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予想の外にあることを言われると固まるよね

 先輩に連れられて行った映画館では今話題のアニメーション映画が上映されていた。


 まずはチケットを買い、その後に映画館と同じビルにある飲食店で昼飯を食べた。


 そして現在は喫茶店みたいな店にいる。


「今日は楽しかった?」


 夢愛めあ先輩が飲み物を飲みつつ聞いてくる。


「楽しかったですよ」


 身内以外の女の人と出かけるのは初めてだったので、実際楽しかった。


「ならよかった」


 先輩は少しだけ嬉しそうにして呟き、飲み物を飲む。


 先輩はあまり饒舌に話すタイプではないが、居心地が悪いということもなかった。


「君は今、彼女いる?」


 お、突然なんだ?


「いませんけど?」


「そうなんだ……」


 先輩はそう言って、飲み物を飲む。


「なら、あたしを彼女にしてくれない?」


 は?


「……」


「……」


 おっと、思考停止していた……。


 今、この人、彼女にしてくれって言った?


 え、つまり俺と付き合いたいってこと?


「あー、先輩? 俺たちそんなに話したことないと思うんすけど……」


 今日を含めて三回くらいか?


 いくらなんでも無理がないか?


「彼女になりたいって思うのに、話した回数って関係あるの?」


 え、どうなんだろ……?


「いや、わかんないすけど……」


「迷惑だった……?」


 先輩はそう言って、少しこちらを伺うように見てくる。


 う〜ん、迷惑と思ってはいないけど……。


「いや、いきなりで驚いたって感じっすね」


 こんなもんなのか……?


 でも、颯人に告白してた女の子たちも勢いでって感じの子も多かったな……。


 こんな感じな気がしてきた。


「あと、予想外でした」


 颯人を知っている人間が、俺を眼中におさめているとは予想外だ。


 あ、颯人に近づく策略的なやつか?


 っぶねぇ、危うく本気にするところだった。


 あー、どうやって断れば角が立たないかな……。


「ちょっと待って」


「はい?」


 いい断り方法を考えていると先輩から待ったがかかる。


 いったい何に対してだ?


 まさか心が読めるのか?


「君が勝手に思い違いをしている気がする」


「はぁ……」


 何を思い違うことなんてあるのだろうか。


「あたしは、君の、特別な人になりたいと思っているの」


 ……。


「君は特別に思う人を大事にしてくれると人だと思うから」


 何を……。


「切っ掛けは麗奈ちゃんとイケメンくんが作ってくれたけど」


 ……。


「あたしが見ていたのは君だよ?」


 ……そんなことがあるのか?


 颯人はおおよそ人が羨むものを全て持っている。


 ルックス、学力、運動神経、そこそこ裕福な家庭、愛情深い家族、人格だって悪くない。


 別に羨ましいとは思わない。


 俺の家だって家族仲は悪くない。


 金だって、奨学金ありきとはいえ私立の高校に通わせてもらえている。


 それに、勝てなくても颯人と競い合うのは楽しいし、勝てる部分が無いわけでもない。


 身長とかな。


 それでも多くの人間が注目するのは颯人だ。


 特に女の子は。


 先輩だって、まず間違いなく女の子だ。


 颯人を意識しなかった女の子は今まで見たことがない。


「ねえ、あたしが欲しいのは、あたしを大事にしてくれる人なの」


 そんなの颯人だって……、今は微妙か……。


「君は今とても悲しそうな顔をしているけど」


 先輩はまっすぐ俺の目を見ている。


「それでもイケメンくんのことを悪く思っていないでしょ?」


 そんなの……。


「当たり前じゃないですか……」


 だって、あいつに悪いところなんて無いのだから。


 これは俺の問題であり、先輩が嘘をついていた場合に、俺が傷つかないための予防線なのだから。


「あのとき、君は本気で亜希ちゃんに怒っていたでしょ?」


 あのとき?


 夏休みのときか?


「それは亜希先輩があいつのことを馬鹿にしたようなことを言うから」


「うん、あたしはその姿を見て、君に興味を持ったんだよ」


 ……意味がわからない。


「上手く言えないけど、あの場面で人のために怒れる君が、眩しく見えたんだよ」


 やっぱり意味がわからない。


 あんなの普通だろ。


 颯人は何も悪くない。


 颯人の人生に他人が口出しする権利なんてないんだから。


「あたしもあんな風に守ってもらいたい。庇ってもらいたい。大事にしてもらいたい。そう思ったんだ……」


 そう言って、先輩は少しだけ寂しそうな顔をした。


 ……少なくとも、先輩が嘘を言っている気配はない。


 これが嘘なら、もう俺にはどうしようもない。


 ただ、この方面に関しては、信じきれる強さが俺にはなかった。


 ただ、それだけの話だ。


「ごめんね、急過ぎたよね……」


 先輩が引き下がろうとしている気配がする。


 でも、これで本当にいいのか?


 今を逃せば、壁を乗り越えるチャンスはもう来ないかもしれないんだぞ?


 あと本の少しの勇気だけで乗り越えられるかもしれないんだぞ?


 それでも乗り越えられなかったときの恐怖が、決断する勇気を妨害してくる。


「今日の話は忘れて――」


「先輩、待ってください」


 だからなんだ。


 どっちみち後悔はしそうじゃねぇか。


 ならどちらの方がマシだ?


 一歩前に踏み出して後悔する方が百倍マシだろ。


 なら、答えは一つじゃねぇか。


「俺の彼女になってくれませんか」


「え……?」


「先輩の言葉を信じたいと思います」


 ここまで言わせて、逃げるのもカッコ悪いしな!


「本当にいいの……?」


「もちろんです」


 気づいていなかった壁を乗り越えるチャンスをくれて、ありがとうございます。


「俺は先輩の思っているような人間ではないかもしれませんが」


 そんな大層な人間だとは思えないが。


「精一杯期待に応えてみたいと思います」


 かけてくれた言葉くらいの気持は返していきたいと思う。


「うん、ありがとう……」


 先輩は目を潤ませている。


 これが演技だったら、世界を見る目が変わる。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 このあと、他の客や店員の目があることに気がついて死ぬほど恥ずかしい思いをした。

・作中溢れ話

イケメン幼馴染は今でこそ顔面戦闘力でワンパンしてきますが、小学生の頃は足の速さで女の子を魅了していました。

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