第百二十三話 アレに見覚えはないか?
モカが俺に真剣な顔で聞いてくる。
「なあロックにぃ。桃源郷で手に入れた『天域HP強化』ちゅうスキル、手に入れたん覚えとる?」
「もちろんだ」
「それってLv×800万、HP値を増加させる、ちゅうスキルやったよね」
「そうだ」
「ロックにぃとウチは、そのスキル『天域HP強化』をLv9に進化させとるさかい、Hpに7200万が上乗せされとるんよね? 実際のHPは限界突破Lv3の上限の9999万9999に抑えられとるけど」
「そうだ」
「ついでに言うと、力・耐久力・魔力・魔耐力・知性・速さも『天域強化』のスキルで7200万が上乗せされとる状態でエエんよね? で、これも限界突破Lv3までしか習得しとらへんさかい、どのステータス値も9999万9999に抑えられてしもうとる」
「そうだ」
「ちゅうコトは『天域強化』は限界突破Lv4を入手しないと十分に力を発揮しぃへんスキル、ちゅうコトでエエんよね?」
「そうだ」
なんか俺、さっきから「そうだ」としか言ってないな。
「この『神威HP強化』って、どういうスキルなん?」
「そりゃ『天威HP強化』の上位スキルさ。Lv×10億が上乗せされる」
「10億ぅ!?」
大声を出すモカに、俺は付け加える。
「しかもLvは99まで上げれる」
「99!? ちゅうコトは、カンストさせると……」
おや、モカが目を白黒させてるぞ。
これはこれで楽しいけど、これじゃ話しが進まない。
さっさとカンストした数値を教えるか。
「だから990億アップさせるコトが出来るぞ。運以外の全てのステータス値を」
「990億ぅ……」
おいモカ、今度は口から魂が出かかってるぞ。
ふう、全く困ったもんだ。
まだステータスが990億、増えたワケじゃないんだから。
だから俺はモカに言い聞かす。
「なあモカ、神威HP強化をレベル99に育てるコトは出来たら、HPを990億に出来るってコトであって、まだHPが990億になったワケじゃないぞ」
「は! せやった! これからが大事なんや!」
お? 思った以上に正気に戻るのが早かったな。
「よっしゃ、ドンドン『神威HP強化』のレベルを上げたるで!」
ほう、そういう結論になったか。
まあ元気なのは良いコトだ。
「じゃあ2人で『神威HP強化』を取得して、攻略を再開するか」
「うん!」
というコトで俺とモカは『神威HP強化』を取得した。
もちろん今は、まだ何の効果も無い。
でもこれで、限界突破Lv4を取得したら一気にHPがアップするぞ。
そしてこのフロアには、まだまだ沢山の宝箱が設置されている。
というコトで俺は。
「準備はいいか?」
モカに笑顔を向けると。
「もちろんや!」
元気に返事するモカと共に、次の扉を開いた。
が、今度は襲い掛かってくるゾンビはいなかった。
というか、襲い掛かってこないと知ってるから無造作に扉を開いた。
でも、敵がいないワケじゃない。
だから。
「なんや、ゾンビはおらへんのか」
能天気に足を踏み入れようとするモカの襟を掴んで止める。
「くえッ!」
そして愉快な声を上げたモカの鼻をピンと弾く。
「あだ――! ロックにぃ、なにするん!?」
鼻を押さえるモカに、俺は絨毯を指さす。
「絨毯の模様に紛れて見えにくいけど、アレに見覚えはないか?」
「アレ?」
最初は何のコトか分からなかったようだが。
「ああ! アカエイかいな!」
パン!
モカは叫ぶと同時にⅯP7を発射。
そして、その弾丸が命中した絨毯がズズッとズレた。
絨毯の模様に擬態したアカエイのゾンビだ。
気付かずに進んでいたら、尾にある棘に刺されていたトコだ。
もちろんアカエイの棘ごとき、ちょっと痛いだけ。
致命傷どころか、大したダメージじゃない。
でも、そうやって集中力が散漫になってたら。
ブワッ!
壁に擬態したタコの魚人ゾンビが襲い掛かって来るのを食らってしまうかも。
というか、それを狙ってのコンビネーション攻撃だ。
知ってる人は知ってるだろうが、タコはカニや貝すら噛み砕く。
カラストンビとも呼ばれる、鋭い嘴みたいな口で。
そして、このカラストンビの攻撃力は3億。
鎧に覆われたトコならともかく、首に噛み付かれたら終わりだ。
でもタコの魚人ゾンビによる攻撃も、モカは既に目にしている。
だからモカは、この不意打ちにちょっと驚きながらも。
「食らわへんわ!」
パン!
ⅯP7で、タコの魚人ゾンビの眉間を正確に撃ち抜いた。
しかし襲い掛かってくるタコは1匹じゃない。
ブワッ! ブワッ! ブワッ!
仲間が倒されたから擬態を止めたのだろう。
3匹のタコ魚人ゾンビが擬態を解いて襲い掛かってきた。
と同時に床からもアカエイが3匹、攻撃を仕掛けてくる。
でも、この程度の攻撃ならモカは対処できるハズ。
と俺が見守ってると。
パパパパパパン!
モカはⅯP7を6連射。
タコとアカエイの魚人ゾンビ6匹の眉間を、余裕で撃ち抜いた。
「この程度なら楽勝や」
そう言ってモカは、ⅯP7の弾倉を交換すると。
「ロックにぃ。次の扉を開けてエエかな?」
好戦的な笑みを浮かべた。
お? ゾンビシューティングの楽しさに目覚めつつあるかのな?
もしそうだったら俺は嬉しいんだけど。
ま、今は口にする必要もないか。
なので俺はⅯ4カービンを構え直すと。
「ああ。いつでもイイぞ」
モカにそう答えたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




