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   第百七話 ヤマタノオロチが目撃されたんだ





 京の都の冒険者ギルドの入り口潜ると同時に。


「グラッグのおっちゃん、ムサシのおっちゃん、久しぶり!」


 モカが元気な声を上げた。

 そんなモカに。


「おお、モカじゃねぇか!」

「久しいな、元気だったか!」


 グラッグさんとムサシさんが、孫を慈しむジィジの顔で駆け寄った。


「まったく、何年か修行する、とだけ手紙をよこしやがって。せめて、もう少し詳しく報告してこい」

「しかし大きくなったな、モカ。それに美しくなった。これはもう、子ども扱いなど出来ぬな」


 そういやモカも15歳。

 見た目だけなら、宝石のような美少女に育ってる。


「イヤやなムサシのおっちゃん! ウチは元から美しきレディやで」


 ガサツさ……ゲフンゲフン、元気さにも一層、磨きがかかったケド。


「まあ、モカは旅立つ前から子ども扱い出来るステータスじゃなかったけどな」

「違いない」

「「わははははははは!!」」


 グラッグさんとムサシさんは、豪快に笑った後。


「ロックも、よく帰ってきたな。さらに強くなったみたいで、結構なことだ」

「うむ。見違えるほど強くなったのが、鑑定しなくても分かるぞ」


 俺に笑顔を向けてきた。


「なんかモカと温度差が大きくないですか?」


 苦笑する俺に、グラッグさんとムサシさんは。


「そう言ってもな。ロックなら放っておいても、勝手にガンガン強くなるのは分かり切った事だからな」

「その通り。心配する必要の無いロックと、まだ子供だったモカ。元気に帰ってきた時の喜びに差が出るのは、仕方なき事よ」


 そう言って、また大笑いした。


「しかしロックが帰って来て喜んでいるのは本当だぞ」

「うむ。今まで何をしていたのか聞かせてくれ。若者の活躍を聞くのは老人の1番の楽しみだからな」

「グラッグさんとムサシさんを老人と言うのは無理が有り過ぎません?」


 俺はそう言いながら、笑みを返す。


 なにしろグラッグさんもムサシさんも現役の戦闘力のまま。

 A級冒険者程度なら、片手で倒せる実力者なんだから。

 でもグラッグさんとムサシさんの顔を見てたらホッとするな。

 青行灯との戦いを経て、俺は2人を本当の家族と思ってるから。


 と、そこでグラッグさんが、ギルドマスターの顔になると。


「ところでロック。数日ユックリしてからで構わないんだが、依頼を1つ、受けて貰えないか? ロックの噂を聞きつけたマルチ尾張の冒険者ギルドから、名指しで依頼が来てるんだ。SS級を遥かに超える戦闘力を持つ、ロックという冒険者に緊急依頼を出したい、とな」


 そんなコトを言いだした。


「冒険者ギルド出雲支部によると、別に何か被害が出たワケじゃないらしいんだけどよ。しかしこの依頼を聞いた瞬間、凄ぇ悪い予感がしたんだ。そしてもし、この悪い予感が当たったとしたら……SS級冒険者でも生きて帰れないだろう」


 グラッグさんにしては、歯切れが悪いな。

 こんなハッキリしない話し方をする人じゃないハズなんだけどな。


 ま、いっか。

 ここはストレートに聞いてみよ。


「え~~と、具体的に言うと?」


 という、俺の質問に。


「ヤマタノオロチが目撃されたんだ」


 グラッグさんはそう言うと、顔をしかめた。


「ファイナルクエストじゃあ、ヤマタノオロチは人が足を踏み入れない、いや足を踏み入れる事が出来ないほど深い山奥に住み着いていた。そして、その住処から動く事はなかった。伝説には出て来るが、見た者は誰もいない。それがヤマタノオロチだった筈……なのに、8つ首の大蛇が目撃されているんだ」

「ヤマタノオロチが? もしその大蛇がヤマタノオロチなら、SS級冒険者じゃあ手も足も出ないだろうけど、ホントにヤマタノオロチなんですか? ヒドラの亜種でも紛れ込んだんじゃ?」


 ヤマタノオロチは、計り知れない戦闘力を持つ。

 しかし体を傷つけられない限り、住処から動かない。

 そしてヤマタノオロチを傷つけるなんてSS級冒険者でも不可能。

 話のネタとして仕込んだ、都市伝説みたいなモンだ。


 おまけにヤマタノオロチが生息するのは出雲地方の奥地。

 尾張の国じゃない。

 でも。


「目撃された大蛇の正体がヒドラなら大歓迎だ。こんなヤバい調査、空振りに終わるなら、こんなに嬉しい事はないんだけどよ、残念ながら悪い予感がしてしょうがないんだ」


 というグラッグさんのカンを、笑い飛ばすほど俺は馬鹿じゃない。

 経験を積んだ凄腕冒険者の危険を察知する能力は、計り知れないのだから。


 ……というか、俺も嫌な予感がしてきたぞ。

 この世界が出来てから261年。

 想像もしなかったイレギュラーが発生してても不思議じゃない。

 例えば百鬼夜行。

 都市伝説と言う設定だったのに、実際に出現。

 青行灯という想定外の妖怪まで発生した。


 って、アレ?

 これってプログラムした俺のミス?

 いやいや、この世界で発生する全てが俺のミスじゃないよね?

 だって、261年後まで計算してゲームを作るなんて有り得ない。

 というか、2年くらいでバージョンアップしていくのが普通だ。

 ファイナルクエスト2、ファイナルクエスト3とかいう感じで。

 だから、261年先のコトまで考えてなかったとしても当然。

 俺のミスってワケじゃない。


 ……と言い切って、知らん顔出来たら幸せだろうな。

 でも俺には、想定外の事象にも対応できる力がある。

 つまり理不尽な被害を受ける人々を救うコトが出来る。

 なら、もしもヤマタノオロチが想定外の動きをしてるとしたら。

 最低でも、善良な人々に被害が及ぶコトだけは防がないといけない。

 なんて考えてると。


「で、ロック。この尾張支部からの依頼、受けてもらえるか?」


 グラッグさんが、迷った顔で聞いてきた。


「もしヤマタノオロチが絡んでるなら、生きて帰れるとオレが思える冒険者は、ロック。オマエ以外にはいない。しかし同時にオレ個人としては、そんな危険な依頼をロックに受けて欲しいとは思っていない。冒険者を無茶な依頼から守るのもギルドマスターの役目だからな。だから自分でも情けないと思うが、ロック。オマエが決めてくれ」


 この依頼を受けても受けなくても構わない。


 そう言ってるけど、グラッグさんの想いは分かってる。

 善良な人々を守って欲しいコトは。

 だから俺の答えは決まってる。


「もちろんその依頼、受けますよ。でも出発は少し待ってください。万全を期してから出発したいので」


 俺がそう答えると、グラッグさんは、深々と頭を下げた。


「もちろんだ。なにしろ相手はヤマタノオロチなんだからな。でも引き受けてもらえてホッとしている。すまない」


 相変わらず、どんな相手にも礼を尽くすんだな。

 ならグラッグさんが下げた頭に見合う、いやそれ以上の働きをしてみせる!

 と、俺は心の中で誓うと。


「グラッグさんの期待以上の働きをしてみせますよ」


 そう言って、グラッグさんに笑いかけたのだった。












2023 オオネ サクヤⒸ

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