『気絶』
「今日、家庭科の試験返ってくるってー?」
(あー、そんなコトもあったっけ)
「あー、そんなコトもあったっけ」
「だってー。随分余裕だねー」
「ねー」
「……(また――、か。思考盗聴器を使われている)」
「使われているってさー」
思考盗聴器とは、
頭で考えた事、言おうとしている言葉、耳で聞き取った事が言語化されているものであれば、全てディスプレイに表示されるという機械の事だ。俺はひょんな事からそれを仕掛けられ、心の自由を奪われている。
「怒ってる?」
「やだー」
「……」
「解答用紙しまーす」
教師が試験の解答用紙を配ってきた。パラァ、とそれを手に取る。
「!?」
衝撃を受けた。
(9点……!?)
俺は中学まではどんな試験でも平均90点台が普通で、80点台だと悔しがるくらいの頭だった……なのに……。
(表は!?)
パラァ、と解答用紙を裏返した。
(15点!? そん……な……)
「なんか赤点だってよー」
「ダッサ」
後ろの方から冷ややかな声が聞こえる。
「アイツが? 見て来てやろうか?」
男子生徒が近付いて来るのが分かった。
「丸の数数えたけど、到底そんな点にはならないぜ?」
(9点の方、丸は20個以上ある)
俺は採点ミスが無いか、教師に直談判しに行く。
「丸の数と採点結果、間違ってませんか!?」
「あーそれね。問2は、全問正解で点がつくヤツだから」
「!?」
俺は驚愕した。確かに、全問正解でないと点がつかないならば、この点数になる。試験は、表も裏も50点満点のモノで、表だけ、何とか赤点をまのがれた様だった。
(次は世界史の試験もある……今から勉強しても……)
俺は高校以降、部活動に力を入れていた所為で、勉強に時間を割くことがあまりできず、今回の試験もほとんど勉強できずに受けていた。
(中学までは時間をかけて無理矢理とってきた試験の点数だ。俺は記憶力は乏しいし、しっかり時間をかけて勉強しないと点は取れない……それに!)
俺の所属する部活は、赤点をとると恐怖の制裁を、顧問の先生から受けるコトとなる。今まで成績はまあまあだったので、初めての制裁だ……。
(ウソだ……ウソだ。ウソだ、ウソだ!!)
「何か変なコト思ってるよー。エヴァンゲリ〇ンの見過ぎじゃね?」
(ウソだ、ウソだ……!)
次第に呼吸は乱れていった。
「ハッハァ……ハァ……ハァ……!」
俺は過呼吸になった。
教師は俺のコトを良く思って無かったらしく、遠くから俺を見下した目で見ていた。そして、口を開いた。
「彼は偉いですよ、タバコに逃げないので――」
(!! 何が言いたい!?)
俺は思考盗聴器を使用されたこと、試験で赤点をとったこと、顧問の先生から制裁が待っていること等のショックが重なって過呼吸を起こし、床に倒れこんだ。
「ハッハァ……ハァ……ハァ……!」
俺は始め、仰向けになっていたが、寝返りを打つようにうつ伏せになった。
(こっちの方が、楽だ……)
「何かキモい人が倒れたってー」
「マジー?」
教室の周りは軽く騒ぎが起きていた。そして――、
「――、!」
俺は気を失った。




