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12/20

それは本当の勇気じゃない

 あれから一週間が経った。


 転校生の人気は留まるところを知らない。


 最初の3日は本当に凄かった。


 同じ学年の他クラスをはじめ、学年の垣根を越えた見物人が集まっていた。


 さすがに5日も経つと鳴りを潜めだしたが、どこかの馬鹿な勇者が告白を強行したことにより、この騒ぎである。


 転校生も心なしかうんざりしているように見える。


「凄い人気だなぁ」


 俺たちは窓際に集まって、その様子を眺めている。


 今は昼休みもそろそろ終わりそうな時間であるが、昼飯を食うために教室を出たときと人数の圧が変わらない。


 おかげで自分の席に戻れない奴が多数だ。


「俺も告白しようかな……」


 そんなとき、俺たちの集まりの中から声が聞こえた。


 俺は声の聞こえた方に顔を向ける。


 そいつは何かを覚悟したかのような顔をしていた。


 仲間をみすみす死なせるわけにはいかない。


 俺はそいつに声をかける。


「まあ、落ち着けよ。今の時期に告白しても「貴女の顔以外に興味ありません」って宣言するようなものだぞ」


「うっ……」


 自覚はあったのか、そいつの勢いは削がれる。


「お前は転校生の顔が良い以外に何を知っているんだ?」


 呼吸を挟み。


「声も良いくらいじゃないか?」


「ぐっ……」


 一週間やそこらで人間の何がわかるというのか。


 特に会話もしたことがなく、遠くから眺めていただけじゃないか。


「そんな相手から告白されて嬉しいと思うか?」


「うぅっ……、でも言ってみないとわからないじゃないか……」


 たしかに一理ある。


「では、言い方を変えよう。金持ちに「あなたの持っているお金にしか興味ありません」って言っているようなものだぞ」


「くっ……、俺は最低な人間だ……っ」


 お気づきになられましたか。


 このときイケメン幼馴染が「なるほど……」呟いていた。


 何か閃きを得たのだろうか?


 が、今はこの匹夫の勇をどうにかしなければ。


「そう落ち込むなよ。まずは仲良くなることから始めよう」


 どうすればいいと思うか、他の仲間にも聞いてみる。


「まずは挨拶から始めてみたらどうだ?」


「それはいいな」


「ちゃんと名前を呼んで挨拶をするんだぞ?」


「え、出来るかな……」


「いや、告白するよりも勇気はいらないだろ……」


 こいつ、玉砕覚悟だったか……。


 なんて悲壮な覚悟だ……。


 勇気の出し所を間違えていやがる。


 そんなときだった。


「あの、ちょっといいかしら」


 その転校生が声をかけてきた。


 ギョッとする俺たち。


 サッと目で会話をする。


『まずい、聞かれていたか?』


『本人に聞かれるとか地獄だろ……』


『ていうか、内容が内容だけに気まずすぎる』


 俺たちの心は一つだった。


 そんな気がする。


「あなたとあなたに用があるのだけれど」


 俺とイケメン幼馴染が指差された。


 人を指で指すな。


「ちょっと時間いいかしら」


 可愛らしく首をかしげ、これまた可愛らしい笑顔を浮かべている。


 有無を言わせぬ、この笑顔。


 こいつ、目が笑っていやがらねぇ……っ。


 断らないよな、という圧を感じる。


 現に俺たち以外の連中はこの笑みに陥落している。


 だが、俺をこんな有象無象と一緒にしないで貰おうか。


 俺に無条件で承諾させたくば、イケメン幼馴染の美人ママを連れてくることだな!


「いや、もうすぐ昼休み終わるけど」


 俺から奨学金を剥奪させはしないぞ。


 無利子のやつだ。


「……」


 転校生が固まる。


 断られないと思っていたのか、はたまたもうすぐ昼休みが終わるのを忘れていたのか。


「そうね、じゃあ放課後ならどうかしら」


 素早く再起動する転校生。


「すまん、今日はバイトがあるから無理」


 しかし、俺はノーと言える男。


「……」


 また固まる転校生。


 甘いな。


 俺に無条件で承諾させたくば、イケメン幼馴染の――。

・作中溢れ話

匹夫の勇とは。

深く考えず、ただ血気にはやるだけの勇気。思慮も分別も無い、腕力に頼るだけのつまらない勇気。


作中の用法があっているのかは、わからない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回に引き続き、相変わらず的確な指摘をする主人公。 しかし幼馴染もそうですがクラスメイトとも仲いいですね。 [気になる点] 美人ママには屈するんですね。勝てないんですね。わかります。
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