第百三話 まず攻め滅ぼすのは
ヤタガラスの団2000名が巨岩の城の前に整列すると。
「ジュン! やったな!」
小六が満面の笑みをたたえて飛び出してきた。
「大量の軍用ライフルと弾薬! これなら尾張の小田も、三河の徳川も、越後の上杉も、甲斐の武田も、駿河の今川も敵じゃねェ!」
そんな小六にジュンが戦人の顔で言い放つ。
「兵站も十分に用意してある。そして全員がレベル3の兵だから、体力も十分に温存した状態だ。今すぐにでも戦えるぞ。どうする」
2000人もの兵が、軍用ライフルを装備して行軍して来た。
当然、敵国が放っているスパイに発見されているコトだろう。
そしてスパイは大急ぎで本国に報告する筈だ。
なら、その報告が本国に届く前に攻める。
問題は、どの国を攻めるかだ。
1番望ましいのは、やはり1番強い国。
近代兵器を装備しているコトを知られる前に攻め滅ぼすコトだ。
もちろん小六も、そのつもりで用意してたんだろう。
「整列だ!」
小六が声を張り上げると。
ドドドドドドドドドドドド!
足軽が巨岩の城を駆け下ってきた。
その数、およそ1万。
しかも2人に1人が、火縄銃を持っている。
そして足軽全員が整列したトコで。
「まず攻め滅ぼすのは、オレの縄張りで虐殺をしやがった尾張の小田だ!」
小六は、そう叫んだ。
そりゃそうだろう。
もう少しで150人が嬲り殺しにされるトコだったんだから。
と、納得する俺の隣で。
「なんで馬に乗っとらんのやろ?」
モカが不思議そうに呟いた。
「小六のおっちゃん、侵略された村には馬で駆け付けたやん? なのにナンで今回は馬やないんやろ?」
このモカの疑問に。
「1万人が乗る馬など用意できないからだ」
ジュンが説明してくれる。
「馬は人の10倍は食う。蜂須賀一家が力を付けてきたとはいえ、そんな食料など用意できない。巨岩の城には1万の馬を飼育するスペースも無いしな。そして戦いの主力は火縄銃を持つ足軽、つまり歩兵になっているので、徒歩による行軍が基本となるんだ」
「なるほどなぁ。それが戦国エリアの戦い方なんかいな」
モカが納得するのを待っていたように。
「尾張の小田を討ち滅ぼすぞ!」
小六が声を張り上げ。
ザッザッザッザッ!
蜂須賀一家1万人が進軍を開始した。
ちなみに今更だけど戦国エリアについて説明しておこう。
西日本が多目的エリア。
東日本が戦国エリアとなっている。
だから尾張の国は、多目的エリアと戦国エリアの境に位置している。
つまり尾張の国は西から敵に攻められる事はない。
尾張の国を攻め滅ぼしたら、そのまま拠点にするのも選択肢の1つだ。
虐殺の仕返しもあるだろうが、そういったコトも考えてるのだろう。
なかなか小六は策士だな。
いや、軍師が優れているのかも。
なんて考えながら行軍についていくと。
「敵の城が見えてきたぞ」
ジュンが行ったように尾張清州城が見えてきた。
そして尾張清州城から1キロ地点に到着すると。
「ヤタガラスの団を中心に陣を組め!」
小六が命令を下した。
と、直ぐにヤタガラスの団が散開。
Ⅿ16A2を装備した歩兵を主戦力とした陣形を整える。
その後ろで隊列を組むのが蜂須賀一家の軍。
更に、その後ろに補給部隊が本陣を設置。
ここで小六とジュンが、全軍の指揮を執る。
「なんか、ファイナルクエストのメジャーな陣形と違うな」
俺の呟きにジュンが笑う。
「転生者なら、鉄砲がどれ程有効か嫌と言うほど分かっている。だから使っているのが火縄銃というだけで、戦い方は近代戦と殆ど変わりないんだ」
「やっぱ250年も経っているんだから、戦のやり方もファイナルクエストとは違うってコトか」
「その通りだ。とはいえ、用意できる火縄銃の弾にも火薬にも限界がある。両軍が弾を撃ち尽くしたら、戦国時代と同様、槍での叩き合いになる。それまでに、どれだけ被害を与える事が出来るかが勝負の分かれ目になる」
ここで確認しておくが。
鉄砲が普及する前の戦国時代では、戦いの主力は槍だった。
弓矢を射かけ、そして軍が接近すると、まず槍での叩き合いが始まる。
そして態勢が崩れたり、倒れたところを狙って突く。
でも、ケガをした兵は直ぐに新たな兵と交代して後ろに下がる。
だから、簡単に敵を殺す事はできない。
しかし鉄砲は違う。
躱す事も防ぐ事も出来ない。
なので今の戦国エリアでは、火縄銃による射撃が戦いの中心となっている。
でも、映画みたいに火縄銃を抱えて突撃なんかしない。
塹壕に身を隠した敵兵に狙い撃たれてしまうから。
しかし今は状況が違う。
襲撃されるとは思ってないらしく、尾張清州城は戦闘態勢を取ってない。
つまり奇襲攻撃の大チャンスだ。
だから。
「ジュン」
小六が声をかけると。
「全軍、前へ!」
ジュンが声を張り上げ、ヤタガラスの団の歩兵1500が前進を始めた。
もちろん、ここまでやったら敵も気付く。
「敵襲~~!」
「配置に急げ!」
「火縄銃を持つ者は佐間に!」
「弓矢、準備は良いか!」
尾張清州城は戦闘態勢に入った。
そんな中、ヤタガラスの団は清州城まで300メートル地点で停止すると。
「補給中隊、盾を構えろ」
ジュンの命令で、補給中隊500名が、盾を展開した。
そして全ての歩兵が盾に身を掻くると同時に。
「第一歩兵中隊、撃て!」
ジュンの号令で、第一歩兵中隊300名が。
タン! × 300
一斉にⅯ16A2を発射した。
そして、さすが鉄砲集団だけあって、全弾命中。
小田軍は300の兵を失った。
しかしⅯ16A2の弾倉には、まだ29発の弾丸が残っている。
第一歩兵中隊は狙撃を続け、小田はドンドン兵を失っていく。
もちろん小田軍も、火縄銃や弓矢で反撃して来るが。
300メートルの距離では、盾に隠れた歩兵を傷つけるコトは出来ない。
こうして第一歩兵中隊が弾倉を空にする頃。
尾張清州城は戦闘不能となっていた。
そして城の天守閣では。
「こんなバカな……」
小田家を当主が茫然と戦を見下ろしていたが。
「これで終わりだ」
ドォン!
ジュンが50口径ライフルで小田の当主を狙撃。
当主を失った小田は小六とジュンに降伏したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ