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第1話 ラブコメは始まりが大事



この世は理不尽だ。



二月上旬。申し訳ない程度に積もった雪と全身を刺すような冷たい風が足取りを重くする朝の通学路。寝癖が残ったままの髪を手ぐしで整えながらポツリと呟いた。



「うわ…中二がここにいる…。」



そう言って軽蔑した目でこちらを見てくる彼女は一つ年下の後輩、中里 玲音奈。同じ陸上部で家が近所のいわゆる幼なじみだ。



「昔はあんなに可愛かったのに今では中二に…。」



二つに結ばれたオレンジがかった髪をいじりながら、お母さん悲しいわ…といった感じで言う。聞捨てならねーな。



「中二様を舐めるな!僕なんかが中二様達と同じなんておこがましい!」



「そっち!?しかも中二様って…キモ。」



罵倒とともにゴミを見るような目でこちらを見てくる。うぅ、やめい!これ以上そんな目で見るな!石化してしまう!!などと脳内中二畑の頭で独り言を呟いた。



別に中二だからあんなことを言ったのではない。だからといって思わず出てしまったわけでもない。自分のためにわざとあんなことを言ったのだ。



しかし、そんなことを玲音奈に言ったところで信じてもらえる筈もなく完全に誤解されたまま学校に着いた。



この市立西尾高校は家から徒歩15分程で着く普通の公立高であり普通の進学校だ。全校生徒数は約1000人で一クラス約45人の計21クラスがある。この辺じゃ普通の生徒数であり、普通の人気を誇る、いわゆる普通の高校だ。ごめんなさい校長先生!



玄関に着くなり玲音奈はこちらを振り向くと、じゃあね、ゴミ。と一言だけ言い残し一年の下駄箱の方へと行っていってしまった。え?あの目ってやっぱりゴミを見る目だったの?僕当たりじゃん!えへへ!なんて、奥義・ポジティブ思考を惜しげもなく発揮していると後ろからぶつかられた。



誰だよ、と後ろを振り返るとぶつかった拍子に倒れてしまったと思われる女の子がいた。だ、大丈夫!?と声をかけるとその女の子は大丈夫です…と顔を上げた。

彼女の顔を見た瞬間、僕は思わず息を呑んでしまった。それは彼女があまりにも美少女だったからだ。系統で言うとお嬢様的な感じの子で、肌が白く、誰もが振り返る程の綺麗な顔立ちだ。

見とれていると彼女はじっと僕を見て、もしかして…と口を開いた。



「高本…涼太…?」



「そうですけど…」



「やっぱり!!」



そう言うと彼女はすぐさま起きあがり、ガバッと僕に抱きついてきた。



「久しぶり~りょーちん~」



え、誰?この美少女だれ?すっごく美少女なんですけど!きれいな茶髪ロングでなんかすっごくいい匂いするし!なんかすっごいよー!!と語彙力皆無ゴミ男へと成り下がってしまった僕は周りからの視線に気がついて慌てて美少女を引き剥がした。



「ど、どちら様ですか?」



「え、もしかして私のこと覚えてないの?」



はて、どこかで会ったっけ?んー、昨日行った吉野家?それとも一昨日行ったすき家?あ、さては一昨昨日行った松屋か?

と週三牛丼という恥ずかしい秘密を赤裸々に明かしてしまったところで、ふと彼女の顔が視界に入った。



さっきまで可愛い天使みたいだったお顔が可愛い鬼みたいなお顔になっている。可愛い鬼ってなんだよ。もはや鬼じゃないよそれ。しかし彼女を怒らせてしまったのは本当のようだ。もう知らない…と小声で言うと、



「じゃあね、ゴミ。」



と、ゴミを見るような目で僕に言い放ち一年の下駄箱へ行ってしまった。あれ?なんか知ってるぞこれ。デジャビュかな?ってかあの子も後輩かい!



はぁー、思わずため息が出てしまった。さすがの僕でも朝から2回もゴミって言われたらキツイ。HPが100あるとしたら今3だ。ヤバい死んでしまう!そうだため息を吸おう!幸せまで無くなってしまったら本当の終わりだ!僕はまだため息が残っているであろうそこらへんの空気を必死に吸い込んだ。これでよし!

二年の下駄箱で上履きに履き替えると二階にある自分の教室へと向かった。





***





左には曇り空があり右には可愛い系イケメンがいる。後ろは棚で、少し離れた前方にはクラス1の美女、水上時音が見える。



ふふふ、そう!僕が座ってるこの席こそが選ばれた人間だけが座ることのできる玉座、"King of the seat(窓際の一番後ろの席)"であり、この完璧な配置こそが"Absolute space (まぐれの配置)"なのだ。



「大丈夫?りょーたっぴ」



右の可愛い系イケメンこと、柳沢 楓が心配そうな顔で聞いてきた。しまった。顔に出てしまっていたか。



「大丈夫だよ楓。朝はほぼ瀕死状態だったけど君を見て生き返ったからさ。」



「よくわかんないけど大丈夫そうだねー。」



楓は安堵するとニコっと笑った。うーん可愛い。うちの楓は世界一。



「そういえばさ、今日転校生来るらしいんだけどりょーたっぴ知ってた?」



「へぇー、それは知らなかったな…。」



「こんな時期に転校生なんて珍しいよね。」



「そ、そうだな…珍しいな。」



嘘だ。本当は知っていた。というより感じていた。



「男の子かな?女の子かな?わくわくするね!」



楓は目をキラキラ輝かせている。実をいうと、性別も分かっていて顔が凄く良いこともわかっている。どんな子か知らないけれど。



「おーい、お前ら席につけー。転校生が来たから紹介するぞー。」



先生が入って来てみんなを席に座らせた。いよいよだ。いよいよやってくる。



「入ってきていいぞー。」



先生の言葉とともにガラガラッと扉が開いて転校生が入ってきた。その姿を見るなり騒がしかった教室が静まり返った。そうだよこれだよ。このために朝からあんなことを呟いたんだ。



「えと、初めまして。柏木 綾音です。」



瞬間、教室中が歓喜に包まれた。めちゃ美人!え、可愛い過ぎ!!モデルみたい!と超絶美少女転校生にみんな驚いている。



確かに美少女だ。すんごい美少女。あのクラス1の美女・水上 時音と同等かそれ以上ってくらい美少女。普通だったらクラスのみんなのような反応をするだろう。しかし、僕を普通と考えてもらっては困る。勿論こうなることは知っていた。



ーーーー"主人公"。その人の言動ひとつでこの世界が変わるというもの。



そんなチートともいえる特性を僕は生まれながらにして持っている。思い出して欲しい。朝の発言を。中二病っぽい言葉を朝の通学中に呟く。結果、超絶美少女転校生がやってくる。ラブコメの掟だろ?



「じゃあ、柏木はあの空いてる席な。」



先生は僕の前の席を指差した。綺麗な茶髪のポニーテールを揺らしながら超絶美少女転校生がこちらにやってくる。彼女は僕に気がつくと恥ずかしがりながらも微笑んだ。



「あ、あの、よろしく…ね。えっと…」



「高本涼太です。よろしくね柏木さん。」




この物語は"主人公"という能力を手にした僕がおくる、どこか欠けた不完全青春ラブコメである。






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