12. 美しい患者たち
「活動を続けていくうち、『プロモーター』みたいなヤツらが、どこからともなく湧いて現れたんだよ。
何ていうか、ビジネスマンめいた、偉そうな連中。
仕事と金儲けのためならどれだけ他人を傷つけても構わない、むしろそれこそが立派だと思いこんでるような、下らないヤツら。
保護者たちは、そいつらに唆された。『プロモーター』は、患者である子供たちを広告塔に仕立て上げようとしたんだ。
『今以上に子どもたちの立場をよくするためには、幅広い層へ向けて宣伝活動に打って出なければといけませんよ』とか何とか、調子のいいことをいい加減に言って。
そして、患者の中でも特に見た目のいい子を選りすぐって、身形を整え、翼を美しく繕って、マスコミの前に立たせた。
つまりそれによって彼らは、翼人症候群の患者は『美しいのだ』、とラベルを貼り替えようとした」
「それは、前に本で読んだ気がする。患者にとってはそれが、すごくストレスになるって」
「ストレスだけならよかったんだけど。
とにかく、そうして『天使の会』は患者を人前に立たせて、より病気のイメージを善くしようとした。
いくつかの週刊誌は、グラビアで特集を組んだりもした。当時は大変な騒がれようだったらしい。
患者の中には、アイドルのように持ち上げられた女の子もいた。その写真の中の子たちは、どう見てもまさしく天使そのものだったからだ。
著名なカメラマンを担ぎ上げ、写真集まで発売された。それはやっぱり盛大に売れた。
患者を題材にして、アイドルが主演した映画も作られた。下らない作品だったけど、これもまたヒットした。
結果として、『天使の会』には莫大な額の寄付金が集まった」
わたしは想像する。思春期独特のどこを見つめるでもない眼差しをカメラに向けて、静かに佇む翼を生やした女の子の姿。奇跡のような一枚。
誰もが思わず、心を揺さぶられる。
「まあその結果、いっそう差別的な眼がなくなったのも事実なんだ。
保護政策も振興されて、ますます患者にとっては暮らしやすい世の中になった。
一人一人の患者が、それまでとは比較にならないほど手厚い処置を受けられるようになった。
代償として、いつどこへ行っても汚れのない、純真な存在として生きなければならなくなったけど」
ユウくんは独特の皮肉っぽい調子で話す。
わたしたちは、手術棟の薄暗い三階にたどり着いた。廊下の突き当たりには、弟のいる手術室があった。
「でも、問題はそれだけじゃなかった。それが……患者の急増だった」
ユウくんはそう言うと、手術室からかなり離れたところで、脚を止めた。
向こうの方には、父さんと母さんの姿が小さく見えた。
「手術中」のランプが光る扉の前で、気を揉みながら待っている様子だった。