第百八話 そら生き物のサイズとちゃうで!
グラッグさん経由の依頼を受けた後。
「で、ロックにぃ。ヤマタノオロチってナンやの?」
モカが、そう聞いてきた。
あ~~、この世界の生まれなら、そりゃ知らないよな。
「ヤマタノオロチってのは頭が8つある大きな蛇で、毎年1人、娘を生贄に差し出させていたんだけど、天界を追放された神様に退治された。という神話があるんだけど、それとは全然カンケ―ない。」
「ないんかいな!」
突っ込むモカに、俺は改めて説明してやる。
「ま、実際のトコ、ヤマタノオロチってのは、8つの頭を持つ、とんでもなくデカい蛇だな」
「デカいって、どんくらい?」
「首の直径は25メートル、胴体の直径は100メートル、全長は4キロメートルだった筈だ」
少なくとも、俺はそうプログラムした。
「4キロメートル!? そら生き物のサイズとちゃうで!」
大声を上げるモカに、俺は付け加える。
「ステータスは、こんな感じだ」
ヤマタノオロチ
HP 200億
ⅯP 20億
攻撃力 20億
防御力 15億
備考 超猛毒の牙 毒吐き(射程20キロメートル) 熱感知
「しかも、コレは261年前のステータスだ。ひょっとしたら、もっと大きく、そして強くなってるかもしれない。というか、なってるに違いない」
え? なぜ、そんなコトが言い切れるのか、って?
そりゃあヒカルちゃんが、マジで気合を入れてプログラムしたからだ。
「蛇は死ぬまで成長し続けますから、ヤマタノオロチも同じでイイですよね!」
「ラスボス倒した後の、隠れラスボスみたいな感じにしましょう!」
「ってか無理ゲー仕様にします!」
「限界突破Lv3の冒険者くらいなら瞬殺レベルでイイですよね!」
「普通なら遭遇しないなら、鬼強くても問題無いですね!」
「グラフィックにも拘りますよ~~!」
「私の最高傑作に仕上げてみせます!」
「ヤマタノオロチ限定スキルも作っちゃいます!」
「先輩! 隠し要素、入れてもイイですか?」
「どうせ都市伝説なんですよね? なら少しくらい……」
とか言いながら、盆休みに自主出勤してプログラムしてたから。
あ、ヒカルちゃん、ってのは俺の後輩。
ファイナルクエストをプログラムしたチームの一員だ。
日本神話が大好きで、特にヤマタノオロチの神話がお気に入り。
都市伝説として登場するだけなのに、膨大なプログラムを組んでた。
そのとんでもない情熱を注ぎ込まれたヤマタノオロチだ。
絶対、とんでもないコトになってる。
「そ、そないなモン、どないして退治するん?」
恐るおそる聞いてくるモカに、俺は笑ってみせる。
「いやグラッグさんが言ってたろ? 依頼は目撃されたのがヤマタノオロチかど うかを調査するコトで、退治するコトじゃない」
「そ、そういやそうやったわ」
モカはホッとした顔になるが。
「でも戦いになるコトを前提に行動しないと死ぬだろうな」
俺の一言で、一瞬で青くなる。
「なら、どないするん?」
かすれた声で聞いてくるモカに。
「もっと強くなったらいいんだ」
俺は余裕タップリで答えた。
「そらそうかもしれへんけど、そないなコト出来るん?」
「簡単さ。限界突破Lv4を手にいれたらいい」
「そない簡単に手に入るモンなん!?」
俺は、また大声を上げるモカの頭にポンと手を置くと。
「俺に任せろ」
そういってニヤリと笑ってみせる。
「限界突破Lv3までしか入手してない所為で、99999999を超えたステータスはカットされてしまってもったいないな、と思ってたトコだから、ちょうどイイ。このさいだからヤマタノオロチと戦闘になっても勝てるよう、限界突破Lv4を手に入れて、ついでに戦闘力も強化しておこう」
「なんか、そないにスラっと言うコトちゃう様な気がするんやけど、まあロックにぃやのコトやさかい、ソコんトコはスルーするとして。そんで結局のトコ、どこに行くつもりやの?」
と聞いてくるモカに。
「海中ダンジョン、竜宮城さ」
俺は、そう答えた。
「海中? 海の中にあるん?」
「そうだ。海に潜るから覚悟しとけよ」
「えええええええ!! ウチ、泳いだコトなんかあらへんのやけど!?」
怯えた目で絶叫するモカに、俺は笑ってみせる。
「大丈夫。泳ぐ必要なんか無い。水の中に潜るだけだ」
「違いが分からへん!」
おや? モカが涙目になってるぞ。
ナニか水に関係したトラウマでも持ってるだろうか?
もしそうなら、このダンジョントライで一発解消するかも。
いや、今すぐモカの不安を解消してやろう。
「あのな、モカ。天狗の隠れ里で『無呼吸』のスキルを手に入れたコトを覚えてるか?」
覚えているだろうか、スキル『無呼吸』を。
ダンジョン「鬼が島」の毒エリアで、俺が入手したスキルだ。
効果は文字通り呼吸をする必要が無くなるコト。
毒ガスが充満したダンジョン攻略に役立つが、水中でも大活躍してくれる。
「あ~~、そういや天狗の隠れ里で、間違って滝つぼに落っこちたトキに手に入ってたわ」
「息をする必要が無くなる、ってコトは、溺れるコトがないってコトだぞ」
そう俺が指摘すると。
「あ!!」
モカの顔がパァっと明るくなった。
「せや! ウチ、呼吸せぇへんでも活動できるんやった! ほなら海の中だろうがナンの心配もあらへん!」
そこまで言ってから、モカがハッと身構える。
「って、ダンジョン「鬼が島」の時みたく、シッカリと謎解きしながら準備しぃへんとエラい目に遭うちゅうヤツやな! なにしろ海の中にあるちゅう、聞いたコトないダンジョンなんやさかい、難易度がとてつもなく高いに決まっとる!」
拳を握って叫ぶモカに、俺はあっさりと言い切る。
「いや、謎解きは無いぞ。ひたすら侵入者を排除しようとするダンジョンを、戦闘力で突き進む。そんな力ずくのダンジョン攻略になる」
「へ? そうなん? よっしゃ、力ずくならウチの得意技や! 今回のダンジョントライは楽勝やで!」
いや、力ずくならって、それはそれで問題だぞモカ。
ま、いいか。
さっき言ったように、今回はゴリ押し。
ステータスとスキルで、押しまくってクリアに向かって突き進む。
そんなダンジョントライになるんだから。
でも、ホントに何も考えずに突進すればイイ、というワケじゃない。
なにしろ限界突破Lv4が手に入るダンジョンなのだから。
2023 オオネ サクヤⒸ