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アリス、バイオリンを弾く

空が紅く染まり、心地の良い風が窓を通って部屋の中に入ってくる。こういう時にピアノとかの音色が聞こえてきたら風情があるなぁとか思えてくる。

かく言う俺の手にはピアノではないがバイオリンを持っている。当然バイオリンなんか弾いたことも無いし、本物を見るのも初めてだ。そのため昔にテレビで見たプロのバイオリニストを思い出し見よう見まねで肩と顎に挟んだ。

そして、真っ赤な夕焼けに音色を届けるかのようにゆっくりと弾き始める。

キュイーンとかギィーっという音色が聞こえ近くで見ているアランはそっと耳を塞いだ。

楽譜の1枚? 1ページ? を弾き終えバイオリンの棒と本体をおろすとアランも耳から手を離し、演奏の感想を悩んでいる様子だ。ちなみに、楽譜も読めるわけがないためそこら辺は適当にやっていた。


「なんなんだ。今の音は……? 今時のガキでもそんな不協和音奏でないぞ?」

まるで化け物を見るかのような目で見られ、お手上げをアピールするかのように両手を掲げた。

ゲームでもこんなイベントがあったが、そん時は主人公が綺麗な音色を奏でてからの、アランが褒めるって感じだったよな。

……なんだよこの温度差!? 俺、ヒロインポジションじゃねぇの!? 別にヒロインじゃなくても全然いいんだけど!

「だから言ったじゃねぇか! 俺は楽器なんて触ったことねぇんだって!」

てか、なんで俺がこんなことやんなきゃならねぇんだよ!


事の発端はノアと入れ替わるようにアランがベランダに来たのが始まりだ。

稽古をつけてくれるとか言ってきて、ゲームの内容をすっかり忘れてた俺はアリスが武道かなんかやってんのかと思いちょうどいい具合に人をぶっ飛ばしたかったため特に何も聞かずについて行ったらこの始末だ。

甘い誘惑には裏があるってのはまさにこの事か。

くそ……復習しといたのに……なんでゲームの内容忘れてたんだよ……

やっぱり復習なんて意味ねぇんだ! 大人達は俺ら(子供)を騙してたんだ!

何度も何度もアランに教わり弾いているが成長する様子が見られない。ここまで来ると才能の問題ではないか、とか、楽器が壊れてんじゃねぇかっていう方へ逃げたくなる。


「昨日までのお前ならもう少し、いや、かなりマシに弾けてたぞ?」

「そーかいそーかい。そりゃありがとさん」

アランの言葉に適当に返しつつ俺はもう一度弾こうと構えた。

バイオリンの棒のやつを弦に当てて弾いてみるが死にそうな人の叫び声のような音くらいしか出ない。

でも、さっきよりは1週間くらい寿命が増えた人の叫び声だな。進歩進歩。


「そいや、なんでアランが直々に教えてんの? 家庭教師とかは?」

俺が弾きながら耳を塞いでいるアランにも聞こえるように大声で聞くとアランは耳を塞ぎながらも答えてくれた。

「何言ってんだ? アリスが頼んだんだろ?」

「そうだっけ? お前も苦労するなぁ」

他人事の様に言う俺にアランは苦笑いで返してくる。


「ちょっと貸せ」

「へ? おう?」

耳を塞いだ状態で命令口調で言われ俺は素直に演奏を辞めてアランに渡した。

意地でも俺の演奏は聞きたくねぇんだなこいつ。

「ありがと」

ボソッとお礼を呟きテレビで見たプロのような演奏の構えをして弾き始めた。


まじかよ……エグっ……


同じ楽器から奏でられてる音とは思えないほど綺麗な音色に嫌でも魅了されていった。曲の名前なんて知らない。正直バイオリンの音もこんなにちゃんと聞いたことがない。だけど、心が籠ってるこの音色に感激を覚えないことは出来なかった。

その証拠にアランが演奏を終えると自然と拍手を送っていた。


「すげぇな! お前!」

「だろ? これが本物だ」

素直な気持ちを口にし、誇らしげな笑顔を向けてくるアランは夕日のせいか頬がほのかに赤く染っていた。

少年のような無邪気な笑みに心臓がドキッとしたが気にしたら負けだから無視しといた。


「ーーわぁっ! さっすがアラン兄さん! 上手だね!」


いつの間にか閉まっていたこの部屋の扉が開いており、ピンク髪の男が扉に寄りかかりながら腕を組んで俺達の様子を眺めている。

こいつの名前はルイスだっけ?

あざとくピョコピョコと俺達に近づいてくる動作は兎のようだ。

大きな瞳でアランと俺を交互に見て、「ボクにもやらせてー」とバイオリンを受け取っていた。

こんなゆるキャラ野郎にバイオリンなんて弾けんのか?

もしものためとすぐに耳を塞げるようにと銃を向けられた犯人のごとく両手を上げといた。


だが、その心配もなさそうだ。演奏の構えに入るとルイスはさっきまでのふざけた感じはなくなり上品かつ集中してるのがすぐにわかるような空気を纏っている。格好だけでもプロ感が滲み出ていて上手そうだ。

そして、1度呼吸を整えるとアランと同じ曲を弾き始めた。


す、すごっ……


アランの様な優しく綺麗な音色とは違い、技術でものを言わせるような音色で誰が聞いても上手いと絶賛するような演奏だった。

この俺ですら2人の演奏は上手いと感じるんだから、おじいちゃんとかおばあちゃんが聞いたら感動して号泣してそう。

アランもルイスの演奏を上手いと思ったのか悔しそうに眉間にシワを寄せている。

演奏が終わり楽器を置くと集中力と上品さが一瞬で散り元のルイスに戻った。


「どうだったどうだった? えへへっ☆」

「めちゃくちゃ上手かった!」

俺が拍手を送るとルイスはご機嫌そうに鼻を擦り胸を張った。

「実はね、ボクは楽器の扱いだとこの国でも1番上手なんだぁっ☆ だから、アラン兄さんじゃなくてボクが教えてあげるよ?」

「おい。こいつを教えるのは俺だ。部外者はすっこんでろ」

ルイスの申し出に黙って聞いてたアランが口を挟む。

「えぇ? いいじゃーん! ボクの方が教えるのも上手だと思うし? アリスに対して酷いことも言わないし……?」

「なんだと……っ!?」

お互い睨み合い不穏な空気が流れ始めた。俺は正直、喧嘩になるくらいなら教えてもらわなくてもいいと考えていた。むしろ面倒臭いからもうやりたくない。

あ、窓に小鳥がいるー。かわいー。


2人が言い争っている間俺は他人事のようにしか思えなくて窓にいる鳥を観察していた。


「「アリスはどっちがいい!?」」


唐突に目ガン開きでこっちを向いた2人に小鳥はバサバサと飛び去り俺はキョトンとした。


は、はえ? なんも聞いてなかった。


途端に時が止まったかのように動かなくなり機械音の声がした。

このパターンはお約束の?


《選択してください》


ですよねーっ。

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