ふゆじたく
漫画版「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略」3巻の電子書籍発売記念
風に冷たさを感じる季節。晴輝は自宅の庭で、身を寄せ合って震える三玉を発見した。
初夏にダンジョンから地上に連れ去っ――お招きした、タマネギだ。
「やっぱり、種は出来なかったなあ」
タマネギ達を連れてきたのは、タマネギを育てたら種子を残すのではないかと考えたためだ。
来春に種を撒き、タマネギを育てる。
かつて失われたタマネギ畑を、また取り戻したい。
そんな思いで連れてきたが、ダンジョンのタマネギは種子を生まない種類だった。
残念ながら、夢のタマネギ畑は諦めるしかない。
このまま気温が下がれば、間違いなくタマネギ達が死んでしまう。
3つのタマネギは魔物だが、晴輝の言うことを聞いてきっちり、庭の草むしりを続けてくれた。
決して悪い魔物ではないと、晴輝は考えている。
そんな魔物をこのまま黙って見過ごし凍死させるのは、心苦しかった。
「三人とも、もう寒いでしょ。家の中に入ろうか」
「「「(かたかた)」」」
晴輝が抱きかかえても、タマネギ達の反応が鈍い。
やはり寒さで弱っているのだ。
晴輝は急ぎ自宅に入り、リビングにある薪ストーブの前に彼らを降ろした。
ストーブに薪を入れ、火を興す。
パチパチと、爆ぜる音だけがリビングに響き渡る。
おがくずに点けた火が小枝へ、そして枝から薪に映るのを確認し、晴輝はタマネギ達に視線を合わせた。
「これから冬が来る。雪が溶けるまで、ここが君たちの家だよ。あまりはしゃいで暴れないように。火は温かいけど、近づきすぎないようにね。みんな仲良くするように。いいね?」
「「「ぴゃっ!!」」」
晴輝が注意点を説明すると、わかっているのかいないのか、タマネギたちは熱心にコクコクと頷いた。
タマネギたちから離れた晴輝は、リビングの隅にレアの姿を発見した。
どうやら彼女も、薪ストーブの温もりに誘われてやってきたようだ。
だが、タマネギたちの姿を見て、不思議そうに頭を傾げている。
「レア。彼らは今日からこの家で一緒に暮らすことになったタマネギたちだ。一緒に暮らすことになるから、良くしてあげて。あと、火に近づきそうになったら注意してあげてね」
「……ふふり(もう、仕方ないわね)」
レアがしぶしぶ頷いた。
レアはこの家において、一応先輩である。
先輩としての自覚があるのか、晴輝の言うことを素直に聞き入れてくれるのだった。
○
タマネギたちは、三人身を寄せ合って震えていた。
風が非常に冷たい。
自分たちはもう、死んでしまうんだ……。
タマネギたちは自らの死を悟り、半ば諦めていた。
その時だった。
空より神々しく輝く仮面が舞い降りた。
かつて、タマネギらを新天地へと導いた、あの仮面神様である。
その仮面神様が、なんとタマネギらをその腕に抱き寄せたではないか!
仮面神様の温もりが体中を温める。
ああ、いよいよお迎えが来たのだ。
これが死なのか。
しかし死は、なんと暖かいのだろう……。
タマネギたちは、その温もりにウットリした。
ウットリしていたのは僅かな間だけだった。
仮面神様は再びタマネギらを、新天地へと招き入れたのだ。
新天地に降り立ったタマネギたちは、仮面神様が偉大なる御力によって、猛々しい炎を起こす奇跡の一部始終を、黙って眺めていた。
自分たちは、歴史の1頁に刻まれるだろう出来事を、目の当たりにしているのだという感動を持って……。
炎が安定すると、仮面神様がタマネギたちへとさらに接近し、こう言い残した。
「太陽が失われた大地は、いずれ氷に閉ざされるだろう。これよりお主らは暖かなる新天地にて、幸せに暮らすが良い。
火を崇めよ。しかして、決して己が物とする事なかれ。
諍いを起こさず、平和な世を維持するのだ」
「「「は、ははぁーっ!!」」」
仮面神様はタマネギたちに、〝新たな王として君臨せよ〟と申しつけた。
その有りがたい仮面神様の言葉に、タマネギたちは何度も感謝の意を伝えた。
ここが、新しい土地だ。
仮面神様が下さった、地上の楽園だ。
仮面神様が消えたあと、タマネギたちはその大地の温もりに歓喜した。
これでまた、自分たちは生きて行ける。
死の影に怯えることもないだろう。
タマネギたちが神の炎の前でうたた寝しようとしていた、その時であった。
タマネギたちの1人が、不穏な気配を感じて振り返った。
「ピャッ!!」
ポンッと頭の花が咲き誇る。
その驚きように、残る二人も振り返る。
「「ピャッ!!」」
二人も同様に、驚き頭に花を咲かせた。
タマネギたちの視線の先。
壁の影から、こちらをのぞき込んでいた。
人とは比べものにならぬほど悍ましき力を秘めた、凶悪な一輪の姿を……。
まるでタマネギたちを取って食べてしまおうと思っているかのように、その視線は熱心だった。
タマネギたちは、神から与えられた炎の前で、怯えた。
ああ、仮面神様よ、仮面神様よ!
なぜ私たちをお見捨てになったのですか!?
○
レアは物陰からこっそり、リビングを覗き見ていた。
リビングには、新しい家の住人であるタマネギ3玉がいた。
タマネギたちが、凍えるようにカクカク震えている。
火の前にいるというのに、寒いのだろうか?
とはいえこれ以上近づけば危険だ。
同じ葉物であるレアは、ストーブの恐ろしさを身を以て知っている。
(一度ストーブの前でうたた寝をして、葉が焦げてしまった……)
寒いからといって不用意に近づけば、ストーブの火はタマネギたちに容赦なく牙を剥くだろう。
レアは晴輝の言いつけを守り、ガクガク震える新入りたちを、先輩として優しく見守るのだった。
本日より「冒険家になろう」の漫画版電子書籍が配信されます。
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