放課後密会
時間はいくらか遡りまして、夕方。
場所は……オカ研の部室。
架谷達、一年A組の四人が退室してからのこと。さっきまでの賑やかな雰囲気とは違い、学生の茶会ではなく、秘密結社の会議を思わせるようなやや重苦しい雰囲気に。
「僕が言いたいことについては概ねお察しはついているかと思いますが」
「……そうね」
音羽一心の視線の向く先は、この同好会の部長である夢咲文乃、それから彼女の隣に座るセシリアである。
「今日の集まり。元々はこの五人だけのものでしたが、あなたの突然の思いつきもあって架谷君達もお招きすることになった」
「そうね」
「もちろん彼女も細心の注意は払っているかと思いますが、仮にでも口が滑って、正体がバレたらどうするおつもりだったんですか」
この場にいる五人。夢咲、音羽、時雨、豊田の四人は悪魔であり、そしてセシリアは吸血鬼である。無論皆、人間では無いのだ。
架谷の近くにいる凛、黒羽もまた人間とは違う存在である。今は人間の振りをして、正体を隠してこの世界に生きているのだ。
この学園内において、人間の立場で唯一それを知る架谷自身も、他者にその事実を告げることは一切なく、隠し通しているのだ。
夢咲はテーブルに置かれた紅茶を一口含んでから、音羽の質問に答える。
「言われた時は、いい言い訳が思いつかなくて。下手に理由を考えても、あの子たちに疑いを持たせてしまうから」
「言い分は分からなくもないですけども」
「それに今はこうしてその時間が作れているんだからいいんじゃない?」
「結果論のようなもんですよそれは」
ここで。紅茶を飲みながら話を聞いていたセシリアがようやく口を開いた。
「一緒にいたからかと思ったけど、この場に来ていたあの子たちが皆そうって訳じゃないの?」
セシリアの質問に、豊田と時雨が答える。
「そうでも無い。あの中で俺らの正体知っているのは狐村凛という金髪の少女。彼女は九尾という霊獣。そして架谷祐真の二人だけだ。あと彼は人間だ」
「それから今日この場には居なかったのだけど、黒羽京子という女子生徒もそうね。彼女は烏天狗よ。まぁ近いうちに会うことになると思うわ」
「そうだったんだ。じゃあ残りは人間ってことでいいの」
「そうなる。そして彼らは俺たちの正体については何一つ知らない。さっき言った三人も、その事については伏せてもらっている」
「ふーん。だいだいわかった」
セシリアは紅茶をもう一口飲んでから、さらに質問を投げかける。
「それで。他に言いたいことがあるからわざわざボクを呼んだんじゃないの、アミュウ」
「そういう所は鋭いのねセシリアは」
「まだ、なんかあったのか」
「まぁまぁ落ち着いて」
夢咲はその一言で部員達を落ち着かせると、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干す。
「そうねぇ……」
「……」
左手で頬杖をついてから、皆の方を見て言うのだ。
「特にないけど」
「「……え」」
「えぇ……」
そしてこのあっさりとした一言である。
そんな答えが帰ってくるなど誰が想像できようか。
これだけ意味深な発言をしておいて。如何にも何か重要なこと言いそうな空気まで作っておいて。長い静寂という前置きまでしておいての。
この一言である。
「本題はセシリアにー、私の友人たちについて知って欲しかったこととー、正体バレないように気をつけてねーってことだけ」
「……」
皆、開いた口が塞がらない。
「話したいことは話したし、堅苦しい会議もここまでよーってことにしまして」
ガタッと勢いよく立ち上がって言う。
「せっかく同類同士で集まったんだからさー。ここからは時間の許す限り、ありのままを語らいましょうよー。あ、紅茶のお代わりちょうだーい」
「さっきまでの緊張感を返してくださいよ……」
「全くだ」
「なっはっはー……」
苦笑いをしながらも、音羽は電気ケトルのスイッチを入れた。そして夢咲から空になったティーカップを受け取ると、新しい茶葉の用意をしていた。
「ご要望あります?」
「そうねー。今日のがすごく美味しかったから、同じものをいただけると嬉しいわ」
「分かりました」
そんな様子か、このやり取りを見かねてか。ずっと呆気に取られていたセシリアだったけど、ようやく口を開く。
「アミュウの仲間達って、面白い子達ばっかりなんだね」
「そうでしょー。おかげで楽しくやってるよー」
「俺らはなんだかんだ、振り回されてるけどな」
「それでも楽しませてもらってるかな」
「そっかそっかー。ボクはアミュウ達とは種族が違うけど、君たちとも楽しくやって行けそうだよー」
笑っているセシリアに、豊田から質問が飛ぶ。
「そう言えばセシリアさんは夢咲のこと、昔から知ってるんだよな」
「そうだねー。十何年も前から知ってるよー」
「え」
足をパタパタ動かしながら紅茶ができるのを待っていた夢咲だったけど、何かを察したのかその足がピタリの止まった。
「せっかくだから、その辺の話についても聞かせてもらいたいものだな」
「あ。私も聞きたい」
「え。あ、ちょっと。ストップ、セシリア! ストップストォーップ!」
「紅茶のお代わりを……ってどうしたの」
その後はまた賑やかに。紅茶が冷め、下校を促す校内放送が流れるまで、この雑談は繰り広げられるのだった。




