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arisu

犯人はSNS上で<処刑人>と名付けられ

一部、賛美の声もあった。


もしも小山輝のみを殺していたなら

賛美の声はもっと大きかったかもしれない。

小山輝の動画は、不快極まりなかったのだから。

しかし、

祖母まで殺した残忍さは、正義に程遠い。

事件記事に寄せられた感想は<愉快犯>だと

大半は、犯人を憎む視点のコメントだった。


聖は、自分が描いた<女の顔>が

薫の役に立つ事を祈っていた。

そう簡単では無いと知りながら。


犯人の手がかりに関する続報はない。

現場に残された靴跡で、

靴の商品名は特定できても、

所持者全員を把握するのは困難だ。


(首が置かれていた)E市の動物霊園の管理人は

「防犯カメラは無いんですよ。駐車場にも有りません」

 と、ワイドショーのインタビューに答えていた。


「動物霊園に盗まれるモノ無いからな」

「そうなの? 山田霊園にも防犯カメラ無いの?」

「無いよ」

 

毎晩、マユと事件のニュース動画を見て

 新たな情報を待っている。

 渦中にいる薫が心配で。


「お供え物泥棒、来ないだろ。酒もお菓子も供えてないから」

「あ、そうか。お供えはペットフードなのね」


「それも少ないかも。お参りも、人の墓ほど継続しないよ。

ペットの死骸をゴミとして処理するのが辛くて

動物霊園に持って来る人も多い。ずっとは通わないのはね、

動物好きなら、また飼っちゃうし。

そっちに、手間がかかるから」


「そっか。この動物霊園も、そんなに人は来ないのね。それで目撃情報も無いんだ」

「山田霊園と似てる。山の中で、墓地は塀で囲まれてないみたい。どっからでも入れるって事。

 管理人は1人。それも山田霊園と同じ。

基本、来客と電話での問い合わせに備えて事務所に待機して

 朝晩墓地を見回る。そんな感じだと思うよ」


「セイは人間の首を、猫の墓に置いた理由は何だと思う?」

「世間に知らせるためかな。元少年Aを処刑した、と」

「動機は個人的な怨恨ではないのね。遺族の復讐ではない。例の動画を見ただけで殺したの?」


「世間をあっと言わせたかっただけ」

「子供っぽい動機で、2人殺したのね」

「お祖母さんを殺したのは行きがかり上、じゃないかな。たまたま、居たから」

 

 多分、ゲーム感覚だと

 今の聖は思っていた。


 被害者の動画を見、

 偶然撮影場所を知っていたので

 アイツを殺そうかと

……密かに仲間を募ったか。


 皆で殺害したとは限らない。

この殺しは、単独で可能だから。

  

 犯人グループに、

 幽霊に見えるほどの

 病人の女が含まれているのが不可思議ではあるが。

 

 案外早く、結月薫から一報が来た。

 夜通し絵を描いてから2週間も過ぎない頃に。



「セイ、有り難う。あの女の、目撃情報が近鉄奈良駅から出た」

 トイレ掃除のスタッフが

 紫のストール、黄色い杖の女を覚えていた。


「そんでな、駅構内、付近の防犯カメラ、調べた。当たりやった。大当たりや」

 駅に近いビル内の

 人通りの少ないエリアに

 例の女が映っていた。

 事件当日、午後2時から2時半頃、まで。

 約30分、女は2階から3階への階段の踊り場に、

 立っていた。

(エスカレーター、エレベータがあるので、階段を使う人は少ない)


「3階にあるレストランの防犯カメラの下の方に、端に映ってた。

 あの女だけちゃうねん。あと男4人と女1人、待ち合わせてたんや」

  

 まず、あの女が現れ

 30分の間に他5人来て

 6人揃って階段を降りて行った。


 事件現場「みちよ」までは徒歩12分の距離である。


「女の画像は公開や」

 他の合流した5人は

 「みちよ」に居たと薫には断言できない。

 参考人にはできない。


「でもな、紫色の手をした男が、おった」

「それ、手袋だろ?」

「うん、まあそうやけど。とにかく俺が見た手やと。

 ほんでな、他の4人やけどな」

 

 男1人は紫のマスクをしていた。

 男1人は紫のジャージの上下。

 男1人は紫色のニット帽。

 女1人のショルダーバッグも紫色


 そして、

 <幽霊女>のストールは紫。


「6人は揃って紫色の何かを身につけてるんやで」

 事件解決は

 犯人逮捕は近いと

 薫は上機嫌だった。


「犯人達は全員が紫色の……セイ、偶然じゃないわね」

「うーん。これが黒ならね、偶然と思うかな

 黒いマスク、黒いニット帽、黒いジャージ、

 黒い手袋、黒いストール、バッグなら、

 今の季節、誰でも持ってそう、だろ?」

「では、申し合わせて紫のアイテムを身につけた。

 それも一見して分かるように」

「犯行グループのカラー?」


「違うでしょ。紫は目印だと思うわ。黒では目印にならない」

「目印、……て、ことは、この日が初対面か?」


「SNSで知り合って、リアルで会う。目印が必要でしょ?」

「初めて会った6人……殺害計画はラインか?」

「紫を目印に集合なんて、遊びみたいじゃない。おまけに、防犯カメラに撮られている

 薄っぺらで幼稚な集団」

 

 薫も犯人の軽薄さを知り、

 事件解決は容易いと予測し

 機嫌が良かったのだ。 

 

 その三日後、随分早く 

 <幽霊女>の身元は

 判明した。


 女は、(自ら)出頭した。

 これは薫の想定の範囲だった。


 参考人として<顔>がテレビで流された。

 観念して自首もあり得ると。


 しかし、まさか

 5人で出頭するとは、

 誰もが想定していなかった。


 5人は実行犯を除くメンバーであるらしい。

 

 小山輝殺しを計画し

 5人を誘った主犯の男を除いて、

 揃って出頭したという、

 驚くべき展開だった。


「まいった、まいった」

 薫は暫しの息抜きだと、

 夜遅く工房に来た。


「5人、口を揃えて自分たちは見物人やと言うねん

 小山輝の殺害を見物しただけと」


「何、それ。分けが分からない。口裏を合わせて、1人に罪を被せているとか」


「そこは徹底的に調べた。あいつら、後々のこと考えて

 我が身を守る為に、殺害シーンを動画に残していた」

「うそ……マジで?」

「えげつない話、やで」


「あ、でも、コレで主犯は分かったんだ。顔も割れてるし」

 防犯カメラに映った6人のうちの1人で

 殺害動画にも映っている。

 殺人犯を特定できるではないか。


「うん。重要参考人で公開やねんけどな」

 薫は携帯の画像を見せる。

 

 黒いニット帽が

 髪全部と耳を隠している。

 大きなサングラスは濃い茶色で

 目元も隠れ

 その上に大きなマスク。

 手には紫の手袋。


「コレは、わかりにくいね」

「しやろ(そうだろう)。コイツはアホちゃうかも。

 面が割れんように、小細工してる」


「身長は高からず低からず……体格も特徴ないね」

「うん。こんな感じの奴、よおけ、おるで」

「そうだね。……名前、わかんないだよね」

「そうや。出頭した奴らも知らん。互いに本名は知らん。そういう付き合いらしいな」


「本名じゃ無い名前は? なんて名乗っていたの?」

「それはな、アリス、やて」

「……アリス?」

 女みたいな名だと

 聖は思った。


「変やろ、アリスやて、犬みたいな名前や」

 と薫。


「犬、か」

 聖は、

 長く工房に在った<剥製アリス>を思い出した。

 アレがアリスという名なのは、

 (元々は)柴犬の雌でアリス、だったから。

 従姉妹の加奈が

 犬には珍しい名を付けたと思っていた。

 

 アリスと聞けば

 <不思議の国のアリス>を連想するのだが、

 自分が知らなかっただけで、

 

 犬によくある名前なのか?


「知らんで。悠斗の犬がアリス、やんか。

 ほんでな、犬みたいやと、言うただけやで」


「へえー、そうなんだ。初めて聞いた」

 聖は面白い偶然だと、思った。

 

 まだ触ったことも無い、

 近くで見る機会も無かったが、

 悠斗の犬には関心があった。

 名前が分かったのは良いことだ。


 次からは、<アリス>と呼びかけよう、

 犬は自分の名を知っている。

 呼ばれたら、こっちに来るかも。


聖は、悠斗の犬を

まだ……知らなかった。





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