料理の時間
買出し中に何があったのかは聞かないことにして。と言っても何となく想像がつく。
凛が顔を赤くしてて、近くに文乃さんがいたんだ。きっとなにかお色気話でも聞かされたんだろう。堂口は……多分同じ理由ってことで。
今晩の献立だけど、カレーになった。人数もいるし、あまり大きな手間もかからないからいいだろう。
買出し班が戻ってきたあとは、ひとまずしばらくは休憩ってことでリビングにてテレビ見ながら過ごしていた。
凛達が戻ってから数分で那菜と谷内が二階から降りてきたんだけど、その後俺は那菜に呼ばれて軽く説教受ける羽目になった。
思うことはあるかって言われたけど、ただ一言。那菜に対して。
理不尽だな。
そう一言。
まだ五時過ぎたばっかで早いけど、夕飯の支度くらいはしようか。なんかこのまま行くとずるずる引き伸ばしになりそうだし。
早速台所に向かって作業を始めようとしたら、皆もわらわらと集まってきてな……
「てかお前ら……何も手伝ってくれなんて言わないからさ……客人は客人らしく、大人しくしてもらえっと助かる」
「そんなこと言わなくてもいいのにー。せっかくだから手伝わせてよー」
「台所に六人は流石に人数多いんだよ! 狭いんだって!」
ここはホテルの厨房じゃねぇんだぞ。一般家庭の台所なんだっての! そんな人が何人も右往左往できるような場所じゃねぇんだよ!
あれか? お悩み抱えた要リフォーム物件とかじゃねぇんだぞここは! それみたく思えてくるからどうにかしてくれ! あでも匠の出る幕はないですから。
「凜。このままやっててもやりづらくて仕方ない。野菜切るの向こうのテーブルでやって貰えないか?」
「わかりました。そうですね。あちらの方が広いですから」
「確かにそうだねー」
「なー」
ひとまず凛と数名はわらわらと台所から離れていってはくれたんだけど、そうしてくれない人が一人いました。
「あのー……文乃さん? こっちは俺一人で事足りてるんで、大丈夫ですからね?」
「えー。私は祐真君の近くに……」
「米を磨ぐのに二人もいらないでしょうが」
「いけずぅ……」
そう言いたいのはこっちの方なんだよ。まぁひとまず離れてはくれたからいいか。
ちらっとリビングの方に視線を向けてみれば、凛が野菜の下処理をしているところだ。
「すっげぇ。さっきまで玉ねぎだったものがあったいう間にみじん切りに……あやっべぇ涙出てきたティッシュくれティッシュ」
「凄い早い……」
早速凛の料理スキルが披露される。玉ねぎをひとつ取り出すと、素早く皮をむいてみじん切りにしていく。
ここまでの一連の流れ。俺の体内時計で一分半。
「実家ではよく家事をしていたので、これくらいは」
「嫁スキルが違いすぎる……」
「嫁?」
「だってこんなに料理が上手で、それだけじゃなく家事全般もこなせて……。そうと言うしかないよ!」
「いえいえ。そんなことは……」
「凛ならいいお嫁さんになれる」
「ということでご指導お願いしまーす」
向こうは向こうで、凛から料理のこと色々学ぼうとしているみたいだけど、当人のレベルの高さに感嘆しているよ。
橋本と谷内に関しては、調理実習で同じ班になったことあるから見ていたけど、簡単なこととはいえ十分こなせていたと思うんだけどな……
「なぁー架谷ー」
「んーなんだぁー?」
米を磨いでいるところに堂口が話しかけてきた。これ以上俺の事を悩ませてくれるような話題でないことを祈りたいもんだ。
「架谷としてはさー。どういうやつと結婚したいとかあんのかー?」
「何故今そんなことを聞くー」
「うるせー答えやがれー」
「断る」
「連れねヤローだー」
「なんとでも思えー」
相手の話し方に同調するような話し方で返事をする。何をするにしたって俺には息をつかせてくれる暇さえ与えてやくれないらしい。
でもってその質問に答える道理はない。急に聞かれたところで答えなんか出やしないのだ。それに答えたら答えたで、なんか別の議論が開催されそうな気がします。
「明莉さん。今は料理の方に集中しましょう?」
「仕方ねぇなー。でもって……こんな感じか! こんな感じか?」
「明莉さん……左手丸めないと指切っちゃいますよ……」
「そうだよー。こうやって猫の手で……」
「こう」
「あんたらがやると凄い可愛く見えるな。写メ撮っていいか」
「明莉。真面目にやる。怪我するよ」
「心配すんな……あだっ!?」
「言わんこっちゃない……架谷くん! 救急箱どこー!」
「向こうの戸棚の……って俺今動けねぇから那菜持ってきてくれないか!」
「あーい」
学校の外でも騒がしいことには変わらないみたいだけど。まぁ邪魔が入らなくなったから良しとしましょうか。
向こうは堂口が怪我するというアクシデントもあったが、その他については特に問題はなく。思いのほか時間こそかかりはしたけど料理は完成しましたよっと。




