『何もない日常』
「それで、フラれたんだ?」
女子達の間で問題が起きていた。
教室には泣いている女子生徒がいる。どうやら、色恋沙汰が原因の問題の様だった。問題の当事者はフラれて落ち込むんでおり、更には涙も流していた。
中学生、思春期の子供には大き過ぎる負荷がかかり、クラスの雰囲気は悪い方向に向かっている様だ。
恋愛――、中学生活を行う上では大したコトでは無い様に思えるが、中学女子にとってそれは生きる全ての様なモノだった。
さて、俺と同じ野球部に所属する、生徒会長兼キャプテンは、生徒会の用事で部活に行けない。俺が先にグラウンドへ行って指示を出さなければならない。俺は涙する女子を無視し、部活へ――。と、女子達が行く手を阻む。
「!? ……」
「まさかあんたが悪い噂立ててたんじゃないでしょうね?」
「どうとでも思ってろぃ」
(逃げたな)
俺はその足で部活へ行った。
グラウンドには集中していない部員が居り、サッカー部へちょっかいを出してた。
「へいへーい」
「パスパース」
「何だよ、お前ら野球部だろ?」
そこへ到着した俺は、気だるそうに言うのだった。
「おーい、退部届、出しとけよー」
「あっ、やっべ」
「すいませーん、お疲れ様でーす!」
上級生の俺が来たところで、野球部の部活がやっと始まった。
アップが終わり、キャッチボールをする。
「ちゃんと胸に投げろよ、これがキホンで、できないと他のプレーもできねぇぞ? まず軸足を相手に対して垂直に置いて――」
「やるじゃん」
教室の女子達がそう言っていたが、俺の耳には届くはずが無かった。
――――、
「よーし! 今日はここまで。今日できるコトを明日やるな、明日できるコトを今日やるな」
『お疲れ様でしたー!』
部活が終わり、更衣室に向かった。
「!?」
そこには女子が何故かいる。
「実態調査よ! 実態調査! のぞきじゃないからね!!」
「あっそ。着替えるから帰ってくれるか?」
「言われなくても!!」
俺の中学の野球部は、試合着はあっても練習着が無い。体操服で野球の練習をしている。
「あーあ、欲しいね野球着」
何でも、徹底しないと。
俺の中のモットーはそれだ。どんなことでも、中途半端にして徹底できていないと、何も得られない。徹底しているのなら、悪でさえ魅力を覚えてしまう人だっている。もちろん、悪に染まってはいけないのだけれども。
ド田舎の公立の中学校、その部活。お金が無いのは分かっているのだけれど、体操服で部活するってどうよ?
いつも、歯がゆさを覚えながら、卒業まで部活動を続けるコトとなる俺だった。
時が解決するとはよく言ったもので、女子達の色恋失恋沙汰問題は、収束を迎えた様だった。どんな決着がついたのかは、俺は知らない。
「よしこーい!!」
俺は部活に勤しみ、大声でノックを受けていた。教室では帰宅部の女子達が何やら話をしているのが見て取れた。
「こんな所からじゃあ、しかも、あんな実力じゃあプロにだって絶対なれないのに、どうしてああも練習するのかねぇ?」
「好きだから」
「!?」
「って、言ってたよ」
「なーに見てんだよー!!」
教室に居る女子達に不意に目が合ったような気がして、俺は声を上げた。
「黙れや! 見とらんわ!!」
空は、曇り。
曇天の空の下、差し込む光はあるのか?