田舎のカブトムシは自販機で捕れる
お盆である。
今は田舎の婆ちゃん家に来ている。
一年で最も妹と会話をする期間かもしれない。
まあ、伝達事項を伝えるだけのやり取りだけど。
「兄ちゃん! 明日カブトムシ捕りに行こ!」
そして俺は年少の従兄弟に絡まれている。
「えぇ〜、お前、朝早くに起きれるんの〜?」
俺が厳しいと思う。
「うっ、起きれるよ!」
本当か?
今日の様子を見るに無理そうだが。
「叔母さんは何て言ってるだ?」
「まだ言ってない!」
先に言えよ。
「お前な、叔母さんの許可無しに連れて行ける訳ないだろ」
高校生っていっても、世間一般的にはまだまだガキなんだよ。
「だから一緒に頼んでよ!」
貴様、もしやそれが狙いか?
考えたじゃねぇか。
「仕方ねぇな」
当たり前だが田舎の婆ちゃん家ではとくにやることがない。
ゲーム機もなければ、パソコンもない。
いや、あるにはあるが何もゲームがインストールされていない。
俺は動画サイトをあまり利用しないのでパソコンで時間を潰すのも難しい。
スマホを弄るという選択肢もなくはないが、Wi-Fiが無いのでそんな恐ろしいことは出来ない。
なので基本的にやることがない手持ち無沙汰な状態だ。
まあ、夏休みの宿題をやるという選択肢もなくはないが、一日中宿題をやるなんて拷問でしかない。
そんなことをするくらいなら、ぼーっと空を眺めている。
というわけで、明日はカブトムシを捕りに行こう。
「叔母さん、こいつがカブトムシ捕りたいって言ってるんだけど」
居間でテレビを見ている叔母さんに話をしに行く。
「あら、マサくんがついて行ってくれるの?」
叔母さんはテレビから目を離し、こちらに顔を向けてきた。
「まあ、暇なので」
叔母さんはニコニコとこちらを見ている。
「助かるわぁ。いい子にしていなかったら怒ってあげていいからね」
「はい、思いっきりデコピンしてやりますよ」
サッと額を押さえる悪ガキ。
その様子を見て叔母さんは、ふふっと笑う。
「あら、いい子にしていないと痛い目に合うわね」
「い、いい子だから大丈夫だもん」
「それは俺が判断するんだよ」
そう言って頭をわしゃわしゃっとしてやる。
「や、やめっ」
悪ガキが俺の手を退かそうとしてきたので手を頭から離してやる。
そんなことをしていると反対側からシャツの裾を引っ張られた。
そちらに目を向けると悪ガキの妹がいた。
「雪菜も一緒に行く……」
「お、雪菜もカブトムシ捕りに行きたいのか?」
そう聞くと頷いて肯定してきた。
一番年下の従姉妹である雪菜は、大人し目で大体いつも遠巻きにこちらを見ている感じの子だ。
なので気がついたらこちらから声をかけていたんだが、自分から声をかけてくるとは思わなかった。
「じゃあ明日は早起きしないとな」
「うん……」
そう言って頭を撫でてやると、はにかみながら返事をしてくれた。
雪菜は可愛いなぁ。
それに引き換え、家の妹は……。
内弁慶で慣れていない人には無愛想。
毎年後半には親戚にも慣れてくるが、翌年にはリセットされている残念な奴だ。
無愛想なので年下の二人の従兄妹からは怖がられて距離を置かれている。
そして、そのことに地味にショックを受けていたりする。
本人は頑なに認めないが。
「雪菜も一緒だと大変じゃないかしら」
叔母さんが心配してくれる。
「まあ、大丈夫でしょ。雪菜はいい子だし、航太はデコピンするんで」
「ええっ、なんでだよ!」
雪菜に構っていると、少し拗ねた顔をしていたのでからかってやる。
「だってお前、興奮すると走り出すだろ」
「走らないよ!」
「ホントかよ」
憤慨する悪ガキに痛くないデコピンをお見舞いする。
「まだ何もしてないのに!」
デコを押さえてそんなことをのたまうので笑いながら頭を撫でてやる。
「大変だと思うけど、マサくんお願いね」
少し心配そうに、叔母さんが言ってくる。
「まあ、そんな早くに起きれるかわからないですけどね」
あんまり心配されると航太が不機嫌になりそうなので、軽口を言って濁す。
「ふふっ、そうね」
俺の発言に叔母さんが笑みを零すと、雪菜に手を引かれたので、そちらに顔を向ける。
「雪菜が起こしてあげる……」
「お、なら大丈夫だな」
雪菜の頭を撫でてやると、雪菜は笑みを零した。
雪菜はいい子だなぁ。
ちなみにこの日の晩、イケメン野郎からスマホにメッセージが届いた。
『今日の晩飯は寿司だった』
『食うか?』
いや、どうやって?
物理的に不可能だろ。
『代わりに食っといてくれ』
『わかった』
あのことを覚えていたようだ。
律儀な奴である。
・航太と雪菜
主人公の従兄妹。
初めはデカくて目つきの悪い主人公にビビり散らしていたが、母親(主人公の叔母)との会話で精神年齢の低さが露呈したので、秒で懐いた。
ちなみに田舎の自販機でカブトムシが捕れるのはガチ。