ここはどこで何が起こったか誰か説明してくれ
「君ね、まだこんな事言わないといけないのかね?君、何年目?」
毎日のようにおんなじ事の繰り返し。大学出て一流とは呼べないもののそこそこ利益を上げている会社に入社出来た。
蓋を開ければ課長とかいう人を下にしか見れない馬鹿に毎日愚痴を言われる日々。こいつは、俺をストレス解消の道具としか見ていない。
さっきから、君君って俺には赤司颯という立派な名前がある。
「すいません」
いつものように、深々と頭を下げる。
「君ね、謝れば良いってもんじゃないんだよ。」
曇った眼鏡に、ハゲ散らかした頭を見ると余計にイライラする。
じゃあ、どうすればいいんすか?殴ればいいんすか?
そうだ、今日俺はこいつを殴ってこの会社を辞めよう、そう決意して今日来たのだった。
朝家を出る前は、絶対に殴ってやろうと決意したけれどいざこのアホを目の前にすると勇気が逃げていく。
「こっちも安くない給料はらってるんだから、それに見合う働きをしてもらわないと困るんだよね。」
下げている頭を書類でポンポン叩かれる。
俺は右手に拳を作る。
血管が浮き出る程に力を無意識に入れている。
次のポンで行くからな!絶対に行くからな。
ポンと叩かれたのと同時に目の前の課長の胸ぐらを掴みあげ右手を思いっきり振りかぶる。
周りの社員が何事かと俺の方を見るが関係ない。
「俺の頭を気安く叩くんじゃねーーーーよ!!!」
俺の鉄拳は課長の顎を貫くはずだった。
一瞬辺りか暗くなったような気がした。直ぐに明るさを取り戻す。
掴んだはずのスーツは薄い衣に変わっていた。
何が起きたのか分からずにパニックになる。
顎は捉えたぞ、確実に。なんせ拳が痛い。
目の前で倒れているのは課長ではなく長い白髭を生やしたジジイだった。
「アレ?ここどこだ?」
そこは、会社ではなく周りを海に囲まれた崖の上だった。
アレ?俺まだ夢の中だった?
目の前のジジイが必死に立ち上がる。
「貴様、神である私に一発入れるとは不意打ちながらあっぱれじゃ。アレ足がふらつくな。」
ヨロヨロとフラついている所を見るとまだ、焦点があっていないらしい。
いや、不意打ちしたつもりは全くないのだが。
「アンタ課長じゃなくて神なのか?」
質問してみたが、思いのほか俺のパンチが効いたのか当たりどころが悪かったのか、フラフラしながらジジイは崖の際際まで歩いて行く。
「おい、じいさん!そっちは…」
言いかけた所でジジイは崖から転げ落ちて海に沈んだ。
「やべ……俺人を殺したかも」
断崖絶壁から海を覗いてみるがジジイは上がってくる気配がない。
「そこの、異世界から転送された人。あなたとんでもない事してくれたわね」
気付けば俺の背後に綺麗なピンク色の髪をポニーテールにした若い美人が立っていた。
「うわっ!誰だよあんた!つか、いつから居たんだ?」
「今来たのよ。それよりも、転送直後にこっちの人を倒してしまうって、どういう偶然よ。しかもそれがこの世界の五大神の一人という奇跡。不意打ちにしても神を殺すなんてあり得ないわ」
転送だの神だの何をさっきから言っているんだこの美人は?
「言ってる事がさっぱり分からん!ここは日本じゃないのか?」
「日本?ああ、貴方地球から来たのね。よく来るのよ地球から人が。先に言っておくけど夢の中ではないから。私は案内役のアシェリー。貴方の登録名は…颯で良いわね。」
夢じゃないのか。転送ってどこか違う世界に来たのか俺は?
「俺がこの世界に送られたとして、さっきのその、神様?は死んだんだろ?俺はどうなるんだ?」
「別にどうもしないわ。もう、世代交代間際のご老公だったのよ。」
てっきり俺はどこか牢屋に連れて行かれて地獄の子守唄を聞きながら死ぬまで拷問みたいなの受けるかと思った。
「どうもしないんだけど、ちょっとしたペナルティを受けるわ。」
「ペナルティ?一週間外食禁止か?あっあれか!領収書経費で落ちなくなるとか」
「何を言っているの?貴方のレベルが上がってもスキルを習得出来ないペナルティよ」
何だたいしたペナルティではないな。ん?レベルとか言ったか?
スキルが何だって?
何を言っているの、は俺のセリフじゃないのか。
「俺にレベルがあるのか?」
「そこから説明するの?時間ないのに。この世界には4つの種族があって、皆レベルがあるの。この世界に存在する命のあるモノを倒せばレベルが上がる。レベルが上がればスキルを習得出来るんだけど貴方はそれが出来ないって事」
この人が喋っている言語が何なの分からなくなってくる。
「ゲームみたいなもんか?俺めっちゃ不利って事だな」
「ゲームではなく、これは現実よ。でも、神を倒したのは事実だから貴方はスキルをもう既に習得しているわ。さっき貴方が殺害してしまった神はピンチに訪れる神なの。その神に纏わるスキルをいくつか習得しているの」
殺害って他に言い方無いのかよ。
「土下座スキルだったら持ってるけど他は知らないな」
実際、俺より綺麗な土下座をするやつなんか居ないだろう。その美しさに見とれてしまうほどだからな。