『白昼の決戦』
店長――。
そう、ヤツは居酒屋の店長だった。ただ、それだけだった。ヤツとの歴史は、戦いに満ちた歴史だ。ヤツは以前、俺にこんな言葉を投げ掛けてきた。
「お前の母親が、お前を虐待した理由を、目を閉じて考えてみろ!」
俺は凍り付いた。正に犯罪を認めさせようかの如く、ヤツはそのセリフを言い放ったのだ。人生で初めて、人間の発する言葉に恐怖した。
(多分これが犯罪者の思考なんだ……)
そう思い、その場をやり過ごした。
居酒屋のバイトを辞めて8カ月ほど経ったある日、幻聴の様なモノが聞こえてきた。
『ドアを開けて寝ろ! 助けが来る!!』
(ホントかよ?)
俺は半信半疑だったが、とりあえずアパートのドアを開けて昼寝をするコトとした。日差しが心地よかったので、すぐに熟睡する事ができた。すると店長、ヤツが俺の自宅に数人のアルバイト店員を連れて侵入してきた。
「なんだこれは!?」
ヤツは開きっぱなしのノートパソコンのディスプレイに映った、グーグルアースを見て叫んだ。
「多分……、地図かと……」
アルバイト店員はヤツに助言した。
「へっ、知ってるぞ」
ヤツは知ったかぶる。
「ここに、これを入力したら出てくるんだろう?」
ヤツは入力部分に『ヌーディストビーチ』と入力した。何も表示されない。
「何でだ!? どうしてだ!!?」
固有名詞じゃないから……。
そしてヤツはグーグルアースの精巧さにビビり、マウスをつつきながら叫んだ。
「例えば! これを回すと、地球が回るのか!?」
もとから回っているし、地球の自転とは関係ない。
次にヤツは、熟睡している俺を見て、近付いて来た。
「へっ、コイツは、本当に死んだように寝ているんだよ」
「ホントですね」
アルバイト店員も俺を覗き込んでいる様だった。
「本当に死んでるのか!?」
ヤツはキョドり始めた。
「死んでたら、火葬されるんですかね……?」
「そうか!」
ヤツは何故かライターを手にしてそれに火を点けた。
「どうだ? 熱いだろう」
ヤツは俺に火を近づけてきた。しかし熟睡している俺は気付くことは無かった。
「熱いぞ! 本当に燃えるぞ!」
更に火を近づけたヤツは、俺の眠っている布団に火を点けた。
「本当に! 本当に!!」
ヤツは声を荒げてきた。
その時――、
ゴッと俺は無意識的に右ストレートをヤツの頬にお見舞いしてやった。
「うるせぇ……、くせぇ」
布団の焦げを嗅いでいたのか、寝ぼけたままそんなセリフを右ストレート共にくれてやった。そのまま右ひじを布団に落とした。そう、火が付いている部分に。ジュッと右ひじは火を押しつぶし、酸素不足になった火は、数秒で消えた。
(す……凄い)
アルバイト店員は只々、息を呑んで感心していた。
「へっ、もう帰るぞ!」
ヤツはアルバイト店員数人を引き連れて帰っていった。
――、
15時頃――俺、起床。辺りには焦げ臭さが。ふと、布団を見ると右側に焦げた跡が。そして来ていた寝間着の右ひじ部分に焦げ跡が。
(…………)
「何かあった?」




