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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
夜に現る騒がせ者
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ポーカーフェイスは難しい

 ホームに行って谷内と合流。その後来た電車に乗って、今回行く温泉の最寄り駅まで向かうことに。

 途中の駅にて拓弥、虎太郎、橋本の三人も合流。


「ありがとね奥村くん。こんなお誘いしてもらって」

「いいってことですよ。礼を言いたいのはこっちの方ですから」

「そうですそうです」


 おいおい虎太郎。あんたは俺らと同じ誘われた側だろう。


「おい。喋るなとは言わないけどもうちょい音量落とせ。他にも人いるんだから」

「あれ? そんなにだった?」

「あぁ」


 いい歳してんだから、弁えくらい覚えて欲しいもんだ。高校から出来た友人、騒がしい人が多いようにも思う。



「トランプやらない?」

「やる」

「うん」


 しばらくした所で、向こうの方では女子がババ抜きを始めようとしていた。黒羽は最初、読書がしたいからと断っていたんだが、橋本と凛による強いお願いもあってか折れた。


「架谷くんもやる?」

「俺はいいや」


 俺も最初は断ったんだけど。


「つまらんこと言うなよ架谷」

「そーだぜ祐真。こんな機会滅多にないんだからよ」

「そーだよー。架谷くん、最近ちょっとドライじゃない?」


 隣に座ってる橋本、向かいに座ってる拓弥と虎太郎にそう言われたもんだから付き合ってやることに。

 煽られたからとかじゃない。断り続けてもキリがないんだろうなって思ったから。



 でもってババ抜きに興じていたわけなんだが……


「……」

「……ぷふふ」

「ふっ」


 先に上がって最後の一騎打ちを見てるだけでもなんか面白い。

 橋本と堂口が残ったわけだが、やり取りがなんとも面白い。


 座ってる位置から橋本の手札は見えている。ババであるジョーカーとスペードのエース。札を掴む堂口の手が右に左に動く度に、橋本の表情が変わっている。


「負けたぁ……」

「桐華がビリだな。てか顔でバレバレなんだよ」

「桐華さん……表情が二十面相みたいに変わってましたから」

「えぇ……」


 本人は気がついてなかったようだが、はっきりと表情に現れてるから誰がやってもどっちがババかひと目でわかる。


「必勝法ってないの?!」

「必勝法って言われてもなぁ……そういうもんがある訳でもないしなー」

「二人零和有限確定完全情報ゲームって訳ではないのですから……」


 そう黒羽が言ったところで、凛以外の六人、一斉に固まる。聞いたこともない難しい言葉がいきなり出てきたんだから、そらそうなるよ。


「ににん、れいわ……なんだそれ」

「言葉通りです。二人で行い、利害が完全に対立し、有限の手数で勝敗が決し、運要素がなく、全ての情報が各プレイヤーに開示されている。ということです」

「こちらでしたら、将棋や囲碁、オセロなんかですね」

「成程……。全然わからん」


 大丈夫だ虎太郎。俺もよくわからん。なんとなくのニュアンスくらいならって感じだから。



 ともかく小難しい話は流しておくことにしまして。ということで二回目。次に残ったのは黒羽と凛の二人。


「こっち……?」

「……」

「それじゃあ、これかな……?」

「……」

「ていっ! あ。ババ……」


 黒羽の表情は何一つ変わらない。微動だにしない。お面でもつけて顔隠してるじゃないかってくらいに表情が変わらない。


「……」「……」


 そして攻守が入れ替わっても状況はほとんど同じ。凛の表情が崩れることもない。


「必勝法なんて言わないが、重要なのはあぁいうポーカーフェイスだ。あの無表情ぶりを学ぶべきだ」

「成程……」

「あれなら手の内がバレない」

「にしても見事なまでな……」

「てか逆に面白いな」


 面白がっていたら、黒羽もとうとう限界が来たか。


「……貴女方。変な目で私と凛さんを見ないで頂けますか」

「恥ずかしいです……」

「でも二人を見たら何となくわかった! というわけで三回目行こう!」

「……この人、私の話聞いていませんよね?」

「いつもの事だ。諦めろ」



 橋本の気合十分なところで三回戦突入。

 六番目に谷内が上がり、そして最後に残ったのは気合十分な橋本と俺であった。

 俺の今の手札は二枚なので、先攻は橋本だ。


「それじゃあいくよー」

「はいよ」


 まずは俺から見て左の札に手をかける。俺の顔を見て少し悩んでから手を離した。

 今度は右の札を。自販機の下に滑り込んだ小銭でも探してるかのような目で見てくる。怖い怖い。

 けっきょくその後二十秒は悩んで、最初に掴んだ左の札を取った。……しかし残念。


「なあ゛ぁぁぁ……」


 そっちがジョーカーだ。俺の手元には当たりのハートのクイーンが残った。


「それじゃあ……次は架谷くんね」

「へいへい」


 さてと攻守交替。今度は俺が橋本の札を引く番だ。


 まずは右に。口元は動いていない。目の色も変わらず。

 少し手を止めてから左に。少し口元が緩んでいる?

 右行くふりしてまた左に。そしたら少しずつだが橋本の表情が綻び始めた。おい、どうしたポーカーフェイスは。


「……」


 右に。……確信がついた。左がジョーカーだ。右行ったら表情が萎れだしたし。目の輝きが無くなってきてるし。


 でも待て。もしかしたら橋本の演技なんじゃないかと、少し疑いが出始めた。


「……」


 でもそんな考えもすぐに無くなった。今の彼女にそこまでの演技ができるような技量はないだろうし。裏を返しすぎると面倒だ。ここは素直に、シンプルな考えで行こう。右だ。


「……」


 引けない。俺の良心とかじゃない。なんかがっちり掴んで離そうとしてくれないし。カードにシワが出来そうなくらいに掴んでるじゃないかってぐらいだよ。


「……はぁ」


 これ以上意地張るのも、張られるのも面倒だ。

 諦めて左の札を引いた。


「よし!」

「……ふぅ」


 考えの通り。左がジョーカーだった。一息はいてから背中に手を回して手札をシャッフルし、橋本の前に。

 そしてその後、橋本にスパッと当たりを引かれて終了。三回戦のビリは俺となった。



 そして決着ついたところで、俺らが降りる駅のアナウンスが流れ始めた。


「おっ。そろそろか。早いもんだな」

「あっという間でしたね」

「おいおい。旅行はこれからだろー」


 駅について電車から降りようとしたところで、虎太郎に小声でこう言われた。


「さっき負けたのわざとか?」

「……さぁな」


 その真意を知るのは、もちろん俺だけだ。

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