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エンドレスダイブスタミナポーション

 王様の部屋には先触れを出してくれていたようで、お高そうな椅子に座ってどっしり構えていた。


 騒々しいのは何事だ! とか何とか最初は威厳を保っていたけど、王妃様に囲まれ「お命が」「呪いが」「健康が」とマシンガンのように三人に言葉責めを食らったので、王様も少しトーンが下がり、直ぐに素直に話を聞いてもらえる態勢になった。


 女性のここ一番のパワーには(かな)いませんね。


 とりあえず、王様にサーチ魔法で患部と呪いのありそうな箇所を探す。執務室なので横になる場所はないので、座ったままでサーチしていく。


 喉にちょっと赤い点が見つかる……たぶん、風邪の引き始めかな? そのまま目線を下に下げていくと……股間に紫色の鎖が……。


「ぶふぉっ」


 こんな大事なところに……思わず吹き出してしまった。


 ご本人の名誉もあるし、直接触れるのはいろいろ不味い。腰に手を添えるのすら外聞が良くないだろうし……困ったな。


 手のひらからだと、ちょっと遠い気がする。患部まで魔力が流れるか怪しいのだ。お腹だったら大丈夫かな?


 王様から少し離れて、王妃様達に相談を持ち掛けた。鎖の箇所はみんなと同じ下腹部と偽って伝えると、王妃様達は揃って「お命が救えるのであれば問題ない」、「治療術師は身体によく触れてくるので当たり前」と言うお墨付きを頂いたので、とりあえず王様のお腹から治療する事にした。


「お腹から魔力を流して、病巣を取り除く治療をいたしますがよろしいですか?」

「うむ、健康になるのであれば致し方ない。直ぐに取り掛かるが良い」


 王様にも許可を頂いたので、お腹から魔力を流し股間に絡まっている呪いの鎖を砕く。


「ふぐっ!」


 と、王様が鎖を破壊した時に悶えたけど気にしない。気にしちゃダメなので……。


「エクストラパワーヒール!」


 治癒魔法もかけたので、王様の身体に異常は見当たらなくなった。


「ふむ、これが、皆が騒いでいた治癒術であるか。ほっほっ、この感覚、昔に戻ったように腰に軽さを感じるな……助かったぞ、リリス」


 視線を下げないようにして、王様のお腹から手を離し後ろに下がる。王様の顔色が初めて見た時より血の巡りが良くなったようで赤味を帯びていた。


「政務でご多忙とは存じますが、お疲れの際はよろしければこちらをお飲みください。身体の疲れを癒すスタミナポーションです」

「ほう、我の身体まで労わろうと申すか。其方の心遣い感謝する」


 王様の机を見ると、沢山の書類が山積みになっている。これをどのくらいのペースで決済するのか分からないけど、ちょっと大変そうだ。帝国の王様だし、業務量は計り知れないですね。


 さっとカバンからポーションを取り出し王様に渡そうと思ったら、横にいた男の人に止められた。


「陛下、このような平民から受け取ってはなりませぬ。こちらは私目がお預かりいたします」

「その方に伝えておらなかったが、この者はメルティナが後見しておる。まだ平民ではあるが、近いうちに我らと同じ貴族として迎えるつもりだ。心配はいらぬ」

「それは、誠でしょうか。平民に爵位を与えるなど前例がございませぬぞ」


 ぷんぷん怒っている男の人と、王様のやり取りを静観。


 だんだん言い合いがヒートアップしてきたその時、男は手に持っていたポーションをグイッと飲み干し喉を潤した……。


「ふぎゅっ」


 男は突然身体をくの字にして、王様から一歩後ろに下がった。


「どうした、ボルトン! 何があった!」


 王様の問いかけに「あっ、くふっ」と悶えるだけで言葉を返せない。


 おかしいな、いつも飲んでるスタミナポーションなのに……。


 男は身体を曲げたまま内股で王様に近づき耳打ちする。


「ふむ、それがこうなって、爆発しそうだと……それほどの効目であるか?」


 ボルトンと名乗る男は、脂汗を流しながら苦悶の表情で頷く。


「その様子では、仕事にならぬな。今日は下がってよい。直ぐに帰り妻を愛でるがよいぞ」

「あっ、ありがたきお言葉……そっ、それではこちらで……」

「それと、リリスの件だが我が決めた事で進める。良いな」

「はっ、仰せの……ままにいたします……」


 ボルトンさんは内股でひょこひょこしながら部屋を後にする。王妃様達は何が起こったのか分からずポカンとした目で彼が出て行くのを視線で追った。


「リリスよ、先程のポーションはまだ持っておるか?」

「はい、ございます」


 王様の机に、一本、二本、三本と置いていく。


「ほぅ、これは素晴らしい。では、我もひとつ頂こう」


 キュッポンっとポーションの瓶から木の栓を抜き、グイッと一気に飲み干す王様。


「ふぐっぅ!」


 その瞬間、ボルトンさんと同じく王様は身体をくの字に曲げ、机に頭を載せて蹲った。


「リリス! 陛下に何を飲ませたのですか! まさか、毒物……直ぐに回復師を!」


 王妃様が目の前に立ち塞がり鬼の形相で睨んでくる……おかしい……どうしてそうなる……。と、思い自分もスタミナポーションをくいっと飲んで見せる。


 シュワーッと身体にポーションが浸み込み、肌が瑞々しくなっていく感覚。王様やボルトンさんのようにくの字になる気配は無い。


「メルティナよ……ぐふっ……これは毒ではない……リリスを責めてはならぬぅ」

「ですが、陛下! お顔が優れませんではないですか!」

「ぉぉっ、ふっ、ふっ。この程度で我はどうにもならぬ!」


 バァァァンッ! っと、王様は机を叩き立ち上がる。


「ヒッ!」


 王妃様達やその周りの騎士達が恐れ慄く。


「ウッ! しゅ、しゅばらしい……ぞ……リリスよ。このポーションはいかほどか」

「はっ、はい。ミンツの商人ギルドで金貨三枚になります」

「なんだと! これが金貨三枚だと! ならぬ、ぐふっ! これからは金貨五十枚で販売せよ!」


 脂汗でびっしょりの王様が鬼気迫る目線でこちらを見る。めっちゃ怖い顔しているけど、凄い値上げの指示が出た。もう何が何やら……理解が追い付かないです。


 ふぅ、ふぅっと呼吸を整える王様。


「今持っているポーション全て……あっ……我がひとつ金貨五十枚で買い取る。全てここに出すがよい」

「はっ、はい、ありがとうございます。部屋に戻れば全部で百本はあると思いますが、よろしいのですか?」

「ひゃっ、ひゃくだとぉぉ!」


 ドガンと、王様は拳を机に叩きつける。


 怖い、王様めっちゃ怒ってる? 百は多すぎたから? 多いと逆に怒られるの意味が分からないよ……誰か助けて……。


「うごぉっ! ははは、震えておるわ! この全身から漲る力……うぉぉぉっ! リリス! 全て購入しよう、本日中にもっているだけ全て納品せよ! 良いな!」

「はっ、はい、王様!」

「金は明日渡す! 本日もここで過ごすが良い!」


 そう言い放つと王様は執務室から退室しようとする。


「メルティナ、其方もリリスの治療を受けたのであるな。であれば、可能であろう。これを飲んで付いてまいれ!」


 王様は王妃様にスタミナポーションを渡して部屋を後にする。一瞬、王様の迫力に押されて顔を引きつらせた王妃様は意を決しポーションを飲み干す。そのまま、王様の後を追い部屋から退室した。


「リリスと言いましたね。どういう事かしら?」


 残された第二、第三王妃に問い詰められる。


 あくまでも予想だけど、男性と女性では効能が違う事を説明し、その場をやり過ごした……。


 もう、何がなんだか分からないよ!



 ――その後、スタミナポーション改めスタミナくんEXには、男性が服用すると勃起改善、精力増幅作用がある事が判明。しかも、副作用は翌日になると肉体疲労を軽減し気力が充実するという有難い効果が付いていた。また、女性が服用すると母体に効果が蓄積され強い子供が授かるという都市伝説まで生まれる。


 クセルレイ五十三世はこのポーションを愛用。


 第一王妃メルティナ、第二王妃バレンチナ、第三王妃セレーヌの三人を同時に愛でる性豪振りを発揮する。


 王妃達の軋轢も解消され、後継者問題が起こる事なく生涯仲良く王を支え続ける結果となった。


 後のクセルレイ五十三世の伝記にはこう記されている。


「我、老いてなお現役。我妻を生涯離すことなく愛す」


 この言葉の五年後、享年八十歳を迎えた日。三人の王妃に囲まれ、腹上死を成しえこの世を去る。その表情は、男の本懐を成しえた満足感が伺えたとかなんとか……それはまた別のお話。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大笑いしてしまいました。 このポーションほちぃ……
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