『耳鼻科』
「おっ、そうだ。あいつとラーメン食いに行こう」
俺はWをラーメンに誘った。
中学校の夏休み。部活も休みだったので恐らくOKだろうと高を括って電話をかけたのだった。
「おっす、W。今日、ラーメン食いに行かないか?」
「……」
Wは暫くだんまりだった。
(ダメか……?)
するとWは口を開いた。
「しょーがない、行くか」
「サンキュー」
急ぎ足で玄関まで行き、靴を履いた。
「どこ行くんだい?」
母が話し掛ける。
「Wと、ラーメン食ってくる!」
「何言ってんの!? 今日は午後二時からの病院行く日でしょ?」
「あ……」
今日は耳鼻科の病院だった。部屋に戻って再びWに電話をかけた。
「悪い、今日は耳鼻科行く日だった。ラーメンどうする?」
「どうって、今日しか都合合う日ないしな……」
「……」
「しょーがない、病院いっしょに行って診察終わるまで待ってやるよ。お前んちのお父さん、面識あるしな。ただし、車出してもらうからな」
「悪いな、ホントありがと」
――、三人で病院に行き、Wは親父と一緒に、診察が終わるまで病院の待合室に居てもらうコトとなった。親父はWに話しかける。
「W君とうちの子のクラス、全体的に仲が悪いみたいだから、今日みたいに誘っても来ないとばかり思ってたよ」
「はは、息子さんとは違うんで」
Wは気さくに返した。続いて親父は口を開く。
「そっか、他の子達も仲良くないといけないよね。例えば様々なスポーツでは、チームワークが大事だ。一人の力だけでは、勝てないスポーツが多い」
「?」
「特に、ほら。君とうちの子がやっている野球なんてチームワークの塊みたいなものだ。一人一人が全力を尽くし、自分の持ち場で自分の仕事をしないと勝てない。そうやってプレーしていく中でもミスやエラーをカバーし合える、凄いスポーツだよ、野球は」
「そうっスね! 俺らのやっている野球ってそんな凄いスポーツだったんだなって、再認識しましたよ」
「あー、鼻ん中めっちゃ変なの入られたー」
俺は診察が終わり、二人の元へと歩み寄る。俺はWの、少しの変化に気付いた。
「W、何か嬉しそうだけど、何かあった?」
「何でもないよ。さー、ラーメン行くか!」
「W君、奢ってあげるよ」
「やりぃ!」
「親父、俺は?」
「お前はお小遣いから出しなさい」
「くー、ケチー」
その後、三人で食べたラーメンは格別の美味しさだった。




