こういう場所をターミナルビルと言うらしい
その日の夜である。
ベッドの上でスマホをいじっていると、夢愛先輩からメッセージが届いた。
『次の土日は暇?』
日曜はバイトがあるが、土曜日は何もないな。
『土曜なら暇ですね』
『じゃあ遊びに行こうよ』
ふむ……。
これは難しいな……。
単純に遊びに誘ってもらっているのか、いつもの呼び出しを『遊び』と称しているのか……。
『いいですよ』
まあ、どっちでもいいや。
『詳しいことはまた送るね』
『はい』
というわけで土曜日の予定が決まった。
そして土曜日である。
電車で行ける範囲で一番発展している所まで来た。
駅と同じビルに百貨店なんかがあって、地下鉄や他の電鉄会社の駅も入っていたり近くにあったりするので非常に便利な場所だ。
そんなこんなで待ち合わせ場所に着いた。
待ち合わせの時間より十五分くらい早く着いてしまったが、遅れるよりはマシだろう。
次の電車だと五分前になるから、なんかギリギリ過ぎる気がする。
さて、待ち合わせ時間までスマホでもいじって時間でも潰しますか。
「やっほー」
スマホを取り出したタイミングで、知ってる声で聞き覚えのある言葉をかけられた。
「目の前を通っていたのに気づかないなんて酷いね」
そう言って、少し拗ねた顔をする夢愛先輩。
「すいません、学校と雰囲気が全然違ったので気づけませんでした」
なんか可愛い子がいるなとは思っていたんです。
本当です。
「どう違う?」
「そうすね、より可愛くなっていますね」
「ふふっ、ありがと」
先輩は嬉しそうに笑っている。
可愛い。
「今日は一人だけですか?」
「そうだけど?」
そう言って、少し悲しそうな顔をする。
「亜希ちゃんや麗奈ちゃんが一緒の方がよかった?」
おっと。
「いえ、今日のお誘いがいつもの呼び出しなのか、単純に遊びに誘ってもらえたのか判断に困りまして……」
今度は少し怒った顔をする先輩。
表情がコロコロ変わる人だなぁ。
「そんなにわかりにくい?」
え〜、だってなぁ……。
「待ち合わせ場所と時間しか教えてもらえませんでしたし」
まあ、俺も聞かなかったけどさ。
「むぅ……」
先輩は少し難しそうな顔をする。
「今日は二人です」
「はい」
「映画を見に行きます」
「はい」
「お昼も一緒に食べます」
「はい」
「おしゃべりも、少ししたいです……」
「はい」
ふーむ。
「なんかデートみたいですね」
思ったことをそのまま言う。
「そうだよ……?」
先輩は俯いてしまったので顔が見えないが、耳が少し赤くなっているような気がする。
おいおいおい、やめろよ。
こっちまで照れ臭くなっちまったじゃねぇか……!
「え、あ、そうすね」
「うん……」
おいおい、ヤバいよ……。
「え、映画ってことは映画館すね。どの映画館に行くかは決まってるんすか?」
たしか二、三個あったはず。
「うん、こっち」
そう言って、先輩は俺の腕を掴んで歩き出した。
あ〜、ヤッベ。
ヤバいですよ、これは。
どうしていいか、さっぱりわからない。
とりあえず歩いてる。
・作中溢れ話
ちなみに筆者は関西住みなので、梅田を思い浮かべました。