第百三十三話 15歳でババアになるのはイヤや――!
「わわわ!」
モカが慌てて玉手箱を避ける。
しかし玉手箱はモカの足元を狙って投げられたモノ。
たとえ躱しても。
バキャッ!
床に当たって、簡単に砕け散り。
ボフッ!
大量の煙が放出された。
「イヤや――! 15歳でババアになるのはイヤや――!」
叫ぶモカを、海王龍人があざ笑う。
「後悔しても遅い。これでお前は50歳、年老いた。とはいえ15歳なら65歳になったとしても、まだ戦える年齢である事は確か。ここはもう50年、年老わせておくか。では老衰で死ぬがよい!」
そして2つ目の玉手箱が投擲されて床に命中。
更に煙を浴びて、モカは涙声を漏らす。
「ああウチ、老衰で死ぬんかいな……あないなコトも、こないなコトも、まだやってへんのに……」
ペシッ!
「あた!」
俺に叩かれた頭を抱えるモカに、教えてやる。
「モカ、心配いらないぞ」
そして俺は英雄神の万斬太刀を抜き放つと。
「ほらモカ。良く見てみろ」
鏡の様な刀身に、モカの姿を映して見せてやる。
「どうだ? 15歳のモカのままだろ?」
「……ホンマや……今まで通りのウチや!」
顔をペタペタと触っているモカに。
「そんなバカな! 玉手箱の煙を浴びたら50歳、年老いる筈だ!」
海王龍人が叫びながら、更に玉手箱を投げつける。
そして玉手箱は床に激突、老化の煙をまき散らすが。
「こうなったら、只の煙やな。ちゅうか水の中やさかい目に染みるコトもあらへんさかい、ナンの害もあらへんわ」
老化しないコトに気付いたモカは、余裕の視線を海王龍人に向ける。
「それ、ホンマに玉手箱なん? ひょっとしたら、パチモンつかまされたんとちゃうの?」
「そんな筈あるか! この玉手箱はワシが魔力で生み出したもの! 煙を浴びた者の時間を50年経過させる時空兵器なんだ! なのに何故キサマは年を取らないのだ!? 何故老衰で死なない!?」
海王龍人が、いい具合に取り乱している。
よし、今のうちに倒してしまおう。
というコトで、俺は海王龍人に向かって猛ダッシュ。
「な!?」
目を見開いて海王龍人が投げ放ってくる宝箱を無視し。
「くらえ」
俺は海王龍人にニヤリと笑ってみせると。
「ご!?」
海王龍人の口の中にFNファイブセブンを突っ込み。
パンパンパンパンパンパン!
口の中から脳を狙って、銃を撃ちまくる。
そして全弾、打ち尽くしたトコで。
ずるずるずる……。
海王龍人は、力なく床に崩れ落ちたのだった。
「え~~と、ロックにぃ。まさかラスボス、倒してもうたん?」
おずおずと聞いてくるモカに、俺はイイ笑顔で答える。
「だから言ったろ? ビックリする程あっけなく終わるって」
「そらそうやけど、まさかこないに簡単に倒せるやなんて思わへんかったわ」
ほえ~~、とため息を漏らすモカに、俺は付け加える。
「自慢の時間攻撃が無効だったコトに焦って、玉手箱をムキになって投げてきたから簡単に倒せたケド、まともに戦ったら厄介な敵だったのは間違いない。ま、新しい鎧を装備してるから、傷を負うコトは無かっただろうけど」
「そういやロックにぃ。あの玉手箱、ホンマに50年、年取るん?」
「ああ。50年も老化させる、強力な時間攻撃だ」
「ほならナンでウチ、玉手箱の煙を浴びたのに年取らへんかったん?」
「いや、ちゃんと50年、老化してるぞ」
「へ?」
目をパチクリさせるモカに、俺は微笑む。
「桃源郷で、ステータスをアップさせる為に仙桃を沢山食べたろ? でも仙桃の効果はステータスをアップさせるダケじゃない。1つ食べると100年、寿命が延びるんだ」
「1個で100年!? ほならウチ……」
モカより早く、俺が計算する。
「モカは1万2千個食べたから120万年、寿命が延びてる。例え玉手箱を100個投げつけられても、大したダメージにならない」
「120万年? ウチ、いつのまにか、そないなコトになっとんたんや……」
モカが茫然とした瞬間。
パァンパランパパパパァンパランパパパラパパラパパラパパラパパパァァン!
いままで聞いた事もないほど壮大なファンファーレが鳴り響き。
《スキル『限界突破Lv4』を手に入れました。これによりステータスの限界値が撤廃されました》
脳内でアナウンスが響き、俺とモカは念願の『限界突破Lv4』を入手した。
うん、これでステータス値をカットされるコトがなくなった。
つまり無限に強くなっていけるワケだ。
そしてファイナルクエストには、まだ沢山のイベントが隠されている。
そのイベントをクリアしていけば、自然と強くなっていくだろう。
もちろん、この世界を楽しみながら。
おっと、手に入れたのは『限界突破Lv4』だけじゃない。
《スキル『時空攻撃無効』を手に入れました》
玉手箱攻撃を食らった所為だろう。
時間攻撃と空間攻撃を完全に無効化するスキルまで手に入れた。
これで時間停止攻撃や空間断裂攻撃なども無効に出来る。
かなり凄いスキルが手に入ったぜ。
でも、まだ竜宮城イベントは終わりじゃない。
続いて海王龍人がいたカウンターの後ろの壁が音を立てて開き。
「うわ! ものゴッツいゴルドや!」
モカが叫んだように、そこは竜宮城の金庫。
日本の国家予算に匹敵する額の金貨が収められている。
つまり俺達は、100兆ゴルドを手に入れたワケだ。
「うわ~~。モンスターの魔石が、どうでも良くなるゴルドやなぁ~~」
口から魂が出かかってるモカを、俺はツンと突く。
「竜宮城クリアの報酬だ。半分こにするぞ」
「……これ夢やないよね? ホンマのホンマよね? いつのまにかウチ死んでもうとった、ちゅうオチやあらへんよね?」
まだ現実に戻り切れてないモカの尻をピンと指で弾く。
「あだ――!」
尻を抱えて飛び上がるモカに、俺は微笑む。
「ほら、夢じゃないだろ? はやくゴルドを回収して陸へ戻ろうぜ」
「うん……ちゅうコトは……ウチ、大金持ちや――!!」
モカは涙目から一変。
今度は目をキラキラさせながら大量のゴルドをマジックバッグに収納する。
こうして俺とモカが50兆ゴルドずつ、マジックバッグに入れたトコで。
「この宝物庫には、ボーナスアイテムも用意されてるんだ」
俺はそう言って、宝箱の1つを開けた。
「どんなスキルでもカンストさせるレアアイテムだ。これを使って『神威HP強化』と『神威HP強化』をレベル99にするんだ」
「へえ、そないに便利なモンがあるんかいな。でもこれで全部のステータス値を神威強化できたワケや」
HPとⅯPの神威強化をカンストさせたモカが、最高の笑顔を俺に向けてきた。
けど実はまだ、やるコトが残ってるんだ。
というかコレは竜宮城クリアとは関係ないコト。
だけど保険の意味で、手に入れておくコトにする。
なんてのは建前。
実は、ここからが竜宮城の最重要イベントなんだ。
というコトで俺は。
「モカ。ちょっとだけ待っててくれ」
俺はそう言うと、ズラリと並ぶ書架に向かったのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ