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謁見 その3

「リリス様、少し御髪が乱れていますので少し待ちください」


 お付きのメイドさんが、シュバルツさんに抱えられたせいで乱れた髪を整えてくれる。その間に、何度も息を吸って吐いて呼吸を整える。


「これだからイケメンはイケメンなんだ……」


 隣で満足気な表情を見せるシュバルツさんに恨むように目線を送った。ニコニコ笑顔を向けるだけで悪びれた様子がないのが癪に障る……くそぅ……。


 髪も服も整えてもらい、一度大きくすって背筋をピンッと伸ばし扉の前に立つ。


 こちらの様子を伺っていた護衛の騎士さんがハッと我に返り口を開いた。


「リリス様、お成り!」

「入って良し!」


 扉の奥から低いけどよく通る声が返ってくる。その声を合図にシュバルツさんに右手を差し出しゆっくりと中へ歩を進めた。


 扉から二歩、三歩……そこで一旦止まって、手でスカートを摘まみ少し上げる。


「リリスと申します。本日はお招き頂きありがとう存じます」


 膝をちょっと曲げて身体を低く……王様の顔はまだ見てはいけないとかなんとか……視線は赤い絨毯に向けたままに許しが出るまで待つ。


「ふむ、なかなか様に成っているな。今日は私的な場である故、面を上げここに座るが良い。シュバルツ、其の方も席を同じくする事を許す」


 王様の許しがあっさり出たので、前に視線を向けると髭を蓄えがっしりした面持ちの男性と、おっとり優しい笑顔の女性に、盗賊のアジトで救出した王女様が座っていた。


 後ろに控えていたメイドさん達に席を案内してもらい、王様とさほど距離の無い場所に座らされる。姿勢を正して身体を王様に向けてにっこり笑顔を作った。


「リリスよ、此度の働き見事であった。帝国の不埒な者共を単独で成敗し、さらに我が王女を救い、騎士団の自浄にも力を貸したと聞いておる。功績を全て騎士団に譲り、この者達の名誉まで慮る精神に我は感服した。クセルレイ帝王の名において、礼を述べよう。よくやった」

「勿体なきお言葉、頂戴いたします」


 すこしだけ頭を下にし、王様の言葉を受け取ったように見せる。そのまま続けて、王妃様と王女様、シュバルツさんの順に御礼の言葉を頂く。


 畏まった場はそこで終わり、皆少し砕けた感じで会話を始めた。ただ一人、自分を除いて。盗賊をどうやって倒したのかとか、書類は何処に有ったのか、捕らえられた人達が傷ひとつ負っていなかったことなど、根掘り葉掘りと質問攻めにあった。


 特に魔法については、この世界とは根本的に違うようで王様とシュバルツさんは物凄い関心を示していた。


 ファイアとかスリープで魔法なんて発動しないんだって! この世界では、詠唱魔法や魔法陣経由で発動させるのが基本らしいよ。


 王様が試しに詠唱魔法を見せてくれた。「何とかの名において、顕現せよ、なんちゃらかんちゃらー」で、火の玉がひとつ現れるくらい……。


 魔法は使い勝手が悪いみたいだけど、魔石を使った道具は発展していた。詠唱無しで王様が見せてくれた火の玉を出せるらしい。魔獣から魔石が取れるから、魔道具の研究が盛んな世界と認識した。


 聞かれた事に全部答えたところで、王様が褒美の話を切り出した。


「此度の功績に褒美をとらす。シュバルツからは報酬を望まぬと聞いておるが、今度は我の名誉に関わるのだ。何でも申してみるがよい」


 お金は貰っても使い道があまりない、既に大量に余っている。たぶん死ぬまで使い切れない額だ。宝飾品にも興味がないし、武器とか魔道具も自分で作れてしまう。


 とすると、ここは転生あるあるの権利関連が良いかな。ただ、大それた権利を求めると騒動のきっかけになるから、ささやかなものが良いね。


「あの、申し上げてよろしいでしょうか」

「うむ、発言を許す。申して見ろ」


 王様は顎髭を撫でながら、少し楽しんでいる様子で自分を見る。


「えーと、今、この国の端っこ絶望の大森林の側に家があるのですが、そこだけの土地で構いませんので永住権みたいなものを頂けたりしますでしょうか」


 カッと目を見開き、カカカっと笑う王様。

 あ、何かヤバイ感じがする……。


「ほう、あの辺境地を望むと申すか! ははは、リリスは想像通りに稀有な娘であるな! そう思わぬかシュバルツよ」

「陛下の仰る通りでございます。リリス様の住まいは領主を持たない、帝国直轄の未開拓領に該当いたします。あの危険な土地に好んで住みたいと願うのは驚くばかりでございます」

「リリス、本当にあの恐ろしい場所に住んでいらっしゃるのですか?」


 盗賊討伐の時の話と違い、皆、「こいつ正気か?」みたいな顔をしている。


「あの場所は空気も澄んでいてとても過ごしやすいのです。森の中には薬草や鉱物も豊富なので離れ難く思っていまして……」

「ふむ、平民に領地を与えるのは前例がない。しかし、功績としては辺境地であれば十分と言えよう」


 王様はしばらく顎髭を撫でながら思案し始めた。


 テンプレなら軽く一言で終わる展開な気がするんだけど……眉間に皺を寄せて長考されてます。迂闊だったなぁ、普通に考えればこんな子供に土地なんて上げたりしない。


 ヤバくなったら、煙幕魔法で煙に巻いて脱走しようかな。

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