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アリス、現実逃避する

神様のイタズラか機械音の嫌がらせか。

無我夢中で走りたどり着いた場所はEden Kingdom(乙女ゲーム)のステージであり攻略対象が住んでいる一際目立つ純白の城。


ひとしきり走った俺は立ち止まり呆然とお城を見上げた。

ヒールはいつの間にか脱げ裸足になりドレスも所々破け華やかなお城に来るには場違いに感じる格好だ。


「……なん、で……はぁ、はぁ……ここに、つくんだよ……はぁはぁ……」


疲れで荒くさせた息を整えながら呟き、立ち去ろうと回れ右をした。

すると目の前には両手に買い物袋をぶら下げた女メイドが立っていた。

驚きで固まった俺とUMAと遭遇したかのような顔で固まるメイドはお互い間抜けな顔をしたまま数秒間見つめあう。


その間、頭上には雲と鳥だけが静かに流れていく。


賑やかな人々の声が聞こえてきたり、鳥のさえずりが聞こえたり、アリスの名前を連呼する声が城の中から漏れてたりと今日の王国も平和そうです。


て! や、やべえ! 逃げねぇと!

俺がハッとしたのが早いか、メイドがハッとしたのが早いか。

お互い目を見開き、口を開けた。


「失礼しまーー!」

「アリス様がいらっしゃいました! アリス様がいらっしゃいました!」


メイドがまるで甲子園のサイレンのように響く声をあげると城の中からワラワラと使用人らしき人達が出てきた。

みんな急いで出てきたらしくフライパンを持ってたりホウキを持ってたりと作業を中断して来てくれたようだ。


わざわざ俺のために。やぁ、もうありがとねぇ。仕事を中断してまでお出迎えいただいて。


……もうオワタ。


放心状態の俺は客観的にみたらきっと死んで5日くらい放置された魚の目をしてるのだろう。


「アリス様! よくぞご無事で!」

「ささ! 中へどうぞ!!」


こうして俺は打ち上げられた魚の如く城の中へ入れられるのであった。



「アリス様! お怪我はございませんか!」

「だ、大丈夫……」

「体調の方は!」

「だ、大丈夫……」

「なぜ裸足なのです!?」

「だ、大丈夫……」


俺を心配しすぎている過保護な使用人達は口々に聞いてくるが俺は覚えたての単語を繰り返し使うアンドロイドのように「大丈夫」しか言えなくなっていた。

そりゃ、そうじゃん。知らない人達にこんなよいしょされたら気が引けるわ。

それでも、安否の確認と実際の俺の状態は大丈夫そうとの事でみんなが「よかった」と口々に言葉を漏らしている。


俺は迷子の幼稚園児かっつーの。て、誰が幼稚園児だ!!


「ーーいいわけないだろ。今までどこほっつき歩いてた」


低く落ち着いた声だがどこか鋭さを含む口調で、城の中にある立派な真っ白い階段から誰かが降りてきた。

俺は顔を上げ降りてくる人物を目で追う。

声は1人しか聞こえなかったが降りてきたのは複数人で、黒髪や、金髪もいれば、ピンク髪と緑髪もいる。

どの人も初めて会うが見た事のあるメンツだ。

あー、この黒髪がアランか。他にもゲームの恋の相手の選択肢に出てくる奴らもいる。皆さん揃いも揃って美貌でゲームの中と変わんねぇなぁ……


既に思考が停止している頭でぼーっとそんなことを考えているとアランが眉間に皺を寄せたまま俺を見る。


「他の人に迷惑をかけるなと何度言ったらわかる。ったく……次期王妃だという自覚をもて。お前が国民を困らせてちゃ国はまとまんないぞ」


  ……って、なんで俺怒られてんだ?


俺は訳が分からずボケっと話を聞いてるもアランの説教は終わらない。


「別に外に出るなとは言ってないだろ? 出る時は護衛を付けたりーー」


いつまでも続く母親のような説教にボケーッと聞いてた俺も流石にイラついてきた。


「うっせえよ……」


俺がボソッと呟くとアランは「はあ?」と眉をひそめた。

じまんじゃないが、俺は物覚えがついた頃から今まで年中反抗期の親不孝者である。だから、ご察しのとおり説教が大っ嫌いだ。それはもう、俺の嫌いなものランキング3位には入ると思う。ちなみに、1位は夜中に耳元で飛んでる蚊。


しかも、今みたいなよくわかんねぇ事でずっと言われると苛立ちが増してくる。


俺は苛立ちが頂点に達したところで半ば無意識にアランの胸ぐらを掴みグイッと顔を近づけてメンチをきった。


「うっせえよ。黙れ」


その言葉にイラついたのかわかりやすくアランの顔に青筋がたつ。

俺の胸ぐらを掴んだ手にも力が入り血管が浮かび上がる。

俺もアランも今にも殴りかかりそうな雰囲気を醸し出している。

こいつもやる気かよ。甘々の乙女ゲームで初(?)の血祭りが起こしたろか!? ああ!?


「アリス様! アラン様!」

「お、落ち着いてください!」


使用人達はこの状況にワタワタと焦りを見せてるが、とばっちりを食らうのを恐れてるのか無理やり引き剥がすとかはしてこない。

 

「あははーっ☆ アリスおっもしろーいっ! ますます気に入ったよっ」


俺より少し背が高いピンク髪は弾けるような声でさり気なぁく俺とアランの間に割り込み引き剥がした。


なんだ? このゆるキャラ?


俺がゆるキャラに気を取られていると緑髪の真面目そうな奴も後ろから顔を出した。


「抜け駆けはダメですよルイス様。アリス様との婚約はアリス様自身に決めてもらうのですから」

「知ってるよーっ! でぇも、アリスと結婚するのはボクなんだからねっ」


ほえ? コンニャク? 婚約? なにそれ? おいしいの?


2人の会話を聞きながら俺の頭はいつになく素早く回転しているが、それでも赤点頭脳の俺にはこの会話を理解することが出来そうにない。

もしかしたら、もっとよく考えれば理解出来たのかもしれないが本能が理解するのを拒んだのかもしれない。


ゆるキャラと真面目くんが今度は喧嘩になりかけてる時に俺は空気を読まずに右手をあげて口を開いた。


「あ、あのさ、俺とあんたらってどういうご関係で?」


「……俺?」


思った以上に震える声でみんなに尋ねると彼らはお互いの顔を見合わせた。

アランがなにか呟いた気もするが緊張感MAXの俺には耳に入らなかった。

冷や汗ダラダラで返事をじっと待ってると使用人達も王子達も一斉に城全体に響き渡るくらいの笑い声を上げた。

ただ1人。眉間に皺を寄せたアランを除いて。

そんな笑うところなの!? 俺は笑えねぇんだけど!? 新たな才能開花しちったか!?


みんながひとしきり笑うと、ゆるキャラが笑いすぎて涙ぐんだ目元を拭いながら口を開いた。


「あー。面白い……ボク達とアリスは婚約者なんだよっ? まぁ、厳密に言うとボク達の誰かとアリスだけどねっ」

「う、嘘だろ? だって、俺……」


“俺は男で普通の男子高校生”と言いかけたところで俺はハッとした。


そうだ……ここは乙女ゲームの世界……


震える足が逃げ出したいと1歩後ろに下がる。


……俺は乙女ゲームの主人公ポジ……


また歩きたての赤ちゃんのように震えながらまた足が1歩下がる。


てことは……俺は……本当に男と結婚……?


そこまで思考が辿り着くとヒュっと息を呑み込んだ。


い、いやだ……


また何歩か後ろに下がると回れ右をして一気に駆け出した。


「アリスっ!?」


ゆるキャラの声が後ろから聞こえたが、気にせずにとにかく我武者羅に走る。

この城の事なんて何も知らない。それでもあの場から逃げ出さない勇気が俺にはなかった。


悪夢なら早く覚めろ! 俺は男となんてごめんだ!!

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