捕縛
あらあら、とシャオと名乗る少女は飛んできた白い鳥を肩に止まらせると、その惨状を前に立ち止まる。
完全に白目を向いた、西のものでもない異国風の衣服をまとった少年と、その脇で獲物を捕らえた子犬のように、うれしそうにシャオの言葉を待つ彼女がいた。
「これまた、派手にやってくれたわ。レイ」
でしょう? と、でもいうように近づいたレイ。
少年が勢いよく突きを放つも、レイは軽やかに背中で受け流し、背後に回した両腕で背に触れる刀に絡みついたかと思うと、刀に背中を預けた格好で、左足で少年の側頭部を蹴り上げたのだった。
見た目は少女のなりをしているといえど、レイは相当な手練れだ。
でもなければ用心棒として雇わない。
「でも、死んでしまったら大変だわ」
そうなると、今度はシンに貸しを与えてしまうことになる。見ず知らずの異国人を殺してしまうと、とても面倒になることをシャオは知っている。
(でも、それって西洋人だけかもしれないけど)
珍しい衣服を着ている目の前の少年はどう見ても東洋の人間にしか思えない。
聞いたことのない辺鄙な田舎からやってきた、世間知らずなのかもしれない。
「よかった、生きているみたいね」
気絶している少年の傍らに座り込み、首筋に手をあてる。確かな熱と脈が伝わる。
シャオの行動を興味津々にのぞき込むレイ。
「さすがに手加減はしてくれたみたいね。偉いわ」
シャオに褒められて、ますます犬のように顔をくしゃくしゃにして喜ぶレイだった。
***
「......また、あなたたち、ですか」
レイが昏倒させた少年の両腕を背中に回して縛っているとき、二人の背後からため息交じりの声が聞こえた。
まるで、お仕着せのような制服姿の物静かそうな青年。
「遅い、シン」
シャオが口をとがらせる。
「仕事がたくさんあるんです。これでもどうにか時間を作ったつもりなんですよ」
シンと呼ばれた青年はしかめつらを彼女たちに向ける。
「私たちはシンに手柄をあげようとしたから呼んだのにねえ?」
シャオがそう言うと、両手を縛り終えたレイがそうだそうだと言わんばかりに頷いた。
「この男は誰です?」
「食い逃げ犯だって。ここまで逃げてきたからレイが捕まえた」
得意げにセーマを縛りあげた、もう一人の少女。
「あまり、見ない姿ですね」
シンは仰向けに倒れるセーマをのぞきこむ。
「でも、どうして気絶しているんです?」
「それは、レイが蹴りを頭に決めたから」
「......暴力は駄目でしょう。ましてあなたたちは警官でもなんでもないじゃないですか」
「だって、チェンさん怒ってたし。チェンさんのご飯にいつもお世話になっているわけだし」
明らかにしなを作るシャオ。
「そう、シャオは悪くない。悪いのは、食い逃げしたこの男」
おたまと鉄鍋を両手に持った男。
セーマに食い逃げを決められた店主だった。
彼は無銭飲食を果たしたセーマを見下ろす。
「わかりました。ここからは警察が対応します。チェンさん、少しだけ話を聞かせてもらったも良いですか?」
「私はなにかしようか? この男を警察署まで連れていくとか」
「シャオに貸しを作ると後が大変なのですが、気絶してる人を連れていくのも骨が折れるので、手伝ってください」
「お安いご用」
「でも、便宜はなしですよ」
「どうして」
「どうしてって、こんな様にしたのはあなたたちじゃないですか。そこまでは責任をとって働いてくださいよ」
えぇっ!? と、あからさまに嫌がるシャオ。
その隣でレイもまた、同じような顔をシンに向けていた。