うん、滅ぼそう
「お嬢の居た部屋はな、リュミエールがお忍びで外に出る時に着替えるために使ってた部屋なんだわ。まさか、あんな事に利用されるなんて思ってもなかった……」
マッテンさんの言葉に、ピクリと反応する。
あの部屋は、母親が使っていたのか……。
逃げる時、あちこち使えそうな物を勝手に持ち出したなぁ……。ストレージの中を弄れば、色々出てくると思う。
今さら返せとか言われなさそうだし、形見として、大事に保管しておくか。
「お嬢が満足な身体じゃねーのに、脱走出来たって聞いて驚いたがな。あの家はな、至る所にヤベェ魔法が掛けられていてな。お嬢のベッドの下には、自然治癒阻害の魔法陣が敷かれていたんだ」
おぉぅ……そりゃ、どうやっても火傷治りませんわ……。
誰だよ! そんな恐ろしい魔法かけたの!
その後も、マッテンさんの口からとんでもない話が出てきた。
父親と母親の部屋からは、生命力を吸収し転送する魔法陣が隠されていて、どこに吸収した力を転送しているのかまでは、突き止められなかったそうだ。
もう一人の母親、レーナさんの部屋からは、気力を奪う魔法陣が見つかったとか。
かなり巧妙に隠されていて、特に、日常で使う魔道具の中に偽装されていると、なかなか気付くのは難しいらしく、父親も母親も気付けなかった。
自分も知らなかったけど、高級なベッドの台には快眠の魔法陣とか、老朽化防止の付与魔法が施されているそうで、それを逆手に、ヤバイ魔法陣を埋め込んだという訳だ。
たまたま、ボーマンさんが自分の寝ていたベッドを調べた時に、自然治癒の効果がベッドで阻害されている事に気付いて発覚したそうだ。
……。
自分の命だけじゃなく、父親も母親達も狙われていた。
母親が亡くなった原因のひとつに、魔法陣のせいもあるんじゃないかと、マッテンさんは語る。
それが本当だとしたら……犯人は見つけて、存分に苦しみを与えてから殺す。
回復魔法を使って、何度も殺す。
許せない……。
「リリス、少し落ち着くのじゃ。腰が浮いておるぞ。その方はまだ魔力が無いじゃろ。慌てるでない」
ジークの大きな声で、ハッと我に変える。
椅子の肘掛けに両手を付いて、今にも飛び出しそうな姿勢になっていた。
周りにいる人達が、心配そうに自分の様子を伺っている。
「すいません、取り乱して……」
皆に一度頭を下げて、椅子に座り直した。
くそぅ……この身体が万全だったら……。
悔しい。
「お嬢は、本当にリュミエールの娘だな。がははは」
厳しめの顔をしていたマッテンさんだったが、いつの間にか笑顔に戻っている。
少しだけ、部屋の中が明るくなった気がした。
けれど、この話はまだ終わらなかった。
自分を部屋に閉じ込め、魔力の注入を強要していたメイド達は、父親とマッテンさん達が調査した時に全ての悪事が発覚。実家の貴族の家に戻された。
二人とも貴族の娘なので、父親は処罰する事が出来なかったとか。
その後、マッテンさん達が、詳細をもう少し聞くために二人に会いに行ったが、実家にしばらく居た事までは確認できたが、その後の足取りが分からなくなり会えなかったそうだ。
屋敷の変化に気付かなかった、もう一人の母親レーナさんは、気力を奪われ続けていたせいで、何年も部屋から出ていなかったとか……。
まぁ、悪い奴は頭が回る。
上手いことレーナさんを偽っていたのだろう。
父親は、何をやっていたのか問い詰めたかったが、マッテンさんの話を聞いて、ブラック労働過ぎて絶句した。
あー、そうなのね……そりゃ無理だわ。
よく、過労死しなかったと思う。
貴族の粘着質な嫌がらせが極まっていた。
貴族共が王様をけしかけ、休む間も無く任務を与え続け、母親が亡くなった日も家に戻れていなかったとか。
最後の別れも出来ず、亡くなった日の四日後に、傷だらけでボロボロになった状態で冷たくなった母親と再会したそうだ。
「ひどい、ひど過ぎる……」
その話を聞いて、理由も分からず胸が熱くなり涙が溢れた。
「泣いてくれるか、お嬢。くっ、うっ、うっ」
マッテンさんもエドランさんも、つられて一緒に涙する。
「まだ、続くんじゃぁ……聞いてくれるかあ、お嬢」
「はっ、はなじで、くだしゃい」
聞くも涙、語るも涙。
ベゾベソの状態で、話を聞いた。
レーナさんは母親が亡くなったその日から、徐々に体調を崩し始める。
領主不在の地で、レーナさんは体調不良となり、決定権者がいなくなる。これ幸いだと、貴族が間者を領地や屋敷に紛れ込ませて、やりたり放題だったとか……。
当然だけど、領主の代わりを務める父親が任命した信用たる代官も陥れられ……貴族の回し者に代わり、領民を虐げていたそうだ。
そんな状況で、父親の心配する便りが自分達に届くわけもなく。すれ違いが起きるのも無理もない。
こんな事になる前に、貴族なんて捨てれば良かったのに、今更言っても遅すぎるけど、絶対、判断間違ったよね。
「あいつらは、旦那の良心を上手く操ってやがってなぁ。貴族共が、リュミエールやお嬢、レーナを治す薬だ、名医だと恩着せがましく紹介してきたんだが、とんでもねぇ額の金を毎回要求してきやがってたんだわ」
あぁ、完全に嵌められてる。
「その金を稼ぐためでもあったんでな、旦那は依頼を断れなくなったってんだ」
多分、同情する振りをして、他にも色々汚い手を使ってきたんだろう。
使い勝手のいい駒に仕立て上げるために……。
マッテンさん達が、クセルレイに来た訳は、母親の忘れ形見である自分と父親が離れ離れになってしまった事を憂いて、何とか引き合わせたかった。
まさか、王妃様の養子になるとは思ってなかったみたいで、潜んでいた会場で飛び出しちゃったそうだ。
「お嬢を危険な目に合わせてすまなかった。まさか、黒十字騎士団が追ってきてるとは、俺達も知らなかったんだ」
「黒十字騎士団って、もしかしてテレッチアの騎士ですか?」
「ああ、あいつらはテレッチア王妃の直属の騎士団だ。王族に楯突く奴は、みんな黒騎士に殺されちまった。ポンドゥール帝国が持ってきた魔道具の実験台でな」
生まれた国が、家庭環境が、ハードモード過ぎる……。
人を実験台にするとか、テンプレになぞられば、完全にこの世界の敵確定だわ。
エドランさんが、更に確信めいた事を語り始める。
「あの女の周りも調査していて判明したのですが、メイド二人が作らせていた魔石の買取先は、黒十字騎士団の御用達の商人でした。おそらく、お嬢様の力を他国に利用されるのを防ぐために刺客を放ったと……」
人工的にリスク無しで魔石がぽんぽん作れたら、魔道具の研究にはもってこいの人材だよなぁ。
他国に渡すくらいなら殺す。
異世界物語の展開的なパターンだ。
こういう時、物語ならどうやって乗り切るのか……思い返しても具体策は出てこない。
こんな事なら、もっとちゃんと読んでおけば良かったよ。
国家から命を狙われている問題。
早く解決しないと、自分の周りでまた不幸が起きる。
取り敢えず、現状を打開するために、父と母を苦しめた奴らに復讐だ。
復讐が終わってから、後の事は考えよう。諸悪の根源を断ち切ってからでも、遅くはないのだ。
とりま、テレッチアの王族と貴族は、漏れなく滅ぼそう。
ハァッ
ため息が漏れる。
自分の家が、ここまで無茶苦茶にされていたとはね……本当にショックが強すぎるよ。
あの家で起きていた事は、概ね理解した。
もう、父親に会いたくないという気持ちはない。むしろ、会って安心させてあげたいという思いに駆られた。
母親のお墓があるのかな……二回も死にかけたけど、ちゃんと元気にしているって報告したいな。
「マッテンさん、お母さんのお墓はテレッチアにあるの?」
「お嬢……リュミエールの墓は、真祖の大森林だ。エルフ達が守っている。お嬢だったら問題なくいけるぜ」
そっか、テレッチアにはないのか。
逆に良かったのかも。自分が生まれた国だけど、何度も行きたくない……。
いっぺんに話を聞いて、泣いたり怒ったり大変だった。
脳みそがお疲れで欠伸が出そうになる。
誰にもバレてないよね?
目元に出来た涙を、袖で拭った。
ガタッ!
部屋の壁沿いで椅子に座って控えていた、ギルドの職員さんが突然立ち上がる。
「話は聞かせて頂きました! なっ、なんて酷いお話。竜姫様が不憫でなりません! そこの奴隷、今の話は真実ですか? 私、テレッチアが許せませんわ!」
「ぐふぅ、同感だ! 何て許し難き話。我らの竜姫様に何たる仕打ち! ご両親をお救いし、我ら騎士の誇りにかけて、テレッチアを殲滅してみせます!」
ドラゴニアの人達の同情を誘ってしまった……皆、いい人だなぁ。
でも、あぁ……無関係の人もいますしね。もう少し、戦略とかいろいろ考えてからに……。
「うむ! その話、我も乗ったのじゃ! テレッチアとかいう国は消して問題なかろう。我にかかれば、秒で壊滅じゃ」
ちょ、まっ、ジークまで乗っかるなぁー!
まて、まて、まて、ちょっと落ち着こう? ね?
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