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念コミュニケーション

(約束は違わぬ、早う説明するのじゃ)


 取って食べたりしないと念押しで確認。


 穴から這い出て、竜の顔の側に立った。


 出た穴を振り返ると、ちょうど竜の脚横だったようだ。


 放っておけばそのうち穴の傷は塞がるらしいけど、痛々しいのでエクストラヒールで治療しておいた。


 異世界の物語の常識、所謂「テンプレとは」を説明し始めた訳だが、事ある毎に竜から質問責めにあう。興味を刺激したまでは良かったけど、説明が遅々として進まない。


 おしゃべり好きなのか、この竜は……。


(ほう、ダンジョンというのは興味深いな。案内せよ)

(其の方の言葉が我等に通じる? ほほう、それがテンプレであるか)

(魔王? 魔王とはなんじゃ? 我より強き者がおるとは思えぬが、興味深い)


 ダンジョンが何処にあるかわからないし、この世界に存在するのかも妖しい。魔王にも会った事がないので、この先の自分の人生で遭遇するかもしれないと言葉を濁した。


 お約束の展開、テンプレに沿えばあるかもしれないと説明。


(ふむっ! 其の方は未来予知を持っておるのであるな。稀有な魂を持っておるのも納得である)


 この世界に来てから、ここまで話す相手はいなかった。竜と向かい合って会話する事に楽しさを感じた自分は、思い出せるだけ、前世の知識をほじくり返し伝える。


(人族の営みも実に興味深い。ふむ……召喚しておいて追放してしまうとは、矮小な種族は心も未熟であるな。実に滑稽じゃ)


 ……久々の長話に流石に疲れが溜まってきたのか、今日は話をお仕舞にさせてもらい、山を降りて野宿する。眠ろうとしているのに、念話を飛ばして続きを聞こうとするのは止めてほしかった。




 ――翌朝、ドーンっと大きな音と衝撃で目を覚ます。


 寝床にしていた穴倉から顔を出すと、昨日の竜の脚が見えた。


(そこにおったか、森の民よ。さぁ、もっと我にテンプレとやらを聞かせるのだ)


 昨日、散々思い出せるだけ話したので、もうほとんどネタがない。それに、この竜はテンプレとか異世界小説の話に興味があるだけだ。


 ここに来た目標、「竜を仲間にする」はこの竜では難しい気がする。


 目の前で、ギラギラ期待に満ちた眼で自分を見てくる竜。なんとか宥めて、家に帰る事にした。


(なぬ? もう帰ると申すか。これでは話が聞けぬではないか! 我が、其方と行動を共にする事はテンプレと言っていたな)


 うん、まぁ、そうなんだけど……お話大好き、質問責めの竜と一緒は……。


 自分の考えを他所に、竜は突如、顔を天に向け口をガバっと広げた。竜の腹がボゴッと膨らみ、喉元へ何かが競り上がる。


 ゴトン


 目の前に、青く透き通った丸い球が落ちてきた。直視出来ないほどの光を放ち、思わず目を覆って隠す。


(その石を受け取るが良い。我の友好の証である。其の方の行く末、実に興味深い。我が再び眠りにつくまで間、共にあろうぞ)


 早く球を拾えと言わんばかりに、こちらに視線を向ける竜。


 これで果たして良かったのだろうか……一抹の不安を感じながら竜の友好の証を頂戴した。


 とりあえず、一緒に行動する仲間が出来たので喜ぶ事にして、今後の話を竜と行う。


 いろいろと聞いて見た結果はこうだ。


 皇帝竜という種族で、この世界にはあと四匹いる。縄張り意識は特にないそうなので、揉め事が起こらなそうで安心した。森の民に怒っていたのは、眠っている際に度々鱗を剥がしてくるからだそうだ。もしかしたら、万病の薬の材料になるのかな?


 この世界が誕生した時から存在しているけど、神様という存在は知らないそうだ。


 一番懸念していたのは食事情。食べなくても良いらしいけど、体内魔力を冬眠中に消費するそうで、魔力補充を目的に魔獣を狩るそうだ。


 そう教えてもらった際に、なんとこの竜……インベントリのような魔法で空間を作り狩った魔獣を保管していた。


(其の方が使えて、我が使えぬと考えるのは稚拙であるな)


 ふんっと、鼻息から炎を出して憤慨している。前世の知識を持ってしても、ここまで出来る竜なんて知らないのだ……憤慨されても困る。


 あと、名前を持つ習慣もないそうだ。


 アルフォンス、ジークフリード、アレクサンダー、ランスロット……。


 呼び名が無いと、会話がしづらい。幾つか候補を決めて選んでもらった。


(ジークフリード、良い名であるな。我の名はジークフリード。ふむ、通称はジークであるか。良いぞ、そう呼べば応えよう)


 名前を付けられたのが、満更でもないようで瞼を閉じて頷いている。


 その後も、これから人が居る所に出て行く訳で、いくつか約束と確認をした。


 ひとつは、人は食べ物ではない。危害を加えられない限り攻撃しないことをお願いした。ジーク曰く、食べても魔力が少ない人族は、腹の足しにならないので問題ないそうだ。ただし、自分は別らしく、魔力が沢山あるので美味しそうだとかなんとか……一瞬身体がビクッと震え、パンツがジワッとしたけど……大丈夫……。


 ジークの図体はかなり大きい。ビルの三階くらいありそう。テンプレなら小さくなったり、人型になれたりするのだけど、ジークも出来るのか聞いてみた。


(なんだと! テンプレの竜族はそこまで出来るのか! うむー、我はここから出る事は無かった故、そのような力の使い方は知らぬ。検討しておこう)


 何れ出来るようにしてくれる様だ。何時までとは期限を付けず、お任せする事にした。通常時は、丸くなると巨大な岩っぽくなる。とりあえず、それで街の外にいてくれたらいいかな。


 緊急時以外は、街の外か森の中にいてもらう事を約束してもらった。


 最後に、背中に乗せて移動の脚になってもらえるか……怒ったりしないかなっと心配したけど、大した事ではないそうなのですんなり許可を貰う。


 いろいろと心配毎はあるけど、話をしているうちにジークとなら上手くいきそうだと感じた。


 すごい竜の相棒が出来ちゃったと、内心喜んだ。




 ――ジークの首筋にある突起物を掴み、空を飛んで家に帰る。


 スピードが出ている事もあるけど、とにかく空の移動は寒い! 身体強化に火と風の魔力を帯びさせて対策しないと、凍え死んでしまいそうだ。


 ジークに、ここから南東にある森まで向かってもらったのだけど……どこをどう間違ったのか知らない土地に着陸した。


 目の前には、顔を引きつらせた騎士の人と、ジークを見て恐怖から暴れている馬が沢山いる。先頭にいる騎士さんに、ここがどこなのか尋ね現在地を確認しようとした。


「エッッケン! ダィ ドルエンシア、ドゥビィドゥヴァ!」


 声を掛けた騎士が、謎の言葉を発して馬から転げ落ちる。そのまま、後ろにいた騎士さん達の下まで走り出す。


「ダダンドゥ! ア、ダダンドゥ!」

「ちょ、まって。ここどこか教えてください」


 騎士さんの集まりに向かて駆け出したら、全員踵を返し走り去ってしまった。


(リリス、其の方何をしたのじゃ?)

(いや、ここがどこか聞いただけなんだけど……)


 姿が見えなくなった騎士さん達の事は忘れ、ジークに少し低めに飛んでもらい絶望の大森林を探した。


 ジークと一緒の空の旅は楽しいけど、目的地にちゃんと辿り着ける方法を考えた方がいいね。


 そんな事を考えつつ地上に目を凝らす。


 日暮れが近づき、平野が夕焼けに染まる頃、大きく薄暗い大森林が眼下に現れる。


 そこから数刻、我が家に無事到着した。




 ――この日、クセルレイ帝国に海を挟んだ隣国シャンクスダレイ公国が侵攻を開始。五万の軍勢が、クセルレイ帝国南端にある都市レリッシュに迫ろうとしていた。


 レリッシュの城壁からもシャンクスダレイの軍勢が目視でき、開戦まであと数刻。援軍の到着の知らせも無く、守備を担う騎士達に緊張が走った。


 しかし、その緊迫した空気は一変される。


 突如、ゴォォォッっと爆音が空から聞こえ、白銀の巨大竜がシャンクスダレイ軍を遮る様に降り立ったのだ。


 グォォォォォッ!


 白銀の巨大竜の雄叫びが辺りを震撼させる。


 シャンクスダレイ軍は総崩れとなり、竜が飛び去った時には軍勢の姿も見当たらなかった。間近に迫った脅威が無くなった事に、レリッシュの人々は歓声を上げる。


「神の使いが白銀の竜を遣わし、我等を救いくださった」


 路に迷って案内を頼んだだけの話が、後世までレリッシュの人々に語り継がれるとは、本人達は知る由もなかった。

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