第百三十五話 天空城ログイン
「なあロックにぃ。ウチ、天空の城のサブマスターになったちゅう話しやけど、実際のトコ、ウチはナニが出来るようになったん?」
「そうだな、じゃあ実際に操作してみるか。モカ、天空城ログイン、って言ってみるんだ」
「天空城ログイン? あ!」
疑問形だったがログインには成功したらしい。
モカがビックリした顔になっている。
まあ、それも仕方ないと思う。
ログインしたら意識が天空城とシンクロするのだから。
具体的に言うと、自分の体が天空城になったように感じる。
なのに自分の本当の体は、ちゃんと今まで通り動かせる。
1つの意識で2つの体を操るような不思議な感覚。
それが天空城ログインだ。
「へ~~、まるで自分の体みたいや、考えただけで色々なコトが出来るで。ってこの天空城ちゅうヤツ、物凄い数の武器を装備しとるやん! しかも、とんでもない威力の!!」
大声を上げるモカに、俺は当然といった顔で頷く。
「そりゃそうだ。天空城は全世界を敵に回しても勝てるんだから」
天空城の武装を、いくつか紹介しよう。
発射速度=毎分12万発のレーザーバルカン。
マッハ20で飛行する極々超音速ミサイル。
様々なサイズのレールガン。
粒子加速砲にプラズマ砲。
ガンマ線バースト砲に至っては、1発で地上が壊滅する。
「チート過ぎるんとちゃう!?」
大声が絶叫に変わったモカに、俺は大真面目な顔で頷く。
「ああ、とんでもチートだな。だから限界突破Lv4が手に入るダンジョン=竜宮城からでしかたどり着けないようになってるんだ。中途半端な力しか持たない者が世界を支配できる力を手に入れないように」
「中途半端ちゅうと?」
「戦闘力も勿論だけど、ログインで重要なのは知性の値だな。なにしろ天空城がもたらす感覚は大量だ。その感覚の洪水を処理しようと思ったら、限界突破Lv3カンストの知性以上の処理能力が必要だ。もし知性のステータス値が低いと、脳が焼き切れてしまうからな」
「ログインって、そないに危険なモンやったん!?」
「そりゃそうだ。簡単に世界を支配できる力なんだから」
「世界を支配って、ロックにぃ、そないなコトする気なん?」
急に声が小さくなったモカに、俺は微笑む。
「そんなコトしても面倒くさいダケさ。俺の目標は、この世界を楽しむコト。だから万が一に備えた保険みたいなモンだ。天空城のマスターになったケド、天空城の武器を使うコトは無いだろうな」
「はぁ~~~~、それを聞いて安心したわ。ま、ウチには天空城の武器を操るコトなんぞ出来ひんさかい、どないしょうもないケド」
「出来るぞ」
「へ?」
キョトンとするモカに、俺は説明してやる。
「竜宮城で『精密射撃』とか『移動狙撃』とか『動態射撃』とか『連射』とか『複数武器使用』とか、色々な射撃スキルを手に入れたろ? アレって天空城の武器を使いこなす為に必要なスキルなんだ。というか竜宮城は天空城のマスターになる為に必要なスキルを手に入れる為の施設でもあるんだ」
「初めて聞いたんやけど!?」
「そりゃ知ってる人間なんて存在しないハズの知識だからな」
平然と言い放つ俺に、モカは暫くプルプルと震えた後。
「そういやロックにぃ、物凄い知識を持つ転生者やったな。ここまで凄いと、もう笑うしかないわ」
そう言って、大きな溜め息をついた。
「で、ロックにぃ。天空城のコトは置いといても、ウチ等はものゴッツウ強くなったんやん? で、これからどないするん?」
「そうだな。とりあえず今日の都に戻って、グラッグさんにヤマタノオロチ調査を正式に受けると報告してから出雲支部に向かおうか」
そして俺はモカにニヤリと笑ってみせる。
「さあモカ。天空城の初運転だ。このまま京の都の上空に向かってくれ」
「よっしゃ、ほなら京の都の上に飛んで行くわ! ってエエ!? もう着いてもうたで! なんちゅうスピードなんや!」
わずか数秒で京の都に到着したコトに、モカが驚いてる。
……困ったヤツだ。
ログインしたときに性能をシッカリ把握しなかったらしい。
後で時間を作って、隅々まで天空城のコトを学ばせるとするか。
ま、とにかく今はグラッグさんに会いに行こう。
「モカ。俺とモカを京の都の近くに転送してくれ」
「転送? あ、コレやな」
モカがそう言った直後。
俺とモカは冒険者ギルド京の都支部の正面に立っていた。
おい、いきなりギルドの正面に転移するのかよ!
と言いたいけど、転移のスキルを使える冒険者もいるから、まぁいいか。
なんて俺が考えてる間に。
「グラッグのおっちゃん、ムサシのおっちゃん!」
モカはギルドに飛び込んでいた。
「あの依頼を受けるために、今から出発するで!」
「そうか! 取り掛かってくれるのか!」
パァっと顔が明るくなったグラッグさんに、俺は報告する。
「ヤマタノオロチと戦えるだけの強さを身に付けました。だから冒険者ギルド出雲支部に向かいます」
「ヤマタノオロチと戦えるだけの力!? ロック、オマエまた強くなったのか」
複雑な笑みを浮かべるグラッグさんに、モカがグッと親指を立てる。
「限界突破Lv4取得したんや!」
その瞬間。
『え?』
シィン……。
ギルド中が凍り付いた。
そして数秒後。
『ええええええええええええ!!!!?』
ギルドの建物が揺れる程の絶叫が鳴り響いた。
「限界突破Lv4!?」
「マジかよ!」
「そんなモン、存在するのか!?」
「限界突破Lv3ですら伝説だぞ!」
「いや、限界突破Lv2ですら手に入れたら英雄だぞ!」
「ってか本当に限界突破Lv4を手に入れたのか!?」
「貴様、ロックとモカがウソついてる、って言うのか!?」
「手に入れてなかったらヤマタノオロチ調査なんか引き受けないだろ!」
大混乱の冒険者たちに俺は苦笑すると。
「なら俺を鑑定してイイですよ」
そう大声を出した。
『じゃ、じゃあ遠慮なく』
そして冒険者達と、グラッグさんは鑑定を発動。
『マジかよ……』
冒険者ギルド内は、またしても凍り付いたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ