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愛の始まりは……

イシュタル視点の事後談です。

「はぁっ……本当なら、私の番でしたのに……羨ましいですわ」


 始まりの地で、めでたく夫婦となった二人の竜を見送り、火の者と地の者と別れ、今は、真核の奥にある“知識の間”でボヤいてみせる。


 儀式が終わった後、火の者と地の者は、自分達と同じく名前を付けてもらえるかと期待してソワソワしていたけど、それは叶わなかったのよね。


「今日は、我が妻もこうして疲れておる。次の機会にせよ」


 早速、リリスちゃんを気づかってみせるジークフリードに、感心しちゃったなぁ。


 この世界が出来てからずっと一緒だったけど、あんなに他の者に優しく接する事が出来るやつではなかった。


 皇帝竜でも、夫婦になると性格や振る舞いが変わる事があると、この時、初めて知ったわ。


 スッと、新しく薄い本が一冊生成される。


 誰が指示するでもなく、勝手に知識の書棚に収まっていく。


 あの本は、ジークフリードの記憶の一部。


 真竜に関する事柄が、新しい本に綴られ厚みを増すのだ。


 次の“理の扉”の鍵が緩む一万年まで、私のためにしっかりと記録してもらわないとね。


「次こそは、私が、扉の向こうから紛れ込んだ者と、契りを交わすんだから!」


 フンッっと、鼻で息を吹き付け、本棚の隙間から見えるこの部屋の入り口を、見下ろすように視線を向けた。


「ふむ、皆、来ておるのだな」


 部屋の入り口が歪むと同時に、見慣れた男が姿を現わす。


 その横には、水色の艶のある髪をなびかせ、まだこの部屋の雰囲気に慣れていないのか、視線をあちこち泳がせている少女がいた。


「あら、リリスちゃんもいらしたの?」

「あ、お邪魔します。イシュタルは、今日もここにいるんですね」

「ええ、そうよ。リリスちゃんや、他の奴らの記憶はどんどん貯まっていくから、ほっといたら勝手に収まっちゃうの。誰かが整理しないといけないのよ」


 火の者と土の者は、ここ数千年ここで過ごしているから、大して知識は増えていないんだけど。


 ジークフリードが活動を始め、新たにリリスちゃんが加わった事で、知識の量が数十倍に膨れ上がり、整理整頓する仕事が増えちゃったのよねぇ。


 特に、リリスちゃんと、今回、撃退した転生者の記憶が、あちこちの棚の空いている場所にしれっと収まっている。


「リリスちゃんも、余裕がある時に遊びに来て、手伝ってくれると嬉しいな」

「私の記憶も収まっちゃってるみたいですし、喜んでお手伝いさせて頂きますよ」

「あら、助かるわぁ。頑張ってくれたら、ジークフリードの弱いところ教えてあげるわね」


 羽の付け根とか、首の筋、ツノの付け根、ここら辺をちょっと擽ると……直ぐに発情しちゃうのよねぇ。


 皇帝竜全員の共通の弱点だけど、あの子は多分気付かないと思うの。


 ふふふ、ジークフリードをメロメロに惚れさせて、子作りに励むといいわー。


「お主、何を企んでおる。さっきから思考が漏れておるぞ」

「あら、嫌だ。乙女の心を盗み見るなんて。リリスちゃん、あいつ、私の霰もない心を見て来たのよー。これは、浮気じゃないかしら?」

「なっ、なんだと! 我は望んでおらん! 其方が明け透け過ぎるのだ!」


 普段から、他人の思考に潜り込む、悪い癖のせいじゃないのー?


 その癖、自分の器にはしっかり何重も結界を張ってるじゃない。


 自業自得ですわ。


「えっ、ジーク……これから結婚するのに……ひどいっ!」


 ふふ、リリスちゃんもいたずらっ子ね。


 可愛いらしい笑顔で、少し舌を出してこちらを見ている。


「リリスちゃん、こんなやつと一緒にいる事はないわ! 私と番いになりましょう? 私なら……ぬぐっぅっ!」

「余計な事を言うなと申したが?」

「ふぐぐぐぐっ! ふぐぅっ!」


 ジークフリードが、光のような速さで、素早く私の口に腕を回し塞がれてしまった。


 やっ、やるじゃない……この私の後ろを取るなんて……。


 流石、真竜になっただけの事はあるわね!


 動きが断然違うわ。


 だけど……。


(あら? 余計なことって何かしら。 あの子も、変態すれば雄になれるって事かしらぁあ? どうして、そこに拘るのぉ? あの子が雄になれば、私とも子作り出来て、皆、幸せになるじゃないー)

(リリスは、我の妻だ。其方は、別を探せば良いであろう。雄になれる事を、これからも教えるつもりはない)

(きゃー、やだやだ。本当の雄みたいになってるわ。それに、いつから、そんなに独占欲も強くなったのかしら? あと、何? その話し方。真竜になると語尾まで変わっちゃうのかしら? 不気味過ぎて、お腹が痛いですわ)


 私の言葉に動揺したのか、ジークフリードの腕が一瞬緩む。


 その隙を見逃すわけがない。


 素早く腕を振りほどき、リリスちゃんの後ろへと回り込んだ。


(ほらほらー、貴方がちゃんとしないと、私が取っちゃうわよー)

(なぬぅ! リリスに触れるでない! 語尾を変えろと言ったのは、リリスだ。雄の姿で、のじゃと語尾を付けて話すのは、似合わぬと申したのだ。変えるしかなかろう)

(えっ、何? 惚気? うわー、本当にあんた変わったわね)


 くぅ、まさか惚気話を聞かされる事になるなんて、想定外だったわ。


 今の私には、このまま話を続けるのがツライ。


 それに、リリスちゃんは外見も大人の女性として成長しつつあるけど、内面もかなり乙女になって来ている。


 ほら、この彼女から香る匂い……もう、完全に雌だわ。


 ジークフリードが、雌の姿に拘るのは、そのせいでしょうね。


 はー、雄の姿もそこそこいい感じなると思うのに、本当に残念。


(お主達、そろそろ止めにせぬか? この場は、知識と知性を共有する場であるぞ。揉め事を持ち込むでないわ)


 天井から、火の者の苛立つ声が降りてくる。


(うむ、すまぬ、火の者。イシュタルよ、そういう訳だ。変態の雄化は決して、リリスに教えてはならん。代わりにこれをくれてやるのだ)


 ジークフリードが片手を閉じて開いて見せる。


 その手には、淡く緑色に光る珠が現れ、そのまま私に投げつけきた。


 慌てるまでもなく、私は光珠を額で受け止め取り込んだ。


(ふーん、やっぱり私達に内緒にしてたのね。あんたが、リリスに拘る理由が分かったわ。もっと早く言いなさいよ……)

(うむ、隠していたわけではないが、我にも確信がなかったのだ。だが、リリスと触れるようになった今、それが分かったのでな)


 光の珠には、ジークフリードが理の扉から、時を超え他の世界を見ている光景が記録されていた。


 扉が開いていた時間は、こちら側では一刻に過ぎない。だけど、別の世界ではおよそ三百年分を観察する事が出来る。


 ジークフリードは、その時間を使い別世界でリリスの魂と会っていたのだ。


 別の世界で、リリスちゃんの一生を二度も側にいて見送るジークフリード。特に何をする訳でもなく、ただ観察対象として近くにいるだけの関係。


 あいつにとっては、知らない世界の人族の存在が興味深かったのでしょうね。十分な知識が得られ、満足したように思える。


 だけど、この記憶は何とも言えない寂しさが感じられた。


 私達が、番いを作ろうという考えが浮かんだのは、この記憶から一万……うーん、四千年以上後だったかな。


 あの時に、番いを作る発想を持ち合わせていた方が良かったのかは分からない。別の世界で、私達が介入すれば、排除対象とみなされ、穏やかな暮らしを送る事は難しくなる……。


 こちらの輪廻に紛れ込んできてくれたのは、あいつにとっては僥倖だったんじゃないかな。


 そりゃ、こんな出会いがあったら、リリスちゃんに執着せずにいられないよね。


 当時の姿と比べたら、魂の波長は同じでも、心も身体も今の方が可憐で、純粋だし。


 運命の出会い……だよね……完全にあいつはリリスちゃんに惚れてるじゃない。


 あー、もう、こんなもの見せられて、こっちまで熱く感じちゃうわ。


(はぁー、本当、あんた段取り悪いわね。分かったわ。こんな馴れ初めがあったんじゃ、邪魔は出来ないわ。黙っててあげるから、ちゃんとリリスちゃんを掴まえておきなさいよ! ちょっとでも、離れたら分捕ってやるんだから!)

(すまぬ、その記憶は、リリスの手の届かない場所に置いてはくれないか。時が来たら、我から説明する)

(はい、はい、分かりました。ちゃんと管理しておくから、安心なさい)

(うむ、たすかる)


 ちぇー、ちょっとは隙が出るかと思ったのに……。


「リリスちゃん、貴女、本当にジークフリードに愛されてるのね。妬けちゃうわ」


 ギュッと、リリスちゃんの身体を後ろから抱き締めた。


「えっ? あわわ、イシュタル? どうしちゃったの?」


 ふふ、可愛いんだからー。


「何でもないわ。リリスちゃん、幸せになるのよ」


 慌てるリリスちゃんの頭に頬を寄せた。

サイドストーリー如何でしたでしょうか。

創世の竜であり、皇帝竜のイシュタルさんの視点で書かせていただきました。


沢山の応援、本当にありがとうございました。


状況次第では、また追加したいと思いますので、

ブクマや評価などで応援頂けますと幸いです。


変わらぬご支援、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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[気になる点] イシュタルは雌化出来ないのでしょうか?
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