女
「あらあら」
見慣れない服を着た男が港から中心街へと駆けていく様を、彼女は屋根の上から見下ろしていた。
「せっかく、手練れの僕をけしかけてみたのに、いともたやすく斬られてしまった。
シンに恩を押し売ってやろうと思ったけど、そうなかなかうまくいかないものね」
彼女は握っていたこぶしを解く。
親指から小指にかけての幅に収まった4枚の人型のうち、真ん中の2枚が胴の部分から真っ二つに斬られていた。
「まあいいか。壊れたものは新しく作り直せば良いのだし。そうよねぇレ......あれ? レイ?」
隣にいたはずの親友が消えていることに彼女は気がつかなかった。
さっきまでそばにいたというのに、気がつくと彼女はいつも煙のように姿を消す。
逃げ続ける男の方角に視線を移す。
屋根伝いに彼を追う、追っ手がまた一人増えていた。
「あぁ......そういうこと」
彼女はうんうんと頷き、一人で納得していた。
どうやら、レイの琴線に触れるようななにかが、あの男にあったみたいだ。
「まっ、あの子の感性は昔からわからないけど」
彼女は独り言をつぶやくと、屋根から降りる。
「シンに貸しを作るのは、悪くないことだし」
とはいえ、彼女が動くまでだとは想定外だった。
レイを追いかけることに決める。
彼女は一人では、何もできない娘だから。
だからこそ、私がついていないといけない。
屋根から1段下の階に飛び降りた彼女はいそいそと彼らを追う準備を始める。