第十二話 『アレ』ですか
父さんと母さんは、ギルドの依頼を受けると。
「一刻を争う依頼ばかりだから、今すぐ出発する。ロック、頑張れよ」
「そうね。もたもたしてられない依頼ばかりね。ロック、慌ただしいけど、取り敢えず行ってくるわ。ロック、元気でね。いつでも帰ってきなさい」
そう言って俺をギュッと抱きしめてから、出発していった。
そして後ろ姿が見えなくなるまで父さんと母さんを見送った後。
「冒険者登録したいんですけど」
俺はギルドマスターに、そう頼んだ。
「おお、そうだったのか。分かった、すぐ手続きをしよう。おい、この子の登録手続きを頼む」
ギルドマスターは受付の女の人にそう指示を出すと、右手を差し出した。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名はグラッグ。元S級冒険者で、年で冒険者を引退した後、このジパング冒険奢ギルド・京の都支部のギルドマスターをしてる」
「あ、ロックと言います。レベルは13です」
俺が手を握り返しながらそう言うと、グラッグさんがニヤリと笑う。
「ほう。さっきはチラリとしかステータスを見なかったが、確かにレベルは13だったな。わずか10歳でレベル13とは、流石ダンとモーリの息子だぜ」
「転生者なら普通じゃないんですか?」
思わず聞き返すと、グラッグさんの笑みは苦笑いに変わった。
「ダンとモーリのヤツ、そんな事も説明してなかったのか。ま、どうでもイイ話しと言やあ、どうでもイイ話しなんだが、転生者が前世の記憶を取り戻すのは12歳頃なんだ。それよりちょっと早いヤツもいない事は無いんだが、僅か10歳でレベル13、しかもステータスカンストなんて、初めて見たぜ。いったい何時、前世の記憶を取り戻したんだ?」
「3歳の時です」
「3歳だと!? まったく、オマエってヤツは……やっぱりダンとモーリの息子だけあって規格外だな! がははははははは!」
グラッグさんが豪快に笑ったトコで。
「登録準備、出来ました」
受付の女の人が、金属のカードを手にして戻ってきた。
「転生者の方なら知っていると思いますが、このカードのこの部分に血を1滴垂らしてください」
もちろん知ってる。
俺がそうプログラムしたんだから。
で、さっそく言われた通りにすると。
「では登録しますね」
受付の女の人は、そのカードを水晶の版にセット。
そして何かのボタンを押すと、カードを取り外し。
「はい。これで冒険者登録が完了しました。え~~と、説明しますか?」
俺に、そう聞いてきた。
「ファイナルクエストと何か違うコトはありますか?」
この質問に、受付の女の人より早く。
「いいや、全く同じだ」
グラッグさんが声を上げた。
「なら説明無しで大丈夫です」
そう答えた俺に、グラッグさんが冒険者カードを差し出……そうとして。
「おい、ちょっと待て!」
慌ててカードを、特にステータスが記入された裏側を何度も確認する。
「おい、良く見たらとんでもないステータスじゃねぇか! しかもナンだよ、このスキルの数!」
グラッグさんの叫びを耳にして、ギルドにいた冒険者の人達が。
「どうしたんだ、ギルドマスター?」
「珍しいな、そんなに慌てるなんて」
「そのカードがどうかしたのか?」
ギルドマスターを取り囲んで、ナンか騒ぎだした。
と、そのうちの1人が、俺に聞いてくる。
「おい、それ坊主のだろ? ちょっと見てイイか?」
「イイですよ」
俺が答えるなり、冒険者の人達はカードを覗き込み。
『なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁ!』
いきなり大声を上げた。
「HPとⅯPが1890だとぉ!? 高過ぎだろうが!」
「それより攻撃力11450ってなんだよ!」
「なんでステータスがこんなに高いんだ!?」
「レベル13のステータスじゃ無ェぞ!」
「スキルだ! とんでもないスキルを持ってるからだ!」
「おお、確かに! 強化Lvがレベル13じゃあ考えられないほど高いぞ!!」
「拳撃と斬撃なんてLv5だぞ!」
「おい、それよりも、もっとヤバいスキル持ってるぞ!」
「ホントだ! 暗視に気配察知に空間把握に空間機動だ!」
「無音に気配遮断に視認障害に急所探知もだぞ!」
「それって上級アサシンのスキルじゃねえか!」
「10歳でアサシンの能力を持ってて、しかも攻撃力はA級並みってか!?」
「ヤベぇ、やべぇよコイツのステータス」
などと、冒険者の人達は大騒ぎしていたけど。
「その気になったら、ここにいる誰だろうが瞬殺できるな」
誰かの一言で、急に静かになった。
そして。
「さすがダンさんとモーリさんの息子だぜ」
この言葉を最後に、全員が黙り込んでしまう。
「どうしたんでしょう? ねえギルドマスター。ボクよりステータスの高い人なんて、幾らでもいますよね?」
「そりゃあステータスだけならな。でもロックのスキルは熟練のアサシンのスキルと同じなんだよ。暗殺に特化したアサシンと、な。つまり対モンスター戦なら無双の戦士でも、オマエに狙われたら助からない。それくらいアサシンってのは、対人戦じゃあ無敵なんだよ」
「それくらい知ってますよ。なにしろ転生者なんですから」
ついでに言えば、そう俺がプログラムしたんだから。
「でも、いきなり暗殺なんかするワケないじゃないですか。ボクは殺人鬼じゃありませんよ」
苦笑いする俺に、グラッグさんが暗い顔を向ける。
「それがな。ちょっと前、1人のアサシンがpKを始めやがってな。まあ、既にギルドが捕まえたんだが、そのアサシンはオマエより遥かに低いステータスだったんだ。でも、そのオマエよりステータスが低いアサシンに、何人もの冒険者が殺されちまってな。だからアサシンには皆、敏感になってるんだ」
PK=プレイヤーキラー。
ファイナルクエストでは、そうやって自分のレベルを上げるヤツもいたっけ。
でも、この世界はゲームじゃない。
リアルだ。
そのリアルで、PKを行うなんて正気じゃない。
「異常者ですね」
俺の呟きにグラッグさんが頷く。
「ああ。でもリアルだからこそ、偶にとんでもないヤツが出現するんだ」
「もしS級冒険者の異常者が出たら、どう対処するんですか?」
俺の質問にグラッグさんがブルっと体を震わせる。
「そりゃあファイナルクエストと同じさ。冒険者ギルド本部が、エクスキュースナーを派遣する。とびっきり戦闘力の高い、な」
「ああ、『アレ』ですか。やっぱりリアルでも『アレ』がいるんだ」
「そりゃあファイナルクエストと同じだからな」
そっか。
そこも俺がプログラムした通りなんだな。
なら少しくらいヤバいヤツが転生してても大丈夫だろう。
と、ちょっと安心する俺に。
「とりあえず冒険者登録、おめでとう」
グラッグさんは冒険者カードを差し出したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ