――!」
……なんかヤバいヤツも交じってるし。
ま、コイツ等は無視して話を進めるか。
「俺達は……」
京の都支部のグラッグさんに頼まれて来た、と言いかけたトコで。
「なんの騒ぎかね」
カウンターの奥からガッシリした体の男が現れた。
年齢は40歳くらいで、かなり鍛えた体をしてる。
そのガッシリした男に。
「あ、ギルドマスター、この2人がヤマタノオロチ調査の依頼を受けたいと言い出したので、身の程を分からせていた所です」
レモンが媚びた声を出した。
なるほど、弱い者をバカにし、強い者に媚びまくるタイプか。
「ほう、若造にガキがか。それは確かに身の程知らずだな」
このギルドマスターも同じタイプらしい。
俺とモカに、ゴミを見る目を向けてきやがった。
はぁ~~、ナンかやる気が失せてきたぞ。
もうイイや、調査は勝手にしてしまおう。
というコトで。
「モカ。帰ろうぜ」
俺はモカを連れて引き返すコトにした。
のだけど、そこで。
「まあまあギルドマスター。やる気がある冒険者に経験を積ませるのも先輩の仕事でしょう?」
25歳くらいの男が声をかけてきた。
爽やかなイケメンで、タイプの違う4人の美女を引き連れている。
まるで勇者の見本みたいな男だ。
「どうだいキミ達。ボクの言うコトに従うのならヤマタノオロチ調査に同行させてあげるよ。ただしキミ達の報酬は2割だ。どうする?」
そう言うとイケメンはニコリとほほ笑む。
「ボクはワイト。レベル99の魔法騎士だ。で、筋肉質だけど女性らしい美しさを失っていないのが戦士のゾネス。魅惑的な美人が魔法使いのザード。猫みたいに小柄な美人が狩人のライザ。ホンワカした感じの美少女が僧侶のモーム。全員のレベルが99の、尾張ギルド専属パーティーだ」
ってコイツ、よく照れもせずにそんなコトが言えるな。
大したヤツだと感心すべきだろうか?
それともココは、呆れるトコだろうか?
ま、いいか。
俺はちょっと考えた後でワイトに頷く。
「冒険者初心者のロックとモカです。その条件でお願いします」
「え、ちょっとロックにぃ……」
俺の背中をつつくモカを無視して、俺はワイトに聞いてみる。
「でも俺達みたいな初心者を同行させてイイんですか? 全員がカンストしてるA級パーティーなのに」
「いいのさ。さっき言ったろ? キミ達みたいにガッツのある冒険者に経験を積んで欲しいのさ。おっと、その前に。キミ達は転生者かい?」
鑑定したら1発で分かるけど、さすがに勝手に鑑定しないらしい。
「俺は転生者ですけど、この子は違います」
「へえ、そうなんだ。ま、やる気のある新人なら、どっちだって構わない。これから立派な冒険者になれるように、しっかり経験を積んでくれ」
「分かりました。改めて宜しくお願いします。で、出発はいつですか?」
「明日の朝8時に、冒険者ギルドを出発する」
「了解です。じゃあ俺達は、さっそく出発の準備をする事にします」
「ああ、何が必要か、よく考えて準備するんだ。初心者にとって、それも大事な勉強だから」
「はい。では明日の8時に冒険者ギルドに来ます」
俺はワイトに頭を下げると、冒険者ギルドを後にした。
と、冒険者ギルドを出ると同時に。
「なあロックにぃ。どういうコトなん?」
さっそくモカが俺に聞いてきた。
「ヤマタノオロチ調査ちゅうんは、尾張支部がロックにぃを名指しで依頼してきたんやろ? なんで自分がそうやって言わへんかったん?」
「それはグラッグさんから別に頼まれたコトがあったからさ」
「頼まれたコト?」
可愛らしく首を傾げるモカに、俺は耳打ちする。
「この尾張支部に悪い噂があるらしいんだ」
「悪い噂ちゅうと?」
「新人冒険者の死亡率が異常に高いのと、ギルドメンバーに妙に金回りのイイ者がいるらしいんだ。その調査を頼まれたってワケさ。もし不正が行われてたら冒険者ギルドの信用にかかわるから、ってな。だから俺は、ワイトの提案に乗るコトにしたんだ。アイツ等は俺とモカを新人だと思い込んでるから」
「ま、少なくともウチ、ギルドマスターと受付は気に入らんわ。京の都支部とはエラい違いやで」
フン! と鼻を鳴らすモカに、俺は黒い笑みを浮かべる。
「そうだな。でもイヤなヤツが相手なら、徹底的にやれる。陰に隠れて悪いコトをしてるカスを退治するのって、ちょっとワクワクしないか?」
「せやな。ちょっと、ううん、結構楽しそうや」
俺の言葉に、モカも黒い笑みで返したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




