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ヤンキー、乙女ゲームに転生する

《選択してください》


真っ白な世界の中機械音でそのような言葉が聞こえた。


ここはどこだ?


辺りを見渡しても見覚えのない景色。というか、景色の“け”の字もないくらい何も無い真っ白で不思議な空間。

自分自身浮いてるのか地面に立ってるのかすらわからない。


なんだ。ただの夢か。

こんな非現実的な様子に俺はすぐに夢だと理解することが出来た。

夢の中でも意識がある。明晰夢か。

優等生風に分析しているがこれでもテストはいつも赤点の高校2年生。来年は進級できるかすら危うくなってる超がつくほどの馬鹿だ。

それに加え、学校では頭張るくらいの実力を持つヤンキーでもあるため喧嘩ばかりで留年どころか退学の危機もある。


《さっさと選んでください》


この状況に気を取られ機械音の事を忘れかけていたら若干キレ気味に話しかけてきた。

よく見ると空中に「和風」、「洋風」という字が浮かび上がっている。


「これはどういう事だ?」


《……》


「チッ……無視かよ」


ぶん殴りたくなったが、どこを殴ればいいのか分からいため行き場のない怒りと拳を沈めようと舌打ちをした。

まぁ、所詮夢。深く考える必要もないだろ。

俺は適当に「洋風」とだけ答えた。


《かしこまりました》


機嫌を直した機械音が初めと同じように淡々と告げ、それきり何も言わなくなった。

聞いただけかよ!?

思わず心の中でツッコミを入れてしまったがいっその事口に出して言った方が気持ち的に楽になったのかもしれない。


唐突だが、俺が洋風にした理由。

それは、こんな状況になる前に妹が中世ヨーロッパ風の王国がステージの乙女ゲーやっててめちゃくちゃ語られてたから洋風という単語が印象強かった。

確か「Eden Kingdom」って王国の話だっけ?

俺の妹は大の乙女ゲー好きで1度語り出すと3時間は離してくれない。ここまで来ると普段の授業よりも苦痛。もはや拷問。

そのおかげもあって男の俺でも地味に乙女ゲーの知識は豊富になってしまった。


あ、だから、勉強の内容が入ってこないんだ。なるほど。解決解決。


そいや、今日も夜にその話聞かされながらゲームをやらされたんだっけ。

でも、途中でめんどくさくなって床に寝転がってたらそのまま寝ちって、こんな夢を見たのか。


……いや、待て。これ地味にフラグ立ててねぇか俺。


だんだんとこの状況になる前の事を思い出してきて、募る不安と焦りに忙しなく足を動かして何も無い空間を行ったりきたりしていると再び機械音が話し始めた。


《お待たせ致しました。準備が整いましたので今からEden Kingdomに行って頂きます》


「は?」


《それでは行ってらっしゃい》


機械音は感情の籠ってない声でどこぞの遊園地のキャストのような言葉を発した。


「お、おい……」


何言ってんだと口にしようとした途端、目の前がパッと明るくなり思わず目を瞑り身構えた。


ほんとになんなんだよこの夢!





しばらくしてから恐る恐る目を開くと、先程の暗闇とは違い青い空に白い雲。太陽さんさんの明るい場所に来ていた。

ひと目で俺は外にいる事がわかったが、何か様子がおかしい。

確かにさっきまでは夢の中でその夢を見る前は家の中のはずだから外に出てるのはおかしい。

でも、それよりももっとおかしいのは俺は全く知らない場所の崖の上に立っていた。

あと、1歩でも前に出たら落ちてしまいそうなくらいの瀬戸際に俺は立っている。


「う、うわああ!?」


状況がわかった俺は思わず情けない叫びをあげ、後ろへ後ずさる。


な、なんちゅー所で立ってんだよ俺!? 自殺願望者かよ!!


下を見ると綺麗だが、荒々しい波が見え落ちた時のことを想像して身震いした。


や、やめとこ。これ以上見るの。


俺は波から目線を外しゆっくり後ろを振り向くとそこには中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。

真白く高いお城を中心に全体的に薄茶色い建物が多く見える。

俺はこの景色に見覚えがあった。

何度も何度も見せられてきたこの街の地図。


正しくここは“Eden Kingdom”そのものの光景だった。


「……嘘だろ……俺、フラグ回収しちまった……?」


夢だとわかっていてもリアルすぎて現実を受け止めきれず、半笑いしながら震える声で呟くと通りかかった1人の女性が声をかけてきた。


「あら? あ、アリス様じゃない! なぜここにいらっしゃるのですか!? アラン様や他の方々がご心配なさりますよ」

「え、はい?」

アリス、そしてアラン。この聞き覚えのある2人の名前。

アリスは妹が付けた主人公の名前で、アランは妹が大好きなゲームの登場人物。

耳が痛くなるくらい聞いたからその名前を忘れるはずがなかった。特にアランって名前は。

俺はそっと自分の格好を見た。

薄黄色い色をした袖や裾が広がってる華やかなドレス。現世では絶対に見ないし、もしそこら辺の女がこんなの着てたら浮きまくるだろうって思うような格好を“男”の俺がしている。


ーー男の俺が女もんのドレスを着ている。


俺の優秀な頭が今の状況を簡潔にまとめ終わるとブワッと顔に熱が集まったのを感じた。


「な、なんじゃこりゃあ!?」

「アリス様!? どうなさいました!?」


恥ずかしさのあまり俺は両肩を抱くようにクロスする。顔がこれでもかというくらい熱くなる。


「お、俺はそういう趣味はないです! み、見ないでくださいいいい!!」


興奮で声が裏返りながらもそう言うと裾を持ち上げてがに股で女性の前から立ち去るのだった。


アタイもうお婿にいけないわ!!

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