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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
知らないとこでも騒がしく
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家での時間

 何をどうしたらこんなことになると言うのか。家事を頼まれたとはいえ、家の中で過ごす穏やかな休日になると思ってはいたんだが。

 まったく。神様はどうしたら今日この日という運命をこんな風に革命できるというのか。


 しかし決まったことをどうこう言っても仕方がないというのは分かっているのよ。

 そんなことを考えながら俺は一人、浴槽を磨いていた。



 三十分経っても分担さえ決まらないんだから、俺も我慢の限界が来た。何したら三十分もかかる。


 俺と那菜の他二人は橋本と谷内になった。どちらかと言えば大人しい方が残ってくれたことはありがたい。

 文乃さんは作業ほっぽいて俺にくっついてきそうだし、堂口は……五月蝿そう。


 指示を出しながらって言ったけど、風呂場もやらなきゃならんから俺か那菜のどっちかはそっちで。

 でもって那菜のやつがそっちを嫌だというので、俺が風呂掃除をやることに。那菜には橋本と谷内を任せておくことに。もちろんこっちが終わったら俺もそっちの手助けには行くつもりではあるんだが……


「架谷くんごめん。トイレどこかな?」

「それならここ戻ったとこ左だ」

「ありがとう」

「……」


 これで何度目だ。記憶が合ってりゃもう四回目だ。

 なにかことある度に俺のいる風呂場に来ては、こうしてあれはなんだこれはどうしたらと聞きに来る。

 なんの為に那菜に頼んだんだか。これじゃあ分担した意味が無くなるだろうが。


 本当に困ったものである。今いる風呂場を除いても、頼んだところなんてリビングと台所くらいなんだけどな。

 てかそれだったらなおさら俺を頼る理由なんかないだろうが!リビングに那菜が居るだろ、台所からでも見えるだろうが!


 あーもうヤダ。こうしてグチグチ考えてても作業が進む気がしねぇや。無心になって作業が進めよう。集中してやりゃ三十分で終わるんだからさ。そうだ。だから……


「架谷」

「……どうした」


 本日これで五回目。今度は谷内が現れた。


「雑巾を探しに来たんだけど、どこにあるかわからなくて」

「あれ? 予備なかったっけ? ちょっと待ってろ……」


 ようやく真っ当な理由でここに来てくれたよ。内心ホッとしてる。これまでの理由。トイレの場所とかわざわざ俺のとこまで来なくても済むような要件ばっかだったし。

 風呂場から出て脱衣所の棚の中をまさぐっていき、しまわれた未開封のものを彼女に渡した。


「ほら。これ使え」

「あ。ありがと。……」

「なんだ? まだ探してるものあるのか?」

「あの……その……」


 図書館でのあの時見たく、俺の前で突っ立ったまま動こうとしない。でもって顔を赤くしている。


「えっとその……架谷は」

「や、谷内さん?」



「神奈さーん。雑巾見つかりましたか……」

「あ」「……‼」


 三人。同時に固まる。昼ドラの不倫の目撃現場の如く。


「なにしてんのバカ兄……」

「変なことはしてないからな! 谷内に雑巾の仕舞場所教えてただけだからな!」

「ならなーんで面と向かいあったまま突っ立ってるわけ?」

「いやその……なんでもないの! なんでもないの那菜ちゃん!」

「いや……え? だって…」


 妹の言葉を聞き入れることも無く、谷内の口は忙しなく動き続ける。


「なんでもないから! ほら! 雑巾見つけてきたから早く戻ろう! ね。ね!」

「え? あ。ちょ…神奈さん? あの……」


 俺とそのあとは何一つ話すことなく脱衣所から離れていった。

 前もそうだったけど、谷内って普段は大人しくて口数少ないのに、パニックになると人が変わるんだよな。誰しもそうかもしれないだろうけど、彼女の場合、普段とそうでない時の差が激しいのだ。






 そのあとは特に誰が押しかけてくることも無く風呂掃除も終了。

 飲み物が欲しくなったのでいったんリビングにやってくると、橋本がソファーに座って休んでいた。


「なんだ。そっちはもう終わったのか?」

「あぁ架谷くん。うんそうだよ。三人いたから思いのほか早く終わったんだ」

「そうか。てか那菜と谷内はどうしたんだ」

「それがね……なんかさっき二階の方に行ったまま戻ってこないんだよ。桐華さんは来ちゃダメ! って那菜ちゃん言うから一人で待ってたのに……遅いよぉ……」


 多分だけど、さっきの事だよな。取り乱していたとはいえ谷内の事だから、変なことは言わないと思う。俺もこれ以上あれこれ言うのはやめとこう。


「凛ちゃん達もまだ戻ってきてないみたいだから退屈でねー。架谷くんー話し相手になってよー」

「わかったわかった。俺も自分の担当は終わったとこだから」


 冷蔵庫から麦茶を取り出して、二人分コップに注いでやる。そろそろ無くなりそうだから新しいのを作っておいた方が良さそうだな。

 薬缶にお湯を入れ沸かしておく事にして、コップを持ってリビングに。


「ほいよ」

「あっ、ありがと」


 コップをひとつ、テーブルの彼女が座ってる前に起き、俺もソファーに腰を下ろす。

 近くにあったクッションに手を伸ばして見るとある変化が。


「あれ? 所々補修してある」

「暇だったから直しておいたの。那菜ちゃんに聞いて、裁縫道具といらない布キレないか聞いたの」


 テーブルには、お土産のクッキーの入っていた容器を再利用した裁縫道具が置かれていた。


「凄いな! ここまでできるの」

「これくらいおちゃのこさいさいってものだよ」

「裁縫得意なのか?」

「自分でコスプレ衣装作ることもよくあるから」


 そういやコスプレ好きで、前に衣装も時々自作してるって言ってたな。衣装作れるくらいだから、この程度の補修は朝飯前か。


「あっそうだ! 是非とも架谷くんに着てもらいたいものとか沢山あるんだ!」


 橋本は自分のスマホに手を伸ばすと、ポチポチっ取操作してから画面を見せてきた。


「これは……燕尾服か?」

「そうそう……あとはねー」


 しゃしゃっと画面をスライドして写真を切り替えていく。あとはなんかの戦闘服に……袴?


「色々あるんだな……」

「でしょー! 先のことにはなるけど、文化祭もあるからその時にもなーって」

「ホントに先のことだな。まだ何やるかも決まってないのに」

「私の趣味が活かせたらなーって」


 その話題について色々と話していた。てかちょっと待て。なんか、近づいて来てません?

 最初俺は四十センチくらいは離れて座っていたはずなのに、気がついた時にはもうその距離十センチくらいになってるし。



 リビングにて橋本と話していたら、買い出し組が帰って来たようだ。玄関のドアの開く音と、文乃さんの声が聞こえた。


「ただいま戻りましたー」

「お疲れさま……って」



「なんで二人共、そんなに顔赤いんだ?」

「いえ……なにも変わったことは…」

「ちょっと、走ってきただけだからな! 気にするな!」

「いやいや……」

「顔赤いのと関係あるのかな……」


 どういうわけだか知らないが、凛と堂口の顔は熟れたトマトのように赤くなっていた。凛に至ってはなんか煙出てるようにも思えるし。

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