明日から夏休み
七月の下旬にさしかかろうかというこの頃。正午前の窓から射し込む陽射しは夏を感じさせてくれる。今の時期に、窓際の席でないことは少々ありがたいものだ。
カーテンを閉めて日差しは防げても、暑いことに変わらないからな。少し離れて、なおかつエアコンの風が直接当たらない場所がちょうどいい。
明日からのことを考えながら、目の前の紙に視線を向ける。
本日は終業式。そして明日からは学生お待ちかねの夏休みの始まりである。
式を終えて教室に戻り、先生から各々に通知表が渡された。
放課後になって、それを見ながら夏休みのプランについてを考えてみる。
まだ明確な時期こそ決まっていないが、八月のどこかで父さんが帰省してくるとの連絡があった。そうなったら家族水入らずで旅行でもしようかと言う話になっている。
あとはそれ以外の日程。せっかくの長期休暇。やりたいことは大いに沢山ある。これから先のことを考えれば、ワクワクしないわけがない。
「お前……全部9以上ってやばいな!」
「別に普通だろ。やる事ちゃんとやってテストで悪い点とらなければ」
「くぅーコイツが憎い! 俺は数学ボロボロだってのに!」
「来週皆でプール行こう!」
「いいね! 誰誘う? 真子ちゃんと由乃ちゃんと……」
「ハワイ行くの! 羨ましい!」
「さっすがお嬢様は格が違うわー」
「私たちも連れてってよー」
「無理言わないのー」
成績についての話題もあれば、これから来たる夏休みのプランについてを、教室内では男女問わずワイワイと語っている。
さてと。何をどうしようか……と考えてるところに近づく人影が。
「おーい架谷ー。お前はどうだった? 成績?」
「聞かれて見せると思うか?」
俺の座席に虎太郎が近づいてきた。少し遅れて拓弥もやってくる。
「いいじゃんかよー。俺化学で4取っちゃってやばいんだよー」
「俺はなんとかセーフ。5以下はないって感じだ。それで祐真はどうよ?」
「言わねぇからな」
「いいじゃんかよ架谷ー。俺らはこうして教えたんだからさー」
「交換条件にしようとするな」
「そういうとこがケチ臭いんだよお前はー」
「何処から湧いた貴様」
男三人の会話に、何故か女子である堂口が参上。
「だよなぁ! 架谷って何かと包み隠したがるところあるし!」
「あれか! クール気取りか我!」
「言っとくが似合ってないからなー!」
「そうだそうだー」
どういう訳か最近の堂口、何かと拓弥や虎太郎と息あってるところがある。
あんた前に彼氏欲しいとか言ってたけど、もうどっちかとつるめばいいだろ。二人共、拒みやしないと思うから。
「……うっせぇな、わかった。別段面白いもんでもないからな」
あまりにしつこいもんだから、とうとう俺も折れた。机に左腕で抑えてた通知表を拓弥に渡した。
「最初からそうしてくれりゃあいいのによー。さてさてー……」
「お、おぉ……」
「これは…」
言葉の通り。特に大してすごいわけでもやばいものでもない。
十段階評価で殆どは7。比較的得意な数学と選択の美術が8。少々苦手な古典が6だ。
課題や提出物はちゃんとこなしていたし、テストも赤点はゼロ。古典が赤点ギリギリなくらいがあったところ。
「普通にいい成績してるし……」
「何が違うんだよ。俺らと……」
「変わったことなんか何もしちゃいない」
「案外パッとしないとこあるから私と同じようなもんかと思ったんだがなー」
「勝手に同類扱いするなよ」
察するに、堂口はあまり振るわなかったのだろうか。他人の成績に興味ないから聞かないが。
「架谷くんって、ムラなくバランスよくって感じだよね。私理科全般低かった……」
「隙がない」
「何故あんたらまでいる」
気がつけば橋本と谷内がいて、少し後ろには凛と黒羽もいた。
「なんかわやわやとしてたから気になって」
「私は桐華さんについて行きまして」
「私は凛に無理やり連れてこられましたが」
何かと、クラス内ではこのメンツで固まることが増えてきた。そして何かしら企むようにもなってきたとも言えよう。
「安定してるのっていいよねー」
「神奈はいいよなー英語10なんだろー。文系科目も軒並みいいしさー」
「そんなこと…」
「京子ちゃんも凄かったよー。国語どっちも10だった」
「マジかよ‼流石文学少女……」
「恥ずかしいので公に晒すようなことはしないでくれますか!」
俺の通知表から始まって、なんやかんやと個人の成績の話題になる。
私はこれがよかったあれはダメだった。その教科の成績いいのが羨ましい。これだけ人数があれば、皆違うことをいう。
「まぁまぁ。こういう頭痛くなりそうな話はやめに痛そうじゃないか」
「そうそう。夏休みなんだから勉強のことは忘れちまいたいんだよ」
「課題あること忘れるなよ……」
「現実に引きずり込もうとするなよお前」
いや事実を言ったですし。そのへん何もかも忘れてたら休み明けに泣くのはお前らだからな。
「せっかくの夏休みなんだからよーもっと有意義に過ごそうじゃないのー」
「おいなんだそのエロ親父みたいな指の動きは」
両手の指を器用にくねくね動かしながらニヤニヤ笑っている。
エロ親父って言うより、日常的に友人の胸揉んでそうなセクハラ痴女って言い直した方がいいだろうか。
「明莉。女の子なんだからそんな顔しない」
「そうそう。変に思われるよー」
橋本。谷内。弁護したつもりなんだろうが、俺にとっては軽く手遅れだ。
「ともあれ夏休みだ! 何をするよ!」
「そうそう。したいこと山ほどあるんだからさ!」
このあとは皆さんお待ちかね。夏休みプランの話題へと移った。




