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カルローナ物語  作者: 波井 最中
清濁絡み合う世界
1/15

導入

 山林が自然として残り、人の手が加えられていない平野もまた広がっている。海は透き通り、川のさざめきは何にも邪魔されない。いと尊き世界として、様々な神の元に人々は生活している。

 人々の殆どは、手に鍬を持ち畑を耕し、麦や野菜を育て、国にそれらを納める。時には行商と取引し、金銭を得て上納することもあるが、それは少ない。

 行商が居るということは、彼らが集まる拠点もあり、それが町となり経済が生まれている。多くの人が行き交うと言うことは、数多くの問題が生じる。それらを取り締まり、裁くために国というものが存在するのだ。

 多くの国では王政をとっており、国を納める頂点に王を置き、その下に大臣や官吏として仕事をする貴族が存在する。貴族には武官家と文官家とあり、それぞれ領地を統治している。貴族には位があり、それに伴って領地の広さや任される場所。待遇に差が出てくる。何より、気位の高い傾向にある彼らにとって、名声とは蜜よりも甘いものである。

 貴族の下には様々な役職のものがおり、貴族は彼らに相応の賃金を払う。それは身の回りの世話であったり、護衛であったり、憲兵であったり、はたまた裏の仕事まで。奴隷という役職も存在する。奴隷には簡単だが、膨れる食事と安いビール、たまに出る質の悪い赤ワインが報酬だ。


 この世界の平和とは薄氷の上を歩くものだ。ほんの些細な切っ掛けでそれは崩れる。偶々歩いていた隣国の若い農民を拐ってしまった奴隷商人がいたとする。その奴隷商人が所属している国では誘拐は犯罪だが、隣国にとっては大きな問題だ。農民は社会的地位は低い。大した知識はなく、畑を耕すだけの存在。しかし、国にとっては大事な財産であり、その技術は簡単に漏洩させてはいけないものだったりする。こうしたとき、大抵は奴隷商人の首を差し出し解決に持っていこうとするが、時にはこれ幸いと侵略戦争を仕掛けることもある。戦争には理由が必要だ。小国も様々あるこの世界では、戦争は絶えない。


 諸君らの住んでいる世界では、科学と言うものが席巻している。これより語られる世界においても、科学を学び研究する者達がいる。しかし、多くの人々は彼らを奇人変人と呼び蔑む。何故ならば、魔術と呼ばれる圧倒的便利な存在があるのだから。世界に産声を響かせるその時より、魔術に必要な機関を働かせている人々にとって、科学とは目的の現象を引き出すために、魔術に対して何倍もの時間と労力、金を必要とする。簡単に言えば、コストパフォーマンスが非常に悪く感じるのだ。

 以上の理由から、これより語られる世界において科学は発展しなかった。諸君らの世界に比べ、何十倍も遅れた状態で停滞している。しかし、学ぶことを生きる糧とする研究者達は、諦めなかった。偉大なる研究者の一人が、魔術と科学の融合を図り、成功を修めた。偉大なる研究者は、その技術を『錬金術』と名付け、多くの弟子達に広めた。現在において、『科学』は軽蔑の対象ではあるが、『錬金術』は一定の地位を保っている。『錬金術』の恩恵は広い。様々な異常に対して一定の効果を表す治療薬に始まり、時や距離、重さを一瞬にして測る道具等々、現場も人も選ばず親しまれている。

 まるで諸君らの世界とは逆だろう?かつて『錬金術』と呼ばれ異端のものであるとされてきた技術が、認められ始め、研究が進むにつれ『科学』と名を変え、人間の進化に一役買っている。


 『魔術』『錬金術』は身近になく、馴染み無いものだろう。『奴隷』や『戦争』についても、平和な場所で暮らしていれば、まず目にすることの無いものだろう。近いものはあるかも知れないが。そして、決定的な物を挙げるならば、『魔物』や『魔獣』と呼ばれる存在。

 時には人類の敵であり、時には人類の糧となる。諸君らで言えば、野生の肉食獣、草食動物、農耕用の馬や牛、食肉用に飼育したり、ペットにしたりする動物と扱いは変わらない。狩りをして食材を得たり、害となるなら間引きしたり等。違いは世界の性質くらいなものだ。人と獣の立ち位置は変わらない。


 これから語られる、紡がれる世界について少しは解ってもらえただろうか。最近の人間は、こう言ったものに明るいと聞く。ならば心配は不要であろう。導入は終わりを迎える。私がこうして、こう在るのは、ここが最初であり最後だ。頁を進めた先に在るのは私ではなく、世界そのもの。行く末は常に変動する。何者にも妨げることの出来ないレールの上を、人々は必死にトロッコを走らせる。時には一人で、時には二人で。降りてトロッコを担ぎ、別のレールに乗せても良い。全てはその者の選択によって変わるものである。トロッコは止まらない。

 私は人に漕ぎ方を教えた。しかし、止め方は教えない。必ずどのトロッコも走り続ける。故に、レールを変えることは困難なのである。

 歩くには暗すぎる地平線。疲れたのならば、それもまた選択だ。

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