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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
橋本桐華は興味を抱く
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悪くない朝のこと

 もう五日も経ってみると、この光景に違和感を覚えなくなってしまった。



 七時よりも十分ほど前にセットした目覚まし時計のアラームで目が覚めると、けだるさを感じながらもベットから降りて、すぐに制服に着替える。軽くストレッチしてから階段を下りて、一階にあるリビングに向かう。ここまでは何ら変わりはないんだが、ここからが変化している。


 テーブルの周りには椅子が四つ置かれていて、向かい合わせにして二つずつ置かれている。母さんが台所で朝食の用意をしていて、その手伝いをしている彼女の姿があった。



「おはようございます! 祐真さん」

「あぁ……おはよう」



 彼女の名は狐村凜。様々な諸事情あって、今は俺の家に住み込んでいる。凜のことについて、周りからは進学の為に田舎のほうから出てきた遠くの親戚。という認識となっているが、もちろんそれは混乱を招かないための建前であり、真実ではない。


 彼女は人間ではない。その正体は九尾という妖怪なのだ。それが知れてみろ。騒ぎどころでは済まないだろう。

 静かに暮らすためにも、この事実は隠し通さなければならないのだ。




 味噌汁をすすりながら、今日この後のことについてを考える。できることならしばらくは学校に行きたくはない。しかしそういう訳にも行かないのがまた現実。


 俺と凛が同じ屋根の下に暮らしているという話を聞けば、大半の男子は黙っていないと思う。色々訳あってと説明しても、聞く耳すら持たないやつも居そうなもんで、嫌なのだ。





「どうかしましたか?なんかそわそわしているみたいで」

「なんかすまんな。落ち着かなくてな」

「落ち着かない……ですか」



 朝食を食べ終わり、軽い支度をしてから家を出る。すぐに那菜は俺たちとは反対の方に歩いていったので、二人きりとなった。


 結局。どう足掻こうが学校に行く他ない。案外着いてしまえばなんともないというのが学校というものだが、今の俺にとっては逆なのだ。着いた後の方が不安要素満載というわけだ。



 大方の理由はそっちだが、もうひとつあるわけで。


「こうして女子と学校に行くってことが今までなかったからな」

「でも那菜さんは妹さんですよね?一緒に学校に行くというのはなかったのですか?」

「まぁ小学校とか中学校の時は一緒に行ってはいたが、今は中学と高校の方向が違うからな。それに那奈は妹だから……その、なんだ。長い付き合いがある分慣れっていうのがあるが、凜とはまだ出会って日が浅いからな。そういう意味で、身内以外のってなるとな」

「まぁ……そうですよね」



 女の子と学校に行くのが。では無い。身内以外の女子とこうして登下校をする。というのが、俺のこれまでの経験上なかったのだ。妹以外の女子と帰ることなんて、小学校の集団下校の時くらいだろう。




「なら私、頑張ります!」


 そう言うと凛は俺の左腕と脇腹のあいだに自分の右腕を通し、がっちりとロック。くっついたまま歩くことになる。



「あの……凛さん?」

「な。なんですか」

「その……そこまでしてくれとは、言ってないから」

「あぁ?! すすすすみません! 仲の良い男女はこうするものだと聞いたので! ご迷惑でしたか?!」



 いえ全然。ちょっとばかしか驚いたけど、すごくいいものでした。と、心の中で親指をたてていました。


 でもそういうのは、互いの好感度が相当高くなってからのことだと思います。嬉しいと言いつつもこんなこと言っちゃうのもなんだが、まだ早いと思う。


 凛は顔を赤くしてすぐさま俺の体から離れる。腕に感じた柔らかい感触がなくなってしまったのは、少々……いやすごく悲しい。



「嫌とは言わないけどさ、安易にこういうことするもんじゃないと思うんだわ」

「そ、そうですか……距離感って難しいものですね」

「距離感ってかなんて言うか……今の時間、人の目もあるからさ……」



 今の時間帯。この辺りには学校や会社も多いので、人の通りは多い。こうしてイチャイチャ(?)しながら歩いていると、自ずと人の視線が集まってしまう。それがなんとも恥ずかしい。


 まぁそれもあるが、それ以上に。



「俺らってその……なんだ。恋人とかみたいな特別な間柄でもないんだし」

「いえ! 私にとってはそういうものですよ!」


 いやいや。ほんとにどうしたんですか凛さん?! なんかすごい積極的ですね今日は?!



「流石に恋人というのは恐れ多いです。でもあの日、あのような形で祐真さんに出会った時は驚きました。でもあの後、出雲様の無理な頼み事を引き受けてくださって、感謝しています」

「そりゃあどうも」


 頼まれたって言うよりは……ある意味押し付けられた……って、俺からしたらそう言った方がいい気もするが、凛のことを尊重して言わないでおこう。



「あの後、色々お世話になりました。祐真さんの母上様と妹さん。そして祐真さんにも。これから色々迷惑をおかけするかと思いますが、改めてよろしくお願いします」

「あぁ。よろしく、お願いします……」



 急にこう言われるとなんだか困るな。でも言われて悪いもんではないな。嬉しい。



「突然のことだったけど、迷惑なんて思ってないよ。こっちは色々と手助けしてもらってるから。母さんも喜んでたよ。新しい娘が出来たみたいだって」


「何でも言ってください! できる限りお手伝いしますから!」

「そりゃあ頼もしい」



 しばらく歩き、信号待ちに。待っている間に今度はこんなことを聞かれた。



「あの……ひとついいでしょうか?」

「ん? どした」

「祐真さんのお父上はいらっしゃらないのですか…?まだお会いしていないので……」


「あぁーそれなんだけど、アメリカの方にいるからしばらくは会えないと思う」

「あめりか……ってなんですか?」



 あぁそうか。聞き馴染み無いか凛には。ちょうど信号が青に変わったので、歩きながら説明した。


「えっと、アメリカってのは日本とは違う……もっと遠いところにある国の名前でな。俺の父さんはそこで働いているんだ」



 父さんは、五年ほど前からニューヨークの方に単身赴任している。なので年末年始を除けば、会えるのはどうしても不定期になってしまう。


 今凛が使っている部屋も、元々は父さんの部屋。赴任する際に「俺の部屋は好きに使ってくれても構わない」とは言っていたけど、まさかこんな形で有効活用されることになっているとは、父さんも思うまい。


 というかこのことを母さんは、凛が居候しているということをどう説明したんだろうか。昨日電話したとは言っていたけど。



「それじゃあ祐真さんのお父さんは外国の人なんですか?」

「違う違う。俺と同じ日本人だよ。あくまで仕事の為にそっちにいるってだけ」

「そうなんですか。でもなかなか会えないというのは、寂しいものでは無いですか?」

「最初はそうだったかな。でも気がついたらそれが当たり前になっていたから、自然と寂しいなんてことは感じなくなったな」


「……」



 凛はそれを聞くと黙り込んでしまった。言い方が不味かったかな。


「で、でも会いたくないだなんては思ってないからな。小さい頃なんかはよく遊んでたし、電話でたまにだけど話もするんだ」

「そうですよね。やっぱりそうですよね!」


 また笑ってくれた。こっちの顔の方が、凛には似合っている。



「時間があったら、今度は凛の家族について聞かせてくれよ」

「はい! 分かりました!」



 やっぱり。笑っている時の凛は可愛らしい。それ以外の感想なんてない。




「というか思ったんだけどさ……」

「なんでしょうか?」

「なんというか……数日でえらい振る舞いが変わったなぁって思ってさ。出会った当初なんて凄いオドオドしてたってのに、数日で人が変わったみたいに明るくなってるからさ……」


「それは……皆さんのおかげでもあります。最初はもちろん慣れない場所でもあったので不安でしたよ。でもこうして色んな人と知り合えて、仲良くなれたんです。だからこそです!」

「そっか」



 なんだかんだと話しながら歩いていたら、あっという間に校門の近くに、当然学園の生徒がチラホラ見られるようになり、同時に視線も集まってくる。

 何とか気を紛らわそうと、凛と会話することに。思い立ったことがあったので聞いてみた。



「ところでさ、もし俺と出会わなかった場合って、こっち来た後はどうするつもりだったんだ?」

「そーですねー。適当に山の中で隠居しながら過ごすつもりでした」

「隠居って……」

「大丈夫です!里育ちですから」

「いやそこじゃなくてな……」




 随分と狐もワイルドなものになったと思いながら、朝の校門を通り抜けるのであった。

そっちの知識は充分。

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