13. 急増
わたしもそこで立ち止まると、小声で尋ねた。
「増えたって、どういうことなの?」
「『天使の会』の活動、マスコミでの大々的な報道の後で、明らかに翼人症候群の患者の数が増えたんだよ。それも飛躍的に。
原因は、未だによく分かっていない。そもそもこの病気自体の要因も、明確にはなっていないんだけど。
そこいら中の学校から、一斉に翼人症候群の患者が現れだしたんだ。そしてその誰もが、確かな症状を持った、本物の患者だった。
誰もが激しく苦しみ、場合によっては、以前からの患者よりも深刻な症状を持つ子だっていたらしい。
ここら辺からこの病気を、単純に遺伝性のものとしていた古い議論に疑問が上がりだしたそうなんだけど……まあ、それはいいか。
『会』も施設も、これには慌てた。欧米での研究による人口あたりの発生件数とは、露骨に掛け離れた数の子供たちが、突発的に背中に翼を生やし始めたんだから。
知っての通り、この病気は手術にも治療にもそれなりに金と時間がかかる。
たちまち、『会』が作り上げた手厚い患者保護の仕組みはパンクし出した。
でもだからといって、これまでやって来たことをいきなり否定するわけにはいかない。
なんとかこれまでと同じように運営していこうとして、『会』の組織はますます肥大化していった。
大体、初期メンバーの一部はまだ患者でもあるわけだから。手厚くなった保護を、今さらなかったことになんか出来るわけがない。
患者のための施設はさらに各地に作られ、寄付金もそれまでの額では足りなくなって、財界にも援助を求め出す。
初めのうちは、世間もそういう要求に応じていたけれど、次第に飽き始めた。その頃にはもう、ブームは去っていたんだ。
写真集は売れなくなり、雑誌や新聞も特集を組まなくなっていった。
そりゃそうだよな。話題としては、それほどポテンシャルの高いものじゃないから。
一通りの扱いが終わったら、もう話のネタにはならない。
こうして熱が冷めるにつれて、『会』は活動に余裕がなくなり、いっそう貧しくなっていく。
患者の中でも金持ちとそうでない人との間で、格差が広がり出す。これは、今でもそうだけど……。
各地に作られた施設は次々に破綻を来していった。
手術のスケジュールは延期、延期を重ね、そして延期すればするほど翼が育っていくから、余計に状況は悪化する。
患者たちの姿を美しく保っておく余裕なんか、もうとっくに失われていた。
そんな理由もあって、今さら施設以外の場所へ患者を移すことなんて出来ない。
狭い施設の中に翼を縮めて押し込められた患者たちは、以前よりもずっと居場所を奪われて、悲惨な扱いを受け、どうすることも出来なくなっていった」
「それで、最後にはどうなったの?」
「死んだ」
「え?」
わたしは思わず聞き返した。
ユウくんは、この上なく無表情に佇んでいる。