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冥土の土産

「薫、『幽霊女』は何者? やっぱ病人、だった?」

「うん。セイが言ってた通りやったで」

 

青黒い目元の、皺が目立つ顔した

 <幽霊女>は

 全身癌で手の施しようのない

 まだ30代の女だった。


「出頭してきたときにはな、一層酷い感じやった。

 黄疸、やな。畳みたいな顔色や。取り調べも早々に……入院したで」


「重症なんだ」

「そう」


「分からないなあ。何でまた、その人が……」


「セイ、冥土の土産、やで」

「は?」


「死ぬ前に、超刺激的な体験をしたかったんや」

「へっ……ホントに?」 

 女は、殺人ショーの観客席に座って見物した。

 おぞましい光景を生で見たかった理由が、

 冥土の土産か?


「あの女だけや無い。出頭した5人、皆や。

 彼らは、それぞれに重い病気で、

 余命幾ばくも無い、みたいやで」


「な、なんだよ、それ」

 聖は

 ぞおっつ、と背筋が冷たくなる。

 これは怖い。


 薫が最初に

 (人間じゃ無い、あれは幽霊)

 と、震えていた。


死を宣告された者達が

 目の前で繰り広げられる殺人ショーに目を輝かせる。

 

 この世最後のお楽しみが、それか。


 まさに、人間で無くなってる。

おぞましい …… 怖い。


「怖い、やろ」

「うん、怖い。

 ところで、……互いに面識は無かったんだよね」

「そう。顔を合わせたのは、事件の日が初めて」

「SNSで知り合ったのか」


「始まりは掲示版や。『若くして余命宣告された人』。そっから派生した」

「主犯のアリスも?」

「そう。アイツら5人はアリスの誘いに乗ったんや」


 5人は掲示版でアリスを知り、アリスのブログを覗き、

 個々にメールで語り合うようになったという。

 

 

 小山輝の動画見ましたか?

 

 自分は奴の居所を知ってるんです。

 奴の憎たらしい声が、頭から離れません。

 

 今日、お告げがありました。

 奴を殺せと。

 裁けと。

 神の声が聞こえたのです。

 

 山で言われたのです。 


 自分はおそらく年を越せません。

 横になっている時間が日増しに増え

 歩くことさえ

 辛くなっています。

 貴方と同じです。


 死にかけの俺に

 声は毎日、毎日、

 奴を殺せ

 お前の仕事だと。


 やってみようと思います。

 貴方見に来ませんか?

 

 俺頑張ります。

 貴方が見ていてくれるなら

 俺、奴を殺します。


 

「行ってもいいと返事をすると、集合場所、時間、目印に

 紫色の何かをと、アリスが指示した。

 『幽霊女』が言うにはな、」


 突拍子も無い話なので

 本当に決行するとは思っていなかった。

 彼は(仲間)に会いたいのだと

 奇抜な提案で、呼びつけたんだと。


 ワクワクしました。

 思いがけないオフ会。

 楽しみでした。

 癌の宣告を受けてから

 こんなにハイになったことは無いです。 

 皆さんも同じだと思いますよ。


 アリスに導かれて

 居酒屋に行きました。

 アリスは、

 手袋を薄いゴム手袋に替えました。

 鞄から道具を出して、鍵を壊しました。

 まず調理場の包丁をありったけカウンターに並べました。


 私たちには

 カウンター席に座るように指示し

 酒とグラスをカウンターに並べました。


 最初に、お婆さんが、店の調理場の、奧の部屋から

 出てきました。

 口をぱくぱくさせてました。

 悲鳴を上げようとして声が出なかったんでしょうね。


 アリスは

 お婆さんの腕を掴んで引き寄せ、胸に包丁を刺しました。

 そして、その包丁は抜かずに

 小さな包丁を首の後ろに刺しました。

 それも抜いていません。

 お婆さんは力が抜けたようになって床に倒れました。

 

 アリスは奧の部屋に行き

 寝ぼけているような小山輝を

 引っ張って来ました。

 

(動画、とっていいよ)

 私たちに言いました。

 

 ……殺して、首を切りました。

 

 私たちは、動画を撮りました。

 

 アリスは小山輝の首を、鞄に入れました。

 衣服や顔に付いた血を簡単に拭き取って

 手袋を替えて

 カウンターの中から出てきて

 

 空いている席に座りました。


(逃げないの?)

 誰かが聞きました。

 アリスは

(疲れた。ちょっと休憩)

 と、言ったかな。


 私が

(二度とあえなし、もう少しお酒飲もうか)

 と言いました。

 皆もすぐに立ち上がる元気は無かったみたい。

 人殺しを見たので

 頭の中に花火が上がってるみたいに

 すっごく気分はハイで

 でも腰が抜けちゃって。


 それから、

 初めましてと

 あらためて自己紹介。


 私たち、警察に捕まっても

 構わないと思っていました。

 店に誰かが入って来て、通報して

 それから、どんな事が起こるのか

 楽しみでもあったんです。


 そのうちに暗くなって

 アリスが提灯を点して


 本当に誰か来たらいいのにと。


 アリスが言いました。

 (ねえ、誰かが入って来てアレ見ちゃったら

  逃亡、してみない?

  さーつと散らばって逃げるんだ)

  

 面白そうだと。

 逃げる途中に心臓が止まって死ぬかも知れないけど

 それも面白そうだと。

 

 で、待ってたんです。

 

 待っても誰も来ないから

 私、路地へ出て様子を伺ってました。

 そしたら男の人がこっちを見たので


 ほほ、ほ。

 

 私、店に呼び込む係だったのに

 その男、

 近くで見たら、怖いお兄さんだったの。

 顔がね、強面だったの。

 堅気じゃない目つきでしょ。

 この人は嫌だなと。


 店に来ないように言ったんです。

 でも。来ちゃって。

 幸い中まで入らないで

 行っちゃいましたけど。


 夜明けまで

 始発電車の時間まで

 誰かを、待ちました。


 結局、強面の男以外

 誰も来なかった。

 私たちはライン作って

 サヨナラしました。


 5人で今日来たのは?

 どうしてかって?


 テレビで自分が公開手配されているの見て

 皆で相談して

 もう一度会いたい気分と

 警察署の中ってどんなだろう、って

 それで来たんです。


 アリス?

 無理って。

 多分、動けないのかも。

 調子悪そうでしたよ。

 ああ、でも

 動画見せて

 事実を話して

 自分たちは、ただの見物人だと

 ちゃんと言って欲しいと……。


 ラインは来ましたよ。



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