妖しい存在
「今日は面白いお話が聞けましたね。祐真さん」
「そうだな。何かと騒がしい人達ばかりだったけどな」
茶会を終えた俺たち三人は、そのまま生徒玄関に向かって歩いていた。
結局日が暮れることに気がつくまで話し込んでいた。時間が経っていることにさえ気が付かないくらいに。
「てかどうしたんだ黒羽。さっきからずっと黙り込んでるみたいだけど」
「え。あぁすみません。少し考え事をしていたもので。大したことではないので、お気になさらず」
「あ。そっか」
そういえば黒羽は口数が少なかった。まぁいつもの事なんだけど。
最近は凛と仲良くなったのか、あの橋本らのグループに混じっている機会も増えてきたけど、コミュニケーションはまだまだ慣れないらしい。
「もうすぐ試験もありますから。そちらの方を」
「げ……そういやそうだった。出来れば思い出したくなかった……」
「何か不安要素があるんですか?」
「赤点になるほどヤバいって教科はないけどさ、それでも古典とか英語が俺は得意じゃないんだ」
「私も英語は得意ではないですね……」
「やっぱり黒羽は真面目なんだな。もう試験のこと頭に考えてるとか」
「学生という立場なんですから、それが普通なのでは?」
「「……」」
言葉も出ねえ。って言うか意識たけぇ……
「えぇと……? 私なにかおかしいこと言いましたか?」
「いやいや。そんなことは断じてない。そこまで考えるあたり、黒羽はすげぇなぁーって思ったんだ」
「うん。私こっちに来てからそんなこと考えたの一度もなかった……」
「?」
それでも変わらず。黒羽は首を傾げてキョトンとしたことをしていた。
凛に似て天然なのか。それともこちらの世界に無知なだけなのか。理由はつゆ知らずだ。
お夕飯と入浴を済ませたあとは、自分の部屋で学校から出された課題を進めながら、少し考え事をしていました。もちろん今日の放課後にあったことについてです。
夢咲さんもそうですが、他の方たちも面白い人達ばかりでした。でも何処か不思議なところがあるのです。
祐真さん達とは違っていて、それでいて京子ちゃんとも違う。一体何なのでしょうか。私がこれまで触れたことも見たことも感じたこともなかったそんなもの。
最近は考えなきゃいけないことが沢山あるように感じます。
それにしても……
「英語って言うのは、やっぱり難しいものです……」
それは私にとっては未知の言語だ。今手をつけている課題というのがまさにそれと言うやつなのです。
もうすぐ試験が近いというので、赤点回避……いや、何とか平均点は取るつもりで頑張らないと。
出雲様にも、こちらに来る前に言われました。「そちらの世界で勉学に励む以上は、何事も疎かにすることはなかれよ」って。
古典と数学。あと体育は好きなんだけどなぁ……。この英語とやらを覚えるのは、任務以上に大変な気がしてきます。
神奈さんが英語が得意だというお話を以前に桐華からお伺いしましたので、今度頼ってみることにしましょうか。
もしかしたら、京子ちゃんも同じだったりするのかな? こっちに来てから、そういうことで苦労したのかな?
ふと京子ちゃんのことを考えていたら、私のスマホに着信が入ってきました。こちらに来た際に、出雲様から手配していただいたものです。
電話が来て、相手は京子ちゃんでした。
「もしもし?」
『あぁ凛さん。夜分遅くにすみません』
「いいのいいの。どうしたの?」
『……お話したいことがありますので、今から出られませんか?』
「問題ないけど…」
『ありがとうございます。メッセージを送りますので、その場所に来て貰えませんか。もちろん貴方一人で』
京子ちゃんに言われて来た場所は、祐真さんのご自宅から歩いて十分ほどの場所にあったアパートでした。
「すみませんね。急にお呼び立てして話す内容が色々ありますので……。そちらは架谷さんの御家族もいらっしゃいますから、なるべく他の人には聞かれたくなかったんです」
「いいのいいの。抜け出すのは慣れてるから」
「…まぁここで話すのもあれですから、続きは中でしましょう」
京子ちゃんに連れられてアパートの一室に通されました。ここが京子ちゃんの住んでいるところ…なのかな?
緑茶を出してもらって、京子ちゃんの話を聞くことにした。
「此処に一人で住んでるの?」
「そうですね。私は貴女とは違いますからね。ともかく本題に入ってもいいかしら」
「大丈夫だよ」
「あのオカルト研究同好会。私は怪しいと踏んでいるのだけど、貴女はどうかしら」
やっぱり。……京子ちゃんも私と同じことを考えていたんだ。
「私も京子ちゃんと同じ。メンバーの皆さんから、祐真さんとは違うものを感じました」
「そうですか。私は以前に御領主様からそのような話をお聞きしていまして。この辺りにそのような存在が居るのではないかと言うことを」
「うん。私もこの前出雲様に会った時に言われたんだ。警戒しておけって」
「そちらもご対応は早いようでして」
「何か見通しはあるの?」
「私は詳しくは分からないのですが、御領主様は魔族の存在を疑っていました」
「魔族……私は見たことはないかな。村から出ることがなかったから」
「あとから聞きましたが、あの狐の里と言うのは余程のことがない限りは外から誰かしらが来ることはないと聞きましたからね。私はそのような存在には何度かお目にしたことはありますが」
「そうなんだ。それでどうなの? 魔族っていうのは?」
「私にはなんとも。見たとは言っても言葉通りのものになりますので、向こうにいた時に実際近くでどうこうした。という訳でもないのです」
「そ、そうなんだ……」
妖である私たちにとっては、魔族というのはあまり関わりがないのだ。険悪という訳では無いんだけどね。純粋にそういう機会が少ないだけ。
「もし、あの人たちがそうだったとしたら……少し注意した方がいいかもしれません。こちらなので派手なことはしないとは思いますが」
「そうだね」
「それに向こうが、こちらの素性に気がついている可能性だってあります。気を抜かないように」
「そうだね。だとしても、あの人たちのことを少し偵察してみるのも悪くないかも」
「そうですね」




