1話
ラクロスの聖地アミマルタウン。
ここは『ラクロスマスター』と呼ばれる伝説の戦士が誕生した場所である。
「アギャーッ!?」
そんな神聖な地に不釣り合いな悲鳴が響いた。
場所はアミマルタウン最大規模のスタジアム。
本来はラクロスを楽しむ笑顔と喜びの声が聞こえる場所である。
「テメェら、ウチのチームを襲って何が目的だ?」
仲間を抱えた一人の男が叫ぶ。その腕には『VIP』と書かれた腕章がある。
腕章の男は仲間を抱えていた。そして仲間の腹部には、拳サイズのボールがめり込んでいる。
そして周囲には気を失った他の仲間たち。
そこはVIP用のラクロスコートである。しかし、今は無惨にも無数のクレーターができていた。
「目的……?」
そう答えるのは長身の女──トリアルである。彼女はラクロスギャングのリーダー格だった。
彼女の周囲には十人ほどの手下がいた。いずれもスーツを着た屈強な者たち。
「目的か、……ただの余興だ」
「余興ッ!? なんだそれはッ!! そんなわけの分からんことのためにウチのチームを、仲間たちを襲いやがったのか!?」
彼らは近くに控えた大会のために訓練中であった。
そこへ突然現れたギャングたちによって襲撃されたのだ。
そして、なし崩しに試合が始まる。その内容はもはや虐殺である。
得点など無視した攻撃の数々。チームメンバーは腕章の男以外は負傷により意識を失った。
「ここはVIP用のコートだと聞いた。もう少し楽しめると思ったのだが……」
腕章の男は怒りに震え歯を食いしばる。
「うぅ……」
「ッ!? 大丈夫か?」
抱えていた仲間のうめき声に腕章の男は話しかける。しかし、返事はなく意識が戻ることはなかった。
そんな仲間にめり込んでいたボールが落ちて転がる。腕章の男は意識をボールに向けた。
「……撃つがいい」
トリアルが呟くと同時に両手を広げた。
ラクロスの象徴たる網の付いた棒──クロスは足元に置かれている。
「ぐ、ぐぐっ!」
腕章の男は再び歯を食いしばる。そしてボールとトリアルを交互に見つめる。
彼は仲間をゆっくりと降ろすと、クロスにボールを込めた。
「う、うぉぉおおおおおおおおおッ!!!」
彼は腕章に書かれた文字の通り『VIPプレイヤー』。とても優秀な選手である。
彼のクロスが放つシュートは数センチ程度の鉄板ならば貫通する。
クロスを置いて両手を広げたトリアルに防ぐ手段はない。
トリアルへ向かって必殺のシュートが迫る。
(やったか!?)
トリアルに回避をする様子はない。その姿を見て腕章の男は一瞬、勝利を確信した。
「フッ」
だが、腕章の男にトリアルの嘲笑が聞こえる。そして、同時に信じられない光景を目にした。
トリアルは足元にあったはずのクロスを構えていた。
「なに──がはっ!?」
腕章の男の腹部に衝撃が走る。トリアルに向かっていたはずのボールはなぜか彼の腹部にあった。
遅れて衝撃がやってくる。
腕章の男はボールの勢いを削ぐことが出来ない。彼はスタジアムの壁に激突した。
「ぐ……がッ」
壁にクレーターが作られる。腕章の男は意識を失ってしまった。
「……終わりか」
その様子にトリアルはつまらなそうに呟く。
「そこまでよ!」
突然、コートの出入りに使われる通用口の方から声が響く。
そこには黒い帽子を被った少女がいた。整った顔つきの少女である。
「ほう、ようやく──」
トリアルが何かを言いかけたその直後である。スタジアムの天井を突き破り、謎の飛来物がギャングたちを襲った。
その数は三つ。着弾の轟音と共に砂煙が上がる。
ギャングの数名は着弾の衝撃で吹き飛ばされて意識不明。残りも突然の事態と負傷により、パニックになっていた。
そんな中、トリアルだけは飛来物を着弾前に回避。そして、冷静に周囲を観察していた。
「あら、ずいぶんと派手な登場じゃない」
黒い帽子の少女が呟く。
「ギャングども、これは宣戦布告よ。そして立ちなさい、私のチームメンバーたち!!」
砂煙が晴れる。それにより飛来物の正体が人であったことが判明した。
そして黒い帽子の少女の号令と共に立ち上が──らない。
「死んでいるようだが?」
トリアルが三つの飛来物のうち一つをクロスで指した。
「…………うん?」
黒い帽子の少女がきょとんとする。
地面に転がる人影の一つは血まみれである。手足が一部ありえない方向に捻じれていた。動く様子はない──というよりも誰が見ても即死の惨状である。
「えーと……」
黒い帽子の少女の視線が宙をさまよう。
「でりゃああああああああああッ!!」
突然の叫び声。そしてトリアルが指していたモノとは別の飛来物が立ち上がる。
それは小柄な少女であった。そしてその頭部には──神々しきうさ耳が揺れている!!
「ふぅ、うさ耳が無ければ危なかったぜ」
うさ耳少女はそのうさ耳に付いた汚れを払う。
「生き残りがいたか」
ウサ耳少女の様子を見たトリアルは不意にクロスへボール込める。そしてボールはうさ耳少女に放たれた。
ボールは腕章の男とは比べものにならない速度で飛ぶ。瞬く間にうさ耳少女の足元へ到達した。
再びの轟音。
うさ耳少女がいた場所にはクレーターができていた。
クレーターにうさ耳少女の姿はない。腕章の男と同じように吹き飛ばされてしまったのか?
「──よっと」
背後から聞こえるうさ耳少女の声が聞こえた。トリアルが振り向く。うさ耳少女は宙を舞い、黒い帽子の少女の近くへ着地していた。
「……ほう」
不敵にほほ笑むトリアル。
そしてうさ耳少女は振り返りながら宣言する。
「さあ、ラクロスを始めようぜッ!!」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。