第百二話 戦で1番重要なのは兵站だからだ
ヤタガラスの団と共に、アライグマシティーから雑賀の里に戻ると。
「でもナンで補給兵までレベル3にしたんやろ」
モカが、今更な疑問を口にした。
「戦うんは歩兵だけやろ? 補給兵のレベルを上げるヒマあったら、もっと歩兵のレベルを上げたら良かったんとちゃう?」
そんなモカにジュンが説明を始める。
「それは戦で1番重要なのは兵站だからだ」
「兵站?」
「分かり易く言うと、補給のコトだ」
「そら補給兵、いう呼び名やもんな。でもナンで補給が1番なん? 戦うんは歩兵ちゃうの?」
「戦いを続けるには、まず食料と水が必要だ。戦場では戦っている時間より、睨み合っている時間の方が長い。そして腹が減っては戦は出来ない。だから食事は絶対に必要なんだ。そして最低限の生活が出来ないと、歩兵の戦闘力は下がってしまうから、宿舎や食堂やトイレも欠かせない」
「なるほどなぁ」
やっとジュンが言いたいコトが分かったのだろう。
モカはウンウンと頷いている。
「もちろん武器弾薬も重要だが、それだけじゃない。銃は故障するモノだから予備の武器も必須だし、故障した武器は改修して修理しなければならない。なにしろ銃は貴重品だからな」
「補給が大切なんは分かったけど、補給兵のレベルを上げた意味が、よう分からへんな」
「歩兵と同等の機動力は無いと、進軍する歩兵に補給物資を届ける事は困難だ。というより状況によっては歩兵より先行して進んで、宿泊場所を確保する事すら珍しい事ではない。機動力なら歩兵以上を求められるのが補給兵なんだ」
「そういうコトやったんか」
やっと理解したモカにジュンがほほ笑む。
「まあ、生活魔法の火で調理の燃料は節約できるし、水の生活魔法で飲み水は確保できるし、清潔の生活魔法で風呂は必要ないから、補給兵が運ぶ物資は、かなり少なく出来るがな」
と、そこでジュンは、研ぎ澄ました刀のような顔になると。
「とにかくヤタガラスの団は、戦の準備を終えた。小六の元に向かうぞ」
強固な意志を感じさせる声で、そう言った。
と同時にヤタガラスの団は。
「第一歩兵中隊! 出立!」
クが声を張り上げ、第一歩兵中隊を率いて出発する。
それに第二歩兵中隊、ケが率いる第三歩兵中隊、第四歩兵中隊が続き。
最後にコが率いる第五歩兵中隊が出発した。
あれ? カとキは? と見回すと。
「第一から第五補給小隊、出発!」
「第六から第十補給小隊、出発」
2人は補給中隊の指揮を執っていた。
1番重要な兵站だからカとキが担当してるんだろうな。
って、ジュンが残ってるぞ。
「ジュンは小六の城に行かわないのか?」
俺が思わず尋ねると。
「もちろん行くさ。特殊部隊と共にな」
ジュンがそう答えると同時に、精悍な男達がジュンの前に整列した。
「気が付いていたかもしれないが、アライグマシティーにもコッソリと同行していた連中だ。そして全員、レベル4に達している。この者達50名が、ヤタガラスの団で最強の兵士だ」
ちなみにレベル4のステータスは。
HP 120
ⅯP 120
力 100
耐久力 100
魔力 100
魔耐力 100
知性 100
速さ 100
対してレベル1の、つまりレベルアップしていない兵士のステータスは。
HP 10
ⅯP 10
力 9
耐久力 9
魔力 8
魔耐力 8
知性 4
速さ 9
この程度。
だからこの男達は、戦国エリアではあり得ない強さの兵士達だ。
しかもⅯ16A2まで装備している。
いや、それだけじゃない。
Ⅿ16A2の銃身の下に。
Ⅿ203グレネード
最大到達距離 400m
発射速度 4~7発/分
を装着している。
Ⅿ203グレネードとは、簡単にいえば400メートル先に爆弾を飛ばす武器。
この兵士達なら、5000人の敵でも殲滅出来るだろう。
作戦次第では、10万人の敵すら打ち破るかもしれない。
下手したら、この50名で天下を取るコトも可能な戦力だ。
「こんな過剰戦力を持ってるのなら、何の心配もいらないな」
そう言って笑う俺に、ジュンが首を横に振る。
「ロックのお陰で武器が手に入り、その武器があったからレベルを上げる事が可能となったんだ。全てはロックが力を貸してくれたからだ。それにロックのステータスを忘れたとでも思ったか? ロックが敵に回った瞬間、殲滅される程度の戦力でしかない」
そう言いながらも、ジュンは胸を張った。
「しかしこの者達は、揺らぎない忠誠をワタシに誓ってくれた者達。ワタシの命を預けに相応しい者達だ」
ジュンの言葉に、男達も胸を張る。
うん、本当にジュンの為なら命を捨てる覚悟のある者ばかりらしい。
見事な漢達だ。
「では、ワタシ達も小六の城に向かおう」
歩き出すジュンに並んで、俺とモカも歩き出す。
ちなみに雑賀の里は、小六の巨岩の城の近くにある。
しかもヤタガラスの団は、全員がレベル3以上。
想像以上に速く到着する筈だ。
その短い道中で、俺はジュンに質問して確認したコトだけど。
現在の戦国エリアの状況は、現実の戦国時代に酷似しているらしい。
つまり周囲は敵だらけといえる。
そしてジュンによると、その周囲の戦国大名の多くは転生者、とのコト。
つまり歴史通りにやっても天下統一は出来ない、と知っている。
なら大名達は、どう動く?
どの大名と、どの大名が同盟を結ぶ?
しかし同盟を結んだとしても、いずれは天下をかけた戦いは避けられない。
転生者なら、天下統一ゲームの覇者を目指すに決まっているのだから。
なら、ヤタガラスの団は、どうするのだろう。
小六と最後まで行動を共にする?
それとも途中で裏切ってジュンが天下を統一する?
ジュンの考えは分からないが、間違いないのは。
「圧倒的な武力であるⅯ16A2を装備したヤタガラスの団が、天下統一のカギを握っている、というワケか」
俺は小さく呟いたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ