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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
橋本桐華は興味を抱く
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愛される存在

 生徒玄関で上履きに履き替え、廊下を二人で並んで歩いていた。凛は相変わらず上機嫌なんだが、対して俺はそうではなくしかめっ面。


 それもそうだ。歩いているだけで、周りの視線が俺たち二人の方に集まってくるからだ。ある者は羨み、またある者は妬み、そして異形ともなれば、変な野次を飛ばしてくる。なんなんだもう。



 教室に入っても、視線は無くなるどころか増えている気もする。この時の教室は駆け込み寺や110番の家ではなく入ったが最後、人間に為すがままとされるザリガニ用トラップのようなものだ。

 そういえば小さい頃なんかは、用水の辺りにザリガニの殻がちょくちょく転がっていたか。



 そんな現実逃避にもならない思い出を回想しつつも、入口から近い自分の座席に向かう。




「おはよう架谷くん」


 リュックを机の上に置いて、向こうにいる拓弥の方に行こうとした時、後ろの座席にいる女子から声をかけられた。



 橋本桐華。彼女について一言で言うならこのクラスの頂点に立つもの。いや、性格を考えれば全てを抱擁する女神。というようなものだ。大袈裟にも思うが、そう言わせるだけのものを彼女は持っている。


 明るく爽やか。優れた容姿。誰とでも分け隔てなく接する優しさ。圧倒的なコミュニケーション能力。

 もし俺なんかではなく、文芸部男子か生粋のアニオタ男子が彼女の魅力についてを語るのであれば、それだけで原稿用紙が一枚埋まるのではないかと言うほど。



 入学して一週間。既にこのクラス内に留まることなく同学年、しいては上級生にも人気を博しており、既にファンクラブまで作られているという噂もある。もし本当にあるとすれば、入団希望者はかなりのものであろう。



 まぁそれはさておいて。そんな橋本にお声をかけられたはいいけど、別段話せることも無い。趣味とかわかんねぇし。


 こういう時は時事ネタとか天気の話題を振るのが会話術だとかテレビで見たことはあるけど、それは社会に出てのことで、高校生の会話としては少々ベクトルが違う気もするんだ。



「おはよう」


 なので無難に。一言だけ挨拶を返した。これ以上、特に話すことは何も無い。

 今度こそと思いその場を離れようとしたが、挨拶の一言だけで終わらないのが彼女だ。



「今日は凛ちゃんと学校来たの?」

「そんなとこだ。噂が垂れ流しされたせいで落ち着かなかったがな。そして今もそうだ」

「大変なんだね」

「お陰様でな」


 ため息混じりに愛想笑いしながら、今の心境も語る。


 こうして会話のきっかけを作り出し、基本は話し手の側であるが時折聞き手にも回りながら会話が進んでいく。女子との会話に慣れない俺としてもありがたいものだ。


「注目されるのは好きじゃない?」

「少なくとも俺は嫌いだ」


 それを言ってそそくさと立ち去る。



 俺の背中を見ていた彼女は、その後また声をかけることはなく、近くにいる女子グループの会話に混ざっていた。


 凛ともそうだが、彼女と話す分にも視線が集まる。会話くらい普通にさせてはくれないか。

 女子と話すのが嫌なのではない。こうして注目を浴びるのが嫌いなんだ。




「よーっす勝ち組」

「勝ち組って……そんなんでもないだろ」


 とうとう頼みの友人にまでこう言われる始末だ。勘弁してくれ。



「何を言うよ。あの可愛い狐村とそこまでお近付きになっていたとは驚かされたわ。余裕ってやつか?」

「俺が今思うのは余裕じゃなくてもどかしさだがな」



 拓弥の座席に来て、二人で適当にだべっていた。虎太郎はまだ来ていない。てかあいつの近くに来てようやく思い出したことがあった。



「やっべぇ!? なぁ拓弥。昨日言ってた件完璧に忘れてた!すまねぇ!」


 顔の前で両手を合わせて謝る。でも拓弥は大して気にしていない様子で。


「んな事いいって! 忘れてないなら問題ないっての。あでも返却は早めに頼むわ」

「心が広くて助かるよ」



 そういえば。借りてたブルーレイを返すと言っておいて、また持ってくるの忘れてた。朝からなんか引っかかることがあるとは思っていたが、この事だったとは。


 拓弥のような、心の広い友人がいることを感謝したい。なんだかんだ言ってこいつは面白いやつだから、凛とも打ち解けられるであろう。



 そう思っていると、教室に上機嫌な虎太郎が入ってきて、エナメルバックを机の右横に置くと、一目散に俺たちの元へ。



「よぉー虎太郎! どうしたどうした?」

「なんか嬉しそうだな虎太郎。なんかいい事あったか?」

「聞いてくれるか?! いや聞いてくれ架谷!」


 あやべぇ。変なスイッチ入っちゃったよ。あいつあぁなると、ノンストップに話進めるからなー。



「昨日駅で電車待っている時な。俺はずっとリセマラを続けていたんだ」

「てかまだやってたのかよ」


 虎太郎はずっとアフロディーテを追い求めていたというのか。その執念は大したものだと思うよ。



「その時ちょうど電車待ちの橋本と話が出来たんだ!しかも橋本もディバイン・アルケミストやってるって言うからさ、その話題で盛り上がってたんだ!」



 虎太郎の言うディバイン・アルケミストは、俺たち三人がやっているスマホゲーのことだ。


 半年ほど前から配信が開始され、鮮明なグラフィックに大ボリュームのシナリオ。豪華声優陣。タップだけで出来るシンプルなものにもかかわらず、幅広い戦略性もあって飽きが来ない。瞬く間にブームとなり、世界二千万ダウンロードも近い大人気アプリだ。


 大抵のゲームアプリというのは男性の割合が多いものだが、このゲームのユーザーは女性もそれなりに多い。


 故にクラス内でもやっている人は多い。俺が知ってるだけでも十二人くらいはいる。クラスメイトだけでそこそこ大きなギルドが作成できる。



「そんときにさ。『一回でいいんで十一連回して貰えませんか!!』って頼んだんだよ。そしたらようやく俺の元に降臨してくれたんだよアフロディーテが!!」

「良かったじゃねぇか」

「てか二日もリセマラって、どんだけ運がないんだお前は」

「物欲センサーが過剰に反応したんだろ」


 物欲センサー。妖怪一足りない。そっちじゃねぇんだよ。ソシャゲの何よりの敵である。



「いいやこれも橋本のおかげだ! 女神様ー!」

「他の人にガチャ引いてもらったら当たりやすいとかある話だけど、そういうもんでもないだろ」



 そのまま今日の朝の話題はディバイン・アルケミスト一色になった。




 放課後になり、今日は虎太郎に連れられて軽音部の見学に行くことになった。


 どうにも中学のとき、モテたいから。という理由でドラムをかじっていたと言う。しかしそんな半端な理由だったからなのか、相性が悪かったのか。思うように上達せず、すぐにやめてしまったと言う。


 ならなんで今になってと聞いてみたら。これまたモテたいからだと言う。高校生になって、リベンジをとでも言いたいのだろうか。まぁ応援くらいはしてやろうか。俺は誘われてもバンドはやらないと思うから。

 そもそも楽器経験が皆無だし。ボーカルをやるつもりもないから。


 一時間ほど虎太郎に付き合ってから解散。その後は特にやることもないため、そのまま家に帰ることにした。



 凛は何かやることがあると言って先に帰って行った。もう家までの道順は覚えただろうし、迷子になる心配をする必要は無いか。むしろ九尾のことだから、もし道が分からなくなっても俺の気配でも探って帰ってきそうだ。


 とかそんなことを考えながら、リュックを開けてイヤホンを取り出そうとする。



「……あ」


 とここで異変に気がつく。数学のノートが入っていない。見学中にカバンからなにかしら取り出した覚えはないので、おそらく教室の机の中に忘れてきたか。階段を登るのは癪だが、必要なものだ。取りに行くとしようか。




 4階まで上って急ぎ教室へ。とその途中で事故発生。


「お゛わぁ?!」

「ひゃあ!?」



 曲がり角で誰かさんと衝突。大量の紙が散乱し、辺りの床に敷き詰められる。


「わ、悪ぃ!! 怪我してないか!」

「わ、私は大丈夫……」



 床に広がった紙を拾おうとして、ぶつかってしまった生徒と目が合った。


「って架谷くん!」

「は、橋本……」

架谷祐真は安らぎを求める。

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