神野京介編 報道部部長
アイドルの犬を殺した。目的は何だ。
嫌がらせだとしてもこれで終わるとも考えられない。
「何かしらの犯人からのアクションがあるな」
神野はカフェテリアでミルクティーを飲みながら呟いた。ここは彼のお気に入りの席。外のテラス席だ。ここの学校はアイドルもいるのもそうだが、成績優秀者やお金持ちだらけのエリート高校だ。設備も充実している。
こんな落ち着いた日。そんな事で終わる日では無いと感じていた。
予感はもちろん的中。自分の真向かいに一人の男子生徒が座った。
「おいおい。水臭いだろ。高田の愛犬が殺された事件。お前に調査依頼来ているだろ。何で早く言わないのさ。早速今日の放課後にインタビューさせてくれ」
ちょっとお調子者だが憎めないこいつは長洲智也。報道部の部長だ。
「待て。今回の事件はもう終わりだ。流石に誰かわからないよ。校内で起きればまた話は別だが」
「確かにそうだが。あの事件は今大ニュースになっている。そこで調査したお前の意見も記事にしたいのさ。わかってくれよ」
こいつとは古い仲だ。同じ中学で学園祭の時、事件に二人で巻き込まれ。それを何人かで解決した。
「そうだな。理事長には報告したし。現場の詳しい話と時刻くらいなら出しても大丈夫か。これでどうだ?」
「おお。助かるぞ。早速部員には連絡しとく!」
長洲はスマホを取り出し。すぐに連絡を始めた。報道部、それはこの学校で起きているアイドル活動の特集がほとんどだが。校内で起きた事件や生徒会の事も扱う。言わばマスコミだ。その影響力は強く。彼らの作るネットニュースのページは時にサーバーがダウンするほど伸びることもある。
「なあ。今回のこの事件。これで終わると思うか?」
長洲が聞いた。
「どうだろうな。また高田さんを狙ってくるかも」
「そうだよな。そう思うよな。犬の次は本人だーってなる事は簡単に想像出来る」
長洲も神野もそうは話すが。ここのセキュリティは厳重だ。アイドルにこの二人含む一般生徒はそうそう近づけない。神野は事件が起きないと。長洲もインタビューくらいの時しか会えない。普段の学校生活も棟は別々で。アイドル科の棟の周りには警備員だらけだ。
それでも全く接触する機会が無いわけでもない。
「狙うなら学園祭か」
「ああ。俺もそう思う」
神野は頷いた。
「だが、その学園祭までまだまだ時間はある。このセキュリティがある限り。高田もそう簡単には襲われないだろ」
「それだと良いが」
「こんな時間か。放課後報道部に来てくれ。そこで待っているからな」
もうすぐ昼休みも終わる。一足早く長洲が席を立った。
最後のミルクティーを飲み干し、神野も教室へと戻る。
午後のだるい授業中。つまらない数式が黒板にギュウギュウ詰めになっている。
外を眺める神野。ふと目線を下げると体育の授業か。グラウンドで走っている生徒が見える。
こんな授業よりは走っている方がいいな。そして何やら男女が一緒に走っているのも見えた、何やら言い争いをしているようにも見えるが。仲がいいのだろうな。正直羨ましい。
別にアイドルと付き合いたいとは思わないが。出会いという出会いも無い。このまま調査役で卒業してしまうのだろうか。
放課後になり。報道部へと足を運ぶ。ここの学校は大きく。サークル達の部室が集う会館がある。
その中でも報道部は特別扱いの広い部屋だ。中はさながらオフィスだ。
入ると可憐な女子部員が丁寧にお辞儀をして迎えた。
「神野さん。お待ちしていました。長洲部長は奥にいますので、ご案内いたします」
デスクが並ぶ部屋の奥に部長室はある。
女子部員が開けるとそこには長洲の姿が。
「よく来てくれた」
長洲はそう言うと何故か握手を求めてきた。神野は握手をした。
「かけてくれ。きーちゃん、お疲れ様」
きーちゃんと呼ばれた女子部員は軽くお辞儀をして部屋を出て行った。
「すごいな。部長になったらこんな部屋がもらえるのか」
神野は辺りを見回してそう言った。
「俺からしたら必要ないとは思うが。一人になりたいときや重要な事を話すときはここをよく使うよ」
神野もよく報道部に入る機会があるが。前の部長にはこの部屋に入れてもらえなかった。中々新鮮味があり辺りを見てしまう。
「中々入れないからな。ラッキーだと思えよ」
感じ取ったとのか長洲が言った。
「ああ。感謝するよ。それにあんな可愛い子が出迎えてくれるなんて」
「ん?あ、きーちゃんの事かな?彼女はうちの副部長だ。俺の後任は彼女になるよ」
「へー、時期部長って事か。顔で選んでないよな?」
神野はいたずらっぽく言った。
「おいおい。彼女は優秀だ。活動に対する姿勢もいい。それに彼女ならこの部活をまとめられると思っている」
「そっか。お前がそう言うなら間違いないな」
「よし!早速インタビュー始めようか」
長洲がそう言い出して。始まった。神野は事件現場の様子と。その時の高田の行動に発見時間等を伝えた。
「なるほどなるほど。概ね高田と同じ内容だな」
そう言えば調査した日。彼女は次の日すぐにインタビューだと言っていたが。事件のニュースの中にそんなの無かった。
「長洲。お前やるな」
「ああ。この事件の記事の最後には高田のインタビューだと決めていた。観覧数も稼げるし。お前の協力もしたかったからな。矛盾は無い」
「ありがとう。だが高田が嘘をつく理由はないな。愛犬がこんな目にあっているんだ」
「ああ。ちょっと疑いすぎたかな」
長洲は頭をかいた。だが、この男も中々隙がない。
これからどうなるか楽しみな長洲。これ以上の騒ぎが起きないことを願う神野。
正反対だが。この二人はいいコンビなのだ。