主人公は逃げ出した! しかし、回り込まれてしまった!
翌朝である。
俺たちはいつもの様に電車を降りて、改札を通っていた。
しかし、今日の駅は何だかいつもと様子が違う。
何故か前を歩いている人たちが、同じ方向を向いているのだ。
何かあるのだろうか。
自慢ではないが、俺は人よりも背が高い。
なので、人より遠くまで見ることができるのだ。
野次馬根性丸出しで他の人たちが見ている方向へと視線を向ける。
顔面だけで飯が食っていけそうな美少女がいた。
「何かあるのか?」
イケメン幼馴染が聞いてくる。
「転校生がいた」
転校生は道行く人々にチラ見されているのに微動だにしない。
あいつ、見られることに慣れていやがる……!
まあ、現在進行形で隣を歩いているイケメン幼馴染も、チラ見されまくっているけど華麗に無視している。
凄いんだぜ。
女の子の近くを通ると「キャッ」って言われるんだ。
ドラマかよ。
「へぇ、何してるんだろうな」
「さぁ」
今までにない転校生の行動に疑問を抱くも、それ以上の関心は特になかった。
……転校生が行動を起こすまでは。
「ん? 転校生がこっちを見たな」
「ふぅん」
「んん? こっちに歩いて来るな」
「え、なんで?」
それは俺が聞きたい。
転校生は人の波に逆らってこちらにくる。
しかし、転校生の前には常に道があった。
お前はモーゼか。
そして思わず立ち止まってしまった俺達の下へと辿り着いてしまった。
「おはようございます」
朝の挨拶のついで程度の笑みで何人かの心臓を撃ち抜いていた。
なんて奴だ。
「よっす……」
「おはよう……」
転校生の行動の意図が読み取れなくて、ただただ困惑する野郎が2匹。
本当に何がしたいんだ?
「昨日のお昼に言ったこと、覚えていますか?」
笑顔で擬装されているが目が全く笑っていない。
「昨日……?」
「用があるってやつ?」
俺はすっとぼけようとしたが隣のマヌケのせいで台無しになってしまった。
「ええ、今日のお昼休み、お時間を取ってもらってもいいでしょうか」
絶対に逃さないと目が言っている。
「まあ、俺は大丈夫だけど……」
イケメン野郎が承諾する。
非常に面倒臭そうな予感がプンプンしているが、ここで断ればさらなる面倒が降りかかり、最終的に全て承諾させられそうな気がする。
「まあ、俺も大丈夫だけど」
何よりこの圧が怖い。
ここは素直に従っておこう。
「ああ、良かった! 断られたら、どうしようかと思っていました」
グッジョブ、俺!
とても不安になるワードが聞こえてきたが見事に回避したぞ!
「では、学校に向かいましょうか。このままだと遅刻してしまいます」
え、このまま一緒に登校するの?
……視線とかヤバそう。
・モーゼ
旧約聖書に登場する凄い人。
海を割ったらしい。