水着談義
「おーい。こっちだこっちー!」
終点のバス停で降りて少し歩いていくと、入口の方で堂口が手を振っているのが見えた。すぐ近くには黒羽がいるのも確認できる。
「やっほー明莉ちゃん」
「おぉ桐華。それに夢咲さんも」
「どうもぉー」
「あぁ……京子ちゃん、大丈夫?」
なんだけど二人の表情が明らかに違う。堂口は元気凛々なんだが、黒羽は既に少々やつれてる。
「……どうした黒羽」
「今日のこの天気の上に……堂口さんのマシンガントークに十分程付き合わされまして」
「お疲れ様……」
まぁ。堂口の話に十分も付き合えたならいいほうだと思うよ俺は。
堂口だったらもう三十分は余裕でしょうし。てか彼女が周りの女子に比べて体力あるだけだし。聞けば陸上部では長距離選手だそうで。
「なっはっはー! まだまだ鍛え方が足りないかー!」
「明莉がおかしいだけ」
「体力あるって言ってあげようよ神奈ちゃん……」
谷内って普段口数少ないけど、時々その分毒が練り込まれてるようにも思う。
「暑いからねー今日。最高気温三十三度はいくって」
「これからまだ暑くなるってことかよ……」
エアコンの効いてたバスから降りてみれば、今日の暑さはよく効く。まだ暑くなるって言われたら、そらいい気分にはならんよ。
「まぁでも。それだけ今日は絶好のプール日和ってことで! 楽しもうよ!」
「そうっすね! だったら早く行きましょう!」
でも今いる場所のことを考えれば、そのジメッとした気分も晴れるってものだ。
これからプールを楽しむんだから、明るくいきましょうってこと。
「じゃあ更衣室行ったら、五分後に出口集合ってことに」
「「「「はーい」」」」
「そいじゃなー」
「後でねー。祐真くーん」
水着に着替えて更衣室から出てきてみれば、そこにはもう人、人、人。ってなわけで。家族連れに同年代の若者。夏らしいっちゃ夏らしいのだ。
プールの方は水しぶきが上がり、楽しそうにはしゃぐ声があちらこちらから聞こえ、楽しげな雰囲気が伝わってくる。
「にしても遅ぇな」
「仕方ないだろ虎太郎。女の子ってのは、やること多いってもんじゃないのか」
「そうそう。奥村君の言うように、女性ってのは大変なことばかりだそうだよ」
「じれってぇなぁ」
「ですよねぇ豊田先輩」
乙女心に繊細な者とそうでない者。意見は綺麗に分かれる。
男子は楽なもんだが、女子は着替えに時間がかかる。仕方ないこととは思っている。
「おーいー!」
「お待たせー!」
「おっ。やっと来たかー」
「さてさてー」
少し遅れて、女性陣も到着。でもって先ず始まる会話となったら、互いの水着の感想になる。と言ってもほとんど女性陣の方になるが。
男性陣のを語ったところで、よっぽどのやつじゃない限りそんな話は盛り上がらないだろう。女性陣の華やかな水着の方が、会話も気分も盛り上がるというもの。
「谷内さん似合ってますよそのパレオ!」
「あ、ありがとう……奥村君」
「パレ……オ?」
その後の拓弥の説明曰く、あのロングスカートのようなヒラヒラのことをそう呼ぶそうだ。なんでそういう知識に詳しいんだか。
花柄のパレオに、ピンクの三角ビキニという踊り子を思わせるような装い。すらっとした体型をより際立たせている。
「色々悩んだけど、今年はホルターネックにしてみました!どうかなどうかな!」
「可愛いと思う」
「こういうのもいいっすね!」
「でしょでしょー!」
橋本は、水色と白の縞柄のホルターネック。決めるまで、かれこれ三十分は悩んでいたっけ。
その時間が長いのか短いのかは、男の俺にはついぞ分からんが。
「祐真君、祐真君! 私の水着どうかな! 似合ってるかな!」
「えぇ。文乃さんらしくていいと思いますよ」
「やったー褒められたー!」
文乃さんは純白の三角ビキニ。にしても布面積が他の方々に比べて狭く見えるのは俺の気の所為だと思いたい。
そして喜びそのままに飛びついてくるのはご勘弁願いたい。よくこの人目のある前で出来ますよね。って思う。
「こんな格好するのなんて久々だったけど、変なとこないかな?」
「大丈夫だよー由紀奈。おかしなとこなんて何一つないよ! 祐真君もそう思うでしょ?」
「え、えぇ。似合ってますから自信もってください」
「ありがと」
時雨さんはシンプルな黒の三角ビキニ。年上ということもあって、大人っぽさがある。
「たくよー。周りがみんなでかいと私が霞んで見える」
「気にすることないよ明莉ちゃん」
「今だけはあんたらが敵に見えてくるんだ……」
「酷い言われようだよー……」
堂口は赤いフリルの着いた水着。
そして彼女の言いたいことは、男の俺でもだいだい分かる。こうも周りが皆、胸が大きいってなれば、コンプレックスにもなるわな。
凛と黒羽については、以前付き合った買い物で買ったもの。
黒羽が黒のワンピースタイプで、凛はあれから橋本と話し合いながら決めたようで、オレンジのホルターネックに。
ワイワイとその場で話し込み、さてこれから思い切り楽しもう! ってところ、堂口は黒羽の方に視線を向けていた。
「な、なんでしょう堂口さん……」
「なんて言うかな……仲間がいて良かったよ」
「仲間?」
「そういうことか」
「みたいっすね……」
黒羽も決して貧相って訳では無いんだが、このメンバーの中だと、小さく見えてしまう。
でもな堂口。それ考えてても、悲しいだけだぞ……。




