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イタリア軍は一日かけて前進した距離を、2時間で撤退するらしいぜ!

 その日の放課後である。


 HRが終わったので帰ろうと思う。


 イケメン幼馴染と連れたって教室を出ると、転校生が待ち構えていた。


「……」


「……」


「……」


「後ろの人の邪魔になっているわよ?」


 転校生は笑顔で言い放つ。


 たしかに、教室の扉の前で立ち止まってしまった俺たちは邪魔だな。


 他の出入りする人のために、教室の扉の前から移動する。


 が、このまま帰るという行動は取りづらく、廊下の端に寄って対峙する形になった。


 転校生からは、そこはかとなく怒りの波動を感じる。


 怒ると笑顔になるタイプなのかな?


「怒ってる?」


 ここは素直に聞いてみる。


 嵐は過ぎ去るのを待つに限るが、この嵐は去ってくれそうもない。


「いいえ? 何か私が怒るようなことをしたのかしら」


 したようだな。


 問題なのはいったい何をしてしまったかだ……。


 助けて、イケメン仮面!


「……」


 駄目だ、窓越しに空を見ていやがる。


 使えないイケメンだな!


 クソッ、打つ手がない……!


 この状況を打破するにはあまりにも転校生を知らなすぎる……っ。


 誰でもいい!


 誰か助けてくれっ!


「おい、友永」


 神よ!!!


 声のした方へ顔を向けると、そこにはいつぞやのギャル先輩がいた。


 たとえ藁だろうが掴むのが溺れる人!


 俺は掴むぞ!


「すまん、先輩・・に呼ばれたからちょっと行ってくるわ」


 イケメン仮面が裏切り者を見るような目で見てきたが、知ったことではない。


「そうね、先輩・・に呼ばれたのなら仕方ないわね」


 ふっ、俺の命はもう長くないかもしれない。


 だが、俺は一秒でも長く生き残るために前へと進む。


 活路はいつだって前にある!


「今日は何の用ですか?」


 『あき』先輩のところまで後退することに成功した。


 さあ、ここよりもさらに安全な後方へと移動させてください。


「あ、ああ、ついて来な」


 そう言って先輩は歩き出した。


 勝ったな。


 少なくとも今日は生き延びた。


 イケメン仮面、貴官の武運を祈る。


 見事に戦術的撤退を成功させた俺は先輩の後をついて歩く。


 今回は前回のときに呼び出された教室とは別の場所に行くようだ。


 先輩の後について辿り着いた場所は食堂だった。


 へぇ、放課後でも食堂って開いているんだな。


 そんな感想を抱いていると、『あき』先輩の向かう方向に先客がいるのに気がついた。


 やっぱりいたか……。


 でも前と少し違う。


「今日は3人じゃないんですね」


 ボスギャル先輩こと、『れな』先輩の姿が見えない。


「やっほー」


「いいから座れ」


 先に座っていたギャル先輩から軽い挨拶をされたと思ったら、『あき』先輩から座れと命じられた。


「こんちは」


 挨拶は基本である。


 古事記にも書いてあるらしい。


 この間に『あき』先輩は机をグルッと回って、先に座っていたギャル先輩の隣に座った。


 俺は2人と対面する形で座らされる。


「おい、あいつは何だ」


 『あき』先輩は座るやいなや言葉をぶつけてきた。


「はあ、あいつとは」


 まあ、たぶんあいつだろうけど。


「さっき一緒にいた、あの女だよ」


 やはりあいつか。


「二学期が始まってすぐに転校してきた奴ですね」


 俗に言う転校生である。


「そんなことは知ってる。あたしが聞きたいのは、なんでその転校生がお前らと昼飯を食ったりしていたのかについてだ」


 なるほど。


「いや、それはですね。向こうから相談があるからと言われて、昼飯のついでに話を聞いただけですよ」


 うん、嘘偽りの無い完璧な回答だ。


「麗奈はまだ万全じゃないんだ。無用な刺激を与えるんじゃねぇよ」


 えぇ……。


「気持ちはわかりますけど、そんなこと言われる筋合いないですよね?」


 それはこっちが考えることじゃない。


「チッ、わかってるよ……」


 そこは『れな』先輩に頑張ってもらって。


「ねえねえ、その転校生って凄く可愛いんでしょ? 『めあ』とどっちが可愛い?」


 は?


「『めあ』って言うのはこいつの名前だよ」


 ああ、なるほど。


 混乱している俺を見かねたのか、『あき』先輩が補足してくれた。


「可愛い名前ですね。どんな漢字で書くんですか?」


「ドリームの"夢"に、ラブの"愛"だよ」


 へぇ〜、珍しい名前だなぁ。


「ねえ、どっちが可愛い?」


 おっと、話を逸らすのに失敗したようだ。


「辛口と中辛と甘口のどれがいいですか?」


「甘口」


 うむ、素直で大変よろしいと思います。


「夢愛先輩はとても可愛いと思いますよ」


 実際、可愛いと思う。


「えへへ、ありがと。飴あげる」


 夢愛先輩から飴を貰った。


 うおっ、いちごミルク味。


 めっちゃ甘そう。


 甘ぇっ!


「で、中辛と辛口ならどんな答えになるんだ?」


 『あき』先輩がげんなりした顔でそう聞いてくる。


 しかし、この答えを言うには夢愛先輩の承諾が必要だろう。


「辛口と中辛の答えが聞きたいですか?」


「う〜ん、じゃあ中辛で」


 なるほど。


「夢愛先輩と転校生のどちらの方が可愛いか聞かれたら、転校生ですかね」


 夢愛先輩が俺の回答を聞いて唇を尖らせる。


 くそっ、可愛いじゃないか。


「お前、結構はっきりと言うな……」


 『あき』先輩が呆れた表情で言う。


「まあ、嘘をつくのは苦手なので」


 嘘をつくとソワソワして落ち着かないから嫌いなんだよね。


 そんなやり取りをしているとイケメン仮面からメッセージが届いた。


『たすけて』


 平仮名なところに必死さが伝わってくる。


「すいません、連れのイケメンが助けを求めているので行きます」


「あぁ……」


 『あき』先輩が先程の光景を思い出したのか、嫌なものを思い出したような顔をする。


「ねえ、連絡先教えてよ」


「え、はあ、まあ、いいですけど」


 夢愛先輩から唐突に連絡先を聞かれる。


「そうだな、あたしにも教えろ」


 そして『あき』先輩にも。


 なるほど、これで呼び出しに来る手間が省けるわけですね。


「じゃあ、これで」


 連絡先の交換も終わったので立ち上がる。


「これから向かうイケメンくんのところには、あの転校生もいるの?」


 椅子を元に戻していると、夢愛先輩から質問された。


「さあ、いるんじゃないですかね」


「ふ〜ん」


 何だったんだ?


 亜希先輩の方を見ると、さっさと行けと言わんばかりに手を振られた。


 ここは大人しく立ち去っておこう。

・作中溢れ話

ちなみに辛口だった場合は、「比べるまでもないですね、転校生です」になります。

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