トラップカード発動! 「猫を被った美少女」!
雑談を交えつつ弁当を食べ進める。
俺が弁当を食べ終わったときには、転校生の弁当はまだ半分くらい残っていた。
食べるの遅っ。
イケメン幼馴染が食べ終わり、俺も持ってきたおにぎり2つを食べ終わった頃に転校生は弁当を食べ終えた。
俺が弁当を片付けて、おにぎりを出したときには目を見開いて驚いていたな。
まあ、ここまでは本題に入る前の準備みたいなものだろう。
転校生が弁当箱を片付け終わったのを見て俺は話を切り出す。
「で、俺たちに用って何なの」
先程までの穏やかな空気が霧散し、どこか張り詰めた空気が場を支配する。
「はい、実は困っていることがありまして」
まあ、そうだろうね。
「あの群がってくる人たちをどうにか出来ないか、と」
……。
実に平坦な声色で言い放ちやがった。
これは相当頭に来ていらっしゃる……。
「私の父は転勤族でして」
お、何か話し出した。
「なので小さい頃からの友人というものがいません」
うん。
「それに一人の時間が好きなタイプなので、特定の仲のいい友人を作ることもありませんでした」
なるほど。
「この高校に転校してきた当初も、転校生が珍しいのだろうと思って我慢してきました」
うん。
「ですが、いつまで経ってもパーソナルスペースに踏み込まれ続け……」
うん……。
「正直もうストレスの限界です……っ」
うわぁ……。
「いい加減どうにかしたいな、と……」
割と深刻な悩みだった。
そして、こいつは以外と短気な奴だ。
「そんな折、お二人の間の空気が羨ましいと思いまして」
え、俺たちの間の空気って何?
「私もそこに避難させて欲しいなと思ったのです」
転校生の頭越しにイケメン幼馴染と目を見合わせる。
「つまり、俺たちに群がってくる人たちとの壁になってほしい、と」
イケメン幼馴染が転校生に確認をとる。
「はい、平たく言えば……」
自分が勝手な要求をしている自覚はあるのか、体を小さくし、消え入りそうな声で返事をする。
様になるなぁ、おい。
「なるほど……、用件は理解した」
しかし、新たな疑問が生じてしまった。
俺たちの間の空気って何。
「なあおい、俺たちの間の空気って何だ?」
一人で考えても答えが出ない。
仕方がないのでイケメン幼馴染に聞く。
「お前のその俺に対する態度じゃないか?」
うん?
どういうことだ?
イケメン幼馴染の答えの意味がわからない。
転校生の方を見ると、こちらを見て頷いてきた。
……どういうことだ?
「大概の人と話すとき、俺は壁を感じるんだ」
うん?
「でも、お前からはそういった類のものは感じられない」
うん……。
「つまりお前は単純バカってことだ」
「なんだテメェ、その綺麗な顔をボコボコにしてやるよ。立て」
喧嘩なら買うぞ。
「まあ、座れって」
座った。
「くっ、ふふふ……っ」
突然、転校生が笑い出した。
「ど、どうして、あの流れで……っ、座れるのっ、よ……っ」
「ふふっ……、くっふ……っ」
え、なに、箸が転がっただけで笑っちゃうお年頃なの?
転校生は体を震わせながら、笑い声を漏らさないように頑張っているようだった。
「ふぅ……、失礼しました……」
ようやく笑いが収まったようだ。
耳まで真っ赤じゃん。
そんなに面白いやり取りだったか?
「ああいうノリを欲してるってことか?」
イケメン幼馴染に聞く。
「多分な」
そう言ってイケメン幼馴染は転校生の方を見た。
「まあ、そういうことです……」
顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
まあ、何か特別なことはしていないんだけどね。
「ま、あれだな。たまにこうやって話をしたいってことだろ?」
そのくらいなら別にいいんじゃないの?
「出来れば常に、がいいですけど……」
そんなに嫌なのか、あれ……。
だって転校生の目の焦点があってなくて怖い……。
「まあ、このあと牽制を入れれば少しはマシになるんじゃないか?」
転校生の発言にイケメン幼馴染がフォローを入れる。
そしてなぜ、その言葉の後に俺の方を向く。
え、俺がやれってこと?
「自分でやれ」
「はぁ……」
こいつ……っ、これみよがしにため息をつきやがった……!
「お前が言うことに意味があるんだろうが」
意味がわからん。
まあでも仕方ねぇな。
「はいはい、わかりましたよ」
やればいいんだろ。
「お願いします」
転校生が頭を下げてくる。
とりあえず、こいつはあれだな。
「諸星さんはあれだな、その被ってる猫ちゃんを取っ払おうぜ」
転校生が目を見開いてこっちを見てくる。
まあ慣れない土地で、自分を守るためのバリアーなのかもしれないけど。
「せめて俺らと話してる時くらいは外そうぜ」
その姿を囲んでくる連中に見せるのも効果はあるだろうさ。
「まあ、無理にとは言わないけど」
俺の提案を受けて転校生は少し考えるような素振りを見せた。
「……そうね、そうするわ」
そう言って、ニヤリと笑う。
イイ笑顔じゃねぇか。
じゃあ、先に戻ってミッションでもこなそうかね。
「じゃあ、先に戻ってるわ。少ししてから戻ってこいよ」
ヒラヒラと手を振って教室に向かう。
「ああ、頼む」
「ええ、期待してるわ」
……。
はぁ……。
嫌だね、こういう役回りは。
もう少し冷静に人を観察出来ないのかね。
「なあ友永、諸星さんの用って何だったんだよ」
教室に着くなり速攻で声をかけられた。
そういうところだぞ。
「あぁ、四六時中つけ回されて疲れてたっぽいな」
教室にいる連中へ聞こえるように言う。
教室内が少しざわめいた。
「も、諸星さんがそう言っていたのか……?」
「いいや? 話していて俺がそう感じただけだけど」
視線が「お前の憶測かよ」と言っている。
「気になるなら、本人に直接聞けよ」
「う、そうだな……」
そう言って俺は自分の机に座り、次の授業の準備をする。
もの言いたげな視線が突き刺さるが無視だ。
スマホをいじって時間を潰していると、イケメン幼馴染と転校生が教室に戻ってきた。
イケメン幼馴染は自分の机に向かったが、転校生は俺の方へと歩いてくる。
「友永くん、今日はありがとう。また一緒にお昼を食べてもいいかしら」
イイ笑顔で話しかけてくる。
イイ性格してんなぁ、おい。
「ああ、颯人がいいなら」
「ええ、そこは問題ないないわ。もう許可は取ってあるから」
悪い顔だな、正統派美少女さん。
「なら問題ないな」
「ええ」
そう言って転校生は自分の席へと歩いていった。
それを教室にいる連中は目で追っていた。
これで少しは周りが静かになるといいね。
・作中溢れ話
主人公とイケメン幼馴染は複数人で構成されるグループに属しているが、イケメン幼馴染と他のメンバーは、お互いに友達(主人公)の友達だと思っている。