第百十六話 これ、ウツボだ!
ガォオオオオオオオオオオ!!
メガドロンが咆哮を上げながら、また突っ込んできた。
ってホントは、サメが咆哮を上げるハズがない。
でもそれじゃあ演出不足かな、と思って、そうプログラムした。
けどリアルだと、メガドロンの咆哮の凄まじいコト。
この空間全体をビリビリと振動させてる。
というか体の中までシェイクされて、なんか吐きそう。
ちょっとコレ、やり過ぎたかも。
A級冒険者程度じゃ、足がすくんで動けなくなるんじゃないかな。
いやSSS級冒険者でも、足がすくむかも。
なんて言ってる場合じゃない。
「来るぞ!」
俺はそれだけ叫ぶと。
ドッゴォォン!
バレットⅯ82を発射すると同時に横に飛ぶ。
その直後、ガキンッ! という音が響き渡る。
さっきまで俺がいた空間に、メガドロンが噛み付いた音だ。
もし避け損ねたら、思うと体が震えてしまう。
だってメガドロンの攻撃力は60億もあるんだから。
やっぱリアルのメガドロン、怖ぇ~~。
でも攻略法は分かってる。
メガドロンは、最強の攻撃である噛み付きを繰り返してくる。
その噛み付く為に開けた口の中から脳を狙撃。
と同時に横に飛んで、身を躱す。
この横に飛ぶタイミングさえ失敗しなければ、単純な作業だ。
とはいえ、メガドロンの迫力は凄まじい。
ちょっとでも気後れして回避が遅れたら、その瞬間ゲームオーバーだ。
だから俺は気を抜くコトなく、攻略法を正確に繰り返す。
が、それを何回か繰り返したトコで。
ぐりん!
突っ込んできたメガドロンが宙返りすると。
「な、なんや?」
戸惑った声を上げるモカの目の前で、ビタリと急停止した。
そして。
「コイツ、どないしたんやろ? 動かへんようになってもうたで」
首を傾げるモカに向かって、
メガドロンがユックリと口を開ける。
この予想外の事態に、モカはちょっと躊躇うが。
「どういうツモリか知らへんけど、わざわざ目の前で急所を晒してくれたんや、このチャンスをものにさせてもらうで!」
そう言うなり、マジックバックからバレットⅯ82を取り出した。
「よっしゃ、脳を撃ち抜いたるさかい、覚悟せぇ!」
と、モカがバレットⅯ82を構えたトコで。
ギラ!
メガドロンの喉の奥でナニかが光った。
って、ヤバい!
これ、ウツボだ!
「ナンや?」
俺は気の抜けた声を上げてるモカを全速力で突き飛ばす。
もちろん手加減して。
その直後。
「わ!」
声を残して吹っ飛んだモカが居た場所を。
ガチン!
鋭い牙が並んだ顎が噛み裂いた。
この鋭く長い牙が、さっき光ったナニかの正体だ。
「ロックにぃ!、何す……」
何するん、と言いかけて、モカは目の前の光景に驚く。
「うわ、メガドロンの口の中から、小さな口が飛び出とる! って、なんちゅう鋭い牙が生えとるんや! こないなモンで噛まれたら、死んでまうで!」
モカが言った通り。
メガロドンの口の中からは、小さな口が飛び出していた。
まあ、小さいといっても牛くらいなら飲み込めるサイズだけど。
で、見た目は、長い舌の先が口になってるみたいな感じ。
だから口から伸ばして、遠くの敵に噛み付くコトが可能になっている。
これはウツボと言う魚を参考にして、俺がプログラムした。
ウツボが餌に噛み付いた場合。
喉の奥から小さな顎が伸びて餌に噛み付き、喉の奥に引きずり込む。
そのウツボと同じ構造を、メガドロンの隠し武器として採用した。
もちろん実在したメガドロンに、そんなモノは無い。
でも竜宮城の中ボスだから、攻撃力アップの為に装備させたワケだ。
……今は後悔してます。
というのは冗談デス。
逆にこれは、凄いチャンスなんだ。
「モカ! 続け!」
叫ぶと同時に俺は、小さな口の上を駆け抜けメガロドンの口に侵入。
「覚悟しろ!」
メガロドンの脳に1番近い場所にバレットⅯ82を押し付けると。
ドッゴォォン! ドッゴォォン! ドッゴォォン! ドッゴォォン!
バレットⅯ82を撃ちまくった。
「ウチも!」
少し遅れてモカが駆け付け。
ドッゴォォン! ドッゴォォン! ドッゴォォン! ドッゴォォン!
俺の真似をしてメガドロンの脳に弾を叩き込む。
ウツボ攻撃を繰り出した後、メガドロンは2秒だけ動きを止める。
数少ない、メガドロン攻略法の1つだ。
その2秒で俺とモカは、全弾をメガドロンの脳に叩き込むコトに成功した。
このゼロ距離射撃により。
ゴォオオオ……。
メガドロンが上げた咆哮は、直ぐに小さくなり。
ビクン!
俺とモカが跳ね飛ばされるほど大きく震えると。
ズズゥゥゥゥゥゥン!
床に横たわり、二度と動かなくなった。
「はぁ~~、いきなり口の中から小さい口が飛び出たトキはビックリしたけど、逆に楽に倒せてラッキーやったわ」
モカが大きく息を吐いて、メガドロンの口の中に座り込む。
「それに今のでまたレベルアップしたけど、そんなコトより狙撃スキルがみんなLv8にアップしたコトの方が嬉しいわ。やっぱレベル差が大きい敵と戦うと、レベルアップが速くてエエわ~~」
モカが満足そうに笑ってる。
できれば、もう少し喜びに浸らせておいてあげたいけど。
「モカ。メガドロンが魔石に変わる前に、コレを集められるだけ集めておいた方がイイぞ」
俺はそう言うと、メガドロンの口から歯を引き抜く。
「メガドロンが魔石に変わるまでの時間は、たった1分。他のモンスターよりズット早く魔石に変わってしまう。だから、とにかく大急ぎで歯を集めるんだ。今は説明する時間すら惜しい」
「ナンのコトや良う分からへんけど、了解や!」
飛び起きてメガドロンの歯に手を伸ばすモカに、俺は慌てて注意する。
「迂闊に触ると手を切るぞ! 闘鬼の究極鎧を装備してからだ!」
「了解や!」
こうして俺とモカが数百枚の歯を回収したトコで。
シュゥウウウ~~~。
メガドロンの体は形を失い、直径50センチもある魔石に姿を変えたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




